随分遅くなってしまったが、今年もよろしくお願いいたします。
さてさて、2008年も我がブログは鬼太郎三昧…になるだろうと言うことで、新年一発目は鬼太郎の話題。
と言っても5期鬼太郎ではなく、去年DVDが発売された4期DVDの話である。
鬼太郎DVD−BOXのブックレットは毎回異常なまでの情報量を誇っているのだが、今回はやはり一番新しいシリーズだからか、死霊やスタッフインタビューの数も尋常ではないものになっており、一冊の本として売り出せるほどに、密度の濃い内容になっている。
そんな中から個人的にちょっと気になった部分をピックアップしてみてみようとおもう。
まずは最初に載ってる京極夏彦氏のインタビュー。
京極氏と言えば4期では101話「言霊使いの罠!」の脚本、ゲストキャラ・一刻堂のキャラデザ、さらには声優まで担当した方である。
当時から「自分が声優までやるとは考えていなかった」とおっしゃっていたが、ここでもしきりにそのことを連発していたが、さすが生粋の鬼太郎ファンだけあって、鬼太郎ふぁみりーのみならず、祐子など当初のレギュラーキャラや、ぬらりひょんなどの悪役レギュラーまでも過不足なく描写すると言う、そのサービス精神は見事だった。
ぬらりひょんは本来、その前の話にあった妖怪王編で死ぬはずだったのだが、この京極氏の脚本に合わせて存命させたと言う話は、初耳だったので驚かされた。
そして最後の言葉。「今の子供たちが喜ぶような『鬼太郎』の新作をどんどん作って欲しいです。あ、オールドファンはもう観なくていいですよ(笑)。」
前後の文章がないのでわかりにくいと思うが、要は鬼太郎と言う作品はその時代時代の子供たちのために作られるものだから、オールドファンは最新版にこだわらなくとも、過去作のDVDだけ見てればいいし、それでも見たい人は最新版を見ればいい、ということである。
実に的を射た意見である。やはり「鬼太郎」というアニメ作品にとって、過去作品との比較などは無意味、と言うことなのだろう。「鬼太郎」というアニメは古参ファンのためにではなく、今を生きている、過去の鬼太郎を知らない子供たちのために作られているのだから。
ブックレットには当時のテレビマガジンに掲載されていた記事なども紹介しているのだが、4期版のキャラデザがまだ不明瞭だった時期に、3期版のイラストを使って記事を構成していた点には驚かされた…と言うか、昔から何も変わってないんだなあと感慨深くなってしまった。
仮面ライダーV3とか仮面ライダーXの紹介記事組んでた頃から変わってないんだな、この性急な記事の組み方(笑)。
本編あらすじ紹介と共に紹介されるのは、それぞれの作品に携わってきた演出家のインタビュー。同時に当時の「アニメージュ」に掲載されていた清水慎司、蛭田成一両プロデューサーのエッセイまで完全再録されており、まさに当時を懐かしむにはもってこいの一品だ。
今ではアニメージュにもなくなってしまったが、このエッセイは意外と貴重な情報が紹介されることも多く、例えば後期ED「イヤンなっちゃう節」での鬼太郎たちの妙な踊りを考案したのが、別スタジオで「金田一少年の事件簿」のアフレコをしていた松野太紀氏だと公の記事で紹介されたのは、このエッセイが最初なのである。
それはさておきスタッフの話。僕としてはやはり聴きたかったのは24話「怪談!妖怪陰摩羅鬼」を担当された佐藤順一氏の話。4期を見たことのある人なら大概は「好き」と答えるであろう、4期を代表する名編なのだが、佐藤氏本人は「消化不良に終わってしまった」と振り返っていたので、ちょっと驚いた。やはり作る側と見る側とでは作品に対する捉え方も異なってくるんだね。
後はアニメ版では史上初めて「鬼太郎の誕生シーン」を描いたことで有名な78話「ぬらりひょんと蛇骨婆」も、本人は苦戦しながら作り上げたことを述懐している。まあ僕も見ていた当時、あの不気味な雰囲気にぬらりひょんはそぐわないんじゃないかなあと思って射たのだけども。
反面、51話「雪コンコン!傘地蔵」では、話の内容云々ではなく、空気感みたいなものを目指してみたと振り返っており、感情を抑えた空気感を作品に漂わせるやり方が、後の「ARIA」シリーズにつながるのかなあ、などとも思ってしまった。
他にも30話「妖花!夏の日の記憶」を担当した明比正行氏が、ご自身の戦時中の体験を下に冒頭のカットを作り出したこと、79話「襲来!中国妖怪」でチーがかかと落としをしたのは、担当である川田武範氏の趣味だったこと、「言霊使いの罠!」では、担当の角銅博之氏が京極氏もファンである必殺シリーズのイメージを重ねたことなど、色々な話を知ることが出来て、当時の現場の雰囲気や各演出家の「鬼太郎」に対する思いや考え方を知ることが出来て、非常に濃い内容に仕上がっている。
(ちなみに角銅氏ご自身も必殺シリーズのファンであり、冒頭、障子越しにぬらりひょんのくわえた煙管の火がぼうっと見え、その次に障子の向こうからタバコの紫煙のみがゆらゆらと立ち上り、最後に加えた煙管からゆっくりと姿を見せるぬらりひょんの構図は、「助け人走る」の辻平内をモチーフにしている。)
本作で演出デビューを果たした細田守氏の初々しい話(最初に担当した94話「鬼太郎魚と置いてけ堀」のシナリオ会議では、自分の意見をほとんど主張できずに終わった)も聴くことが出来、細田作品のファンからみても結構貴重なのではないかと。
4期の前半を担当された清水プロデューサーの「3期と同じ路線では、原作から見たら『孫』になってしまう。僕はやはり水木さんの直接の『子供』でありたかった」という言葉には、4期スタッフ全体の気概を感じることが出来る。
いや、5期のスタッフだって、歴代のスタッフだってこういう気概は持っているだろう。つくづく「鬼太郎」という作品は恵まれていると思わざるを得ない。
そしてこのブックレットの中で一番印象深かったのは、読売広告社プロデューサーだった木村京太郎氏の
「キーワードは『はい、父さん』。一緒にテレビを観てる親の世代にとって、何よりも気持ちのいい言葉なんです。育ちの良さが感じられてね。これだけは絶対外さないでくれって、言い続けているんですよ。」という言葉。
このキーワードはかなり重要である。原作の鬼太郎は実はそれほど優等生と言うわけではなく、父親の言うことに素直に従わない、現代っ子らしいドライさを見せることもままある。しかしアニメの鬼太郎は基本的に父親をとても大事にする優しい少年である。このスタンスだけは歴代すべての作品に共通する大事な事項と言ってもいい。どんなに中身が変わっても、子が親を敬い、親が子を想う、その感情のやり取りだけは絶対に失われることはない。それを象徴しているのが「はい、父さん」なわけだ。
この「キーワード」が存在しているからこそ、アニメの鬼太郎は原作とは別個の存在となり、そしていつの時代でも愛されるキャラクターとして成立するのだろう。
このブックレット、まだまだ紹介したい部分はたくさんあるのだが、逐一紹介していったら全ページ分を紹介する羽目になってしまいそうなので、この辺でやめておくことにする。
DVD自体は「風雲!妖怪城」や「鬼太郎とコピー妖怪」が入っていなかったり(これは事情が事情なのでやむをえないだろうけど)、新番予告が入っていなかったりと、若干の不満点もあるのだが、それを補って余りある高密度な内容であることは論を持たない。
すべての4期鬼太郎ファンにとって待望のアイテムであったDVD−BOX。もう少しこの中身の濃さに酔いしれることにしよう。