まだマガジン版「墓場の鬼太郎」となる以前、貸本時代に生み出された、様々な意味で独特の荒削りな空気を持つ作品を、21世紀の現代に如何様に再現するのか…?
今回の1話は「幽霊一家」「幽霊一家 墓場の鬼太郎」「地獄の片道切符」を折衷した話になっており、全体としてはサラリーマンの水木が幽霊族の夫婦と出会い、生れ落ちた鬼太郎を育て、やがて水木本人とその母親に不幸が訪れるまでを描いている。
そういう意味では特に問題のない流れではあるのだが、やはり3つの原作話を(それぞれの話で重複して描かれている部分があるにせよ)1つの話として25分の中にまとめるのはかなり難しかったようで、全体的に駆け足の構成になっている。
まあ100ページ近くある内容を1話分にまとめるのだし、こちらの鬼太郎は全11話と話数もかっちり決まっている関係上、止むを得ないことだとは思うのだけど、もうちょっと何とかして欲しかったかもしれない。
例えば冒頭の目玉が届けられるシーンは省いて、その分病院で出会う「幽霊的症状」の患者と出会うシーンの方に時間を割いたほうが、物語の導入としては効果的だったんじゃなかろうか。
ただ全体としては「墓場鬼太郎」の雰囲気が非常に良く出ていたと思う。原作漫画のカラー絵にあるような、要所要所にきつい原色が配色されているイメージや、原作でも時折出てくる目玉のアップなど、原作の雰囲気を極力再現しようと言う意気込みは十分に感じられる。
今「原色」と書いたが、作品全体のカラーイメージは暗めの色で統一されており(白黒と言うわけではない)、このあたりも漫画を意識した美術設定なのだろう。
キャラクターの方も原作どおり、妖怪である鬼太郎たちは漫画チックなデザインで、水木を始めとした人間たちは劇画調で描かれている。背景もかなり緻密に書かれており、単純化されたキャラクターとのアンバランスぶりを堪能することも出来る。
作画面においては特に問題はないと言えるだろう。
そしてやはり特筆すべきは、鬼太郎を演じる野沢雅子さんの演技だろう。
本人も「生まれた時の泣き声は『化け物』であることを強調するつもりで演じた」というようなことをおっしゃっていたが、確かに生まれた時の鬼太郎の泣き声は、一般的な赤ん坊のそれとはまったく異なる、狂気を孕んだものになっており(そしてもちろん赤ん坊らしさも感じさせる)、このあたりの演技は大ベテランならではのものと言えるだろう。
後は原作での印象的な鬼太郎の「ケケケケケ」という笑い声を、見事に声で表現していたのにも驚かされた。
目玉親父の声は、もはや切り離すことの出来ない間柄?となった田の中勇氏だが、今作では「〜じゃ」と言った年寄りじみた口調ではなく、原作どおりに普通の言葉遣いとなっていた。
ただ原作以上に「子を想う」描写が加えられていたが、ここらへんはむしろ良いアレンジだろう。親父そのものが、子供を想う親心そのものを具現化した存在といってもいいのだから、この程度の改変はあまり気にすることではないだろう。
原作と明確に違っていた点としては、病院の患者が幽霊的になってしまう原因が、鬼太郎の母親の売血行為ではなく、母親の霊力による影響になっていたことか。
血を売ると言う行為はともかく、その血を輸血したことで幽霊になってしまうと言う展開に問題があったのだろうか。
鬼太郎の左目が失われるシーンは、あえて直接的な描写を避けていたために、理由が若干不明瞭になってしまっていたのは残念でもある。
原作を活かすなら、元々隻眼と言う設定でも良かったかもしれないね。
あと、OPとEDは、ねえ…。OPは歌自体は個人の好みによって差が出るだろうから、別にどうでもいいのだけど、そのバックに原作のコマを使うのは、ちょっとどうなんだろう。
手法が安易に過ぎる気がするんだよな。原作のコマをほぼそのまま用いた画面を出せば、原作を知っているファンも喜ぶし、何より一からOPの画作りをする必要がないという、スタッフの消極的な打算が働いているように思えちゃって。
EDは完全に空気のようなものだから、別に腹も立たない代わりに、特に好意的な感想も抱かない。
次回はたぶん「下宿屋」と「あう時はいつも死人」から引っ張ってくるのかな。
ねずみ男の初登場回になるようだから、こちらも今から楽しみである。