これまた書くのがだいぶ遅れてしまったけども、仕事人2007の感想である。
一時代劇として感想を書くべきなのか、「必殺シリーズ」の一作品として見るべきなのか難しいところなのだが、とりあえずは思いつくところから書いてみるか。
ちなみに登場人物の名前は主水関連以外は役者名で書きます。つーか
覚えてられるか。
1つの話として見てみた場合なんだけど、これはあまりにもボリューム不足。地上げ屋がどうのなんて話ははっきり言って一時間程度で終わらせられる程度の盛り込みしかなされておらず、その癖地上げ屋たちは単なる地上げ屋に過ぎないのに、平然と人殺しまでするような「わかりやすい悪党」に仕立ててしまっており、インパクト重視、脚本軽視の風潮が垣間見える構成になっていた。
松岡と女忍者のやり取りも完全に蛇足になっており、話にまったく絡んでいないから始末が悪い。これなら普通にその女忍者が地上げ屋の悪巧みに絡んでいた方がマシだった。
二つの話が完全に遊離してしまってリンクしていないから、散漫というよりはどっちを見ても中途半端な印象を与えてしまう。
せっかくのスペシャルなのだから、余計な挿話など挟まずに本筋だけをひたすら追う話にすればよかったものを、変に欲を出すから支離滅裂な内容になってしまった。
中盤で自殺する女もさっさと殺されてしまえばいいものを、映画「三味線屋勇次」の阿部寛みたいに捨てゼリフを延々と喋くって自殺するあたり、テンポが悪い。
やはりあそこでは悪党が女を散々嬲って慰んだ後、ズタズタに斬り殺すという流れにすべきだろう(笑)。
と言うか、今回の話は全般的に悪党に対する仕事人側、さらに言えば視聴者側のテンションの上げ方がへたくそすぎる。
土地の地上げにしてみたところで、仕事の一環として淡々とこなしているだけだから、どうにも見ていて「このクソども、絶対生かしちゃおけねえよ!」というような感情移入をすることが出来ないのだ。
そのあたりは多少過剰になっても構わないから、もっと煽りまくってヴォルテージを高めて欲しかったと思う。
そうでなければクライマックスの仕置が単なる「強者の弱者いじめ」で終わってしまうからだ。
元々仕事人というものは「悪党の上を行く悪党」が、その超人的な能力で標的を殺すというスタイルなわけだから、始めから優位の立場にいるわけだ。
それをそのまま見せているだけでは、単なる弱いものいじめに出してしまう。だからこそ標的となる悪党には、「こういうひどい殺され方をされても当然」と思わせるような見せ方が必要になるし、そう思われるような行為をさせなければならない。それが絶対的に不足していた。
挙句の果てには松岡の仕置シーンの直後にラブコメシーンを挿入したりして、わずかに高揚しつつあった気分もあっという間に急降下。
仕置シーンはいかにして見ている人のテンションをあげるか、その手腕が問われる最大の見せ場なのに、その大事なシーンをわざわざぶつ切りにした挙句にテンションを下げてどうするんだ。
松岡重視、ジャニーズ重視としか取れない演出方針が鼻についた。はっきり言ってこれは不愉快としか言いようがない。
映像はやっぱりフィルム撮影じゃないからきつかったね。
フィルムは明暗のコントラストをくっきり示すからメリハリの利いた画作りがしやすいのだけど、今回のような作りだと画が鮮明になりすぎて、くっきりとした陰影を表現しづらくなってしまうのだ。
「光と影の映像美」として賞賛された必殺シリーズとしては、この変更はあまりにもデメリットが大きすぎた。
要となる役者陣は、正直な話どいつもこいつもひどいものだった。
ヒガシのキャラは結局最後までどういうキャラなのかがまったくわからずに終わったのが、何よりも痛い。
主水のような昼行灯ではないようだが、だからと言って職務に真面目に取り組んでいるわけでもない。
奉行所内でどのような扱いなのかもまったく描かれていないから、使い古された言い方をすれば「キャラに血肉がこもっていない」と言うことになるのだろうか。
まだ始末人3で味のあるシーンを見せた田原のトシちゃんの方がマシだ。
松岡に至っては表稼業が何なのかすらよくわかんなかったぞ(笑)。と言うか表稼業をきちんと見せていたのって、あのからくり人形技師だけじゃなかったか?
声は無理に作ってるし、前期シリーズにリスペクトしているのかは知らないが、やたら飯を食うシーンを挿入するし、言動も行動もはっきり言ってただのバカにしか見えなかった。とてもじゃないが裏稼業に生きるような人間にはなっていない。
殺し技の「毒」ってのもね。ああまでギャグチックに描かれると逆にこちらが引いてしまうよ。人によってはああいうものをケレン味と言うかもしれないが、あれは単に見せ方が下手糞なだけだ。あれではお笑いにしかならん。
ぶっちゃけ物語自体にもほとんど絡まないくせに、やたらと出番が多かったので、かえって邪魔な存在になってしまった。
からくり職人は演技自体はあれだったけど、実は3人の新顔の中では一番まともだったのではないだろうか。旧仕事人初期の秀を髣髴とさせる演技だったし(笑)。
殺しの技も唐十郎みたいなもんだからあれはあれでいいのか。出来るならCGなど使わずに、カメラワークでからくりが自在に動く様を見せて欲しかったけども。
和久井は…。
昨日の読売新聞の投書に「和久井が良かった」と言うのがあったけど、あの和久井の演技で満足している人が「商売人」の草笛光子とか「旧仕事人」の山田五十鈴とかを見たら、あまりの演技に泡吹いてぶっ倒れるんじゃないだろうか。
ともかく無理をして演技しているのが見え見えで、見ているこっちがつらくなってしまった。
和久井はむしろおきんとかおていとか、あっちの鉄火肌の姉御を演じさせた方が良かったんじゃないだろうか。と言うか近年(と言うほど作られちゃいないけど)の必殺は、そういう女キャラが出てこないね。
「中村さん」なんてかしこまって話しかける女より、「よう、八丁堀!」と明るく話しかけるような女キャラを見たかったですなあ。
…そう言えば今回、誰も主水のことを「八丁堀」って呼んでなかったなあ。
主水についてはいうまでもありません。さすがに老いが前面に出てしまっていたとは言え、主水が出てくるだけで画面全体が引き締まるのは、さすがの貫禄と言うべきか。
奉行所でのシーンは山手中央署の刑事みたいな感じだったけど(笑)、仕事人としての会話をしているシーンではきちんと凄みを見せている。
仕置シーンでの目の鋭さも往時とほとんど変わっていないのには驚いた。
せんりつコンビも実年齢からは考えられないほど生き生きと演じており、「中村家ここにあり」と思わされる一幕だったと思う。
と言うか、仕事人Xあたりの頃はただウザイだけだった中村家コントのシーンが、今回では一服の清涼剤になっているのだから、時代は変わったものだ。
音楽は文句なく良かった。主水・非主水シリーズ問わず様々な歴代作品から流用された楽曲群があったからこそ、最後まで見ることが出来たと言ってもいいだろう。
提供テロップにだけ激闘編の曲を使ったりして、選曲には疑問も残るのだけど。
このスペシャル、視聴率は良かったようだけど、結局この作品はもう必殺ではないし、もう必殺という作品を作ることは出来ないんだろうね。
今回のスペシャルは平成ライダーみたいなもんで、シリーズ化すればそのうちファンもついてくるんじゃないのかね。
僕としてはもうどうでもいいが。