2011年12月15日

アニメ版アイドルマスター23話「私」感想

 アニメ版アイドルマスターも残すところあと3話のみとなった。最後に彼女たちが迎える物語はどのようなものになるのか、とは以前にも書いたことであるが、その布石と呼ぶべきものは既に前回、22話の時点でいくつか打ち出されていた。
 そこから真っ先に浮かび上がってくる事実は、最後の物語の中心になる存在が天海春香であるということ。
 ゲーム版においてもその開発段階において一番最初に創造されたアイドルであり、他のすべてのアイドルたちの基礎となったキャラクターである。そう言う意味ではアイマス自体に「メインヒロイン」というカテゴリ自体は存在しないものの、アイマスという作品、ひいては登場する全アイドルを代表する存在と言っても過言ではない。
 そんな彼女だからこそ、彼女の迎える物語は彼女のみならずアニマスの作品世界そのものを締める存在として機能することは間違いない。
 しかし22話での様子を見る限り、その物語は春香にとってはかなり厳しいものになるであろうことも予想され、静かな終わりを迎えるというわけにはいかなそうであるが、さて。

 年が明けてからも春香たち765プロアイドルの忙しさは変わらないようで、春香も新年早々仕事に精を出していたが、その足取りがいつになく軽やかなのは、これから向かっている先に原因があるようだ。
 テレビ局からタクシーに乗って新宿へ向かう道すがら、そんな多忙によって得た彼女らの「成果」は、街のそこかしこで目に入るようになっていた。
 テレビ局の外壁に飾られた番組宣伝用の大きな看板のメインビジュアルを飾っているのは亜美と真美、カーラジオから流れてくるのは竜宮小町の「七彩ボタン」、春香の取り出した音楽雑誌で大きく特集されているのは千早であり、同じ雑誌に雪歩、響、やよいも特集記事が載り、大きなトラックのコンテナに貼られた広告は貴音のもの、街の大型ビジョンに流れるのは真がメインのCM、電気屋のテレビに映っているのは春香自身、ビルの看板に掲げられているのは美希のもの、といった具合である。
 トップアイドルとまではいかずとも、前話での真の感慨通り、全員が全員とも押しも押されぬ売れっ子アイドルになっている状態だ。
 全員のそんな状態を春香がどう受け止めているか、それは雑誌を読んでいる春香の嬉しそうな表情を見れば自明のことであろう。

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 そんな春香の向かった先は、春香たちが以前から使っているレッスンスタジオだった。春香たちはこれからここで、来るニューイヤーライブに向けての合同練習を開始するというわけである。
 22話でのクリスマスパーティの時と同じく、みんなと一緒にいられることを大事にする春香だからこそ、今回のこの練習を楽しみにしていたのだろう。春香のそんな喜びは、転びそうになってもすんでのところでどうにか踏みとどまる描写を用い、文字通り全身を使って表現されていた。
 先にレッスンスタジオに来ていたのは千早に雪歩、響にやよいの4人。しかしついて早々、雪歩から伊織たち竜宮小町は収録が押しているために来ることができないということを聞かされ、残念がる春香。
 千早のとりなしもあって今いるメンバーだけで練習しようと意欲を燃やすものの、今度は響とやよいが仕事の都合上、途中で抜けなければならないと告げてきたりと、どうにもままならない。
 2人にやる気がないわけではないというのは、すまなそうに謝る2人の姿を見ればすぐにわかることであるし、何より仕事の都合なのだからどうしようもないわけだが、それですぐに納得するには難しい問題でもある。殊に春香にとっては。

 とある夜の765プロ事務所。そこにただ1人いたのは小鳥さんであったが、別に留守番をしているというわけではなく、むしろ電話対応に追われていた。
 一つの電話が終わればまた次の電話がかかってくる。忙しくなっていたのはアイドルやプロデューサーだけではなかったのである。
 その電話の内容も必ずしも喜ばしいものではなかった。もちろん仕事の話自体は事務所としても良いことではあるが、今現在のアイドルたちのスケジュールは完全に埋め尽くされてしまっており、新たな仕事を請け負うことさえできない状態になっていたのだ。

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 つい半年ほど前までは少ない仕事をこちらが探して回っていたのに、今は相手の方から持ち込まれる仕事をこちらの都合で断らなければならない。これも変化の一つではあるが、素直に喜べるかと言えば難しいことではあろう。
 そんな中に事務所へ戻ってきたのは春香だった。小鳥さんの仕事を断る旨の返事を聞きながら、給湯室や机の上に置かれたままになっている、それぞれのアイドルに贈られてきたファンからのプレゼントが入った段ボール箱を見やる春香。
 ファンからの贈り物は無論嬉しいことであるが、14話のようにそれらを自分たちの手で一つ一つ取り出し、中身を見るような暇も今はもうなくなってしまった。それらのプレゼントが、いつもならアイドルのうち誰かが使っていたであろう椅子や机の上に置かれてしまっているというのが、今の事務所内の状態を何より饒舌に物語っている。
 そんな状況に春香が何かしらの感慨を抱かないはずもないのだが、春香は何も言わず、プレゼントのクマのぬいぐるみを抱いて明るく挨拶をする。この後の予定はないものの、事務所に戻ってこないと1日が終わった気がしないという春香であるが、その顔はどこか浮かない。
 そんな春香にココアを差し入れながら、自分のスケジュールのことを踏まえた上で、体を休めるためにも無理せず家に帰っていいと、やんわりアドバイスする小鳥さん。春香のことを心配しているからこその言葉ではあるが、同時に「戻ってきてくれること自体は嬉しい」と、春香の行動そのものは否定せずに受け入れるあたりに、小鳥さんの優しい気遣いが感じられる。
 そんな小鳥さんから今日事務所に顔を見せたアイドルが自分だけであるということを聞かされても、春香はあまり表情を崩さない。以前であれば誰かしらいるであろうアイドルたちのおかげでにぎやかになっていたはずの事務所も、今は静か。いつも誰かしらが立っていたはずの事務所の床も、今日はいつになくはっきりと自己主張し、春香はその片隅でココアを飲んでいる体だ。
 居慣れた場所の見慣れない光景。それを目の当たりにした今の春香の胸中にはどんな思いが渦巻いているのだろう。
 そんな時事務所に戻ってきたのはプロデューサーだった。彼の姿を見て顔をほころばせ、「お帰りなさい」と出迎える春香からは、今までとは打って変わった嬉しさが滲み出ているようだ。

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 プロデューサーから何か変わったことはなかったかと問われ、「今日は一回も転ばなかった」と返したのも、もしかしたらプロデューサーが「仕事の上で変わったことがあったか」と問うていたのかもしれず、そうであるなら何とも的外れな、アイドルとしての返事ではなかったろう。が、それは紛れもなく春香とプロデューサーのいつもの、彼女が普段から馴れ親しんだ言葉のやり取りであったことも間違いないのだ。
 そしてその春香の返答をプロデューサーが特に突っ込むこともせず受け止めていたところから考えるに、「仕事の上で」と「日常の中で」との、どちらの意味にも取れるような問い方をしていたのだろう。彼の器量も序盤の頃からは格段に大きくなっているのである。
 2人の会話に小鳥さんがさり気なく紛れ込んだのも、そんな2人のやり取りを盛り上げることで、少し浮かない風であった春香を元気づけようとしていたと取れなくもない。
 そんな春香へのご褒美と称してプロデューサーが取り出したのは、刷り上がったばかりの来るニューイヤーライブのパンフレットだった。
 ページを開いた先に見開きで掲載されていたのは、春香たち765プロアイドルの集合写真。プロデューサーが「自信作」と言うだけあって、各々の魅力がストレートに表現されている写真となっていた。全員がそこにあるからこそ発揮される、他には代えがたいもの。それは少しばかり気持ちの沈んでいた春香を元気づけるには十分なものでもあった。
 今はみんな忙しくて一緒になれる機会はなかなか作れないが、全員で力を合わせればきっと素晴らしいライブになると訴えるプロデューサーに、力強く同意する春香。みんなで共に歩んでいけば今度もきっとうまくいく。今までそうやって彼女たちは進んでこれたのだし、だからこそ今のこの結果もある。
 そのことを誰よりもよく知っているアイドルと、それを誰より近くでずっと見守ってきたプロデューサーだからこその強い決意であった。

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 いつもの調子に戻った春香はライブ成功のためには全員揃っての合同練習が必須と考え、自分からアイドルたちのスケジュール調整に乗り出した。
 撮影現場で、テレビ局の廊下で、ラジオのスタジオで、そして移動中の車の中で、夜遅くまでスケジュール合わせに奔走する春香。
 亜美真美がDLC衣装である「スクーリッシュガール」を着ていたり、テレビ局内に貼られているポスターがあずささんや10話で登場した新幹少女の番組であったり、その新幹少女の着ている衣装がこれまたDLC衣装である「マーチングバンド」に似通っていたりと、短い時間にやたらと小ネタが仕込まれているが、アイドルたちの多忙ぶりを表しているだけではなく、本編のストーリーそのものには余計なネタを挟む余裕すらないということを逆説的に示しているのかもしれない。

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 そして迎えた合同練習の当日。仕事が一段落してレッスンスタジオへ向かおうとする春香を、とあるスタッフが話をしたいと呼び止める。
 そんなに時間をかけないということであったが、春香は少し悩んだ末に合同練習の方を優先し、丁寧に謝ってその場を後にする。
 話の内容が仕事のことか否かは劇中では不明なままであるが、それでも実際に仕事の中で関わっているであろうスタッフのお呼びを断るというのは、はっきり言えばあまり好ましい行為ではない。だが春香はそれを承知した上で自分でセッティングした合同練習を優先したわけで、もちろんそれはみんなで一緒にライブを成功させるために頑張りたいという気持ちがあったからであろうし、言いだしっぺの自分が遅れるわけにはいかないという使命感めいたものもあったかもしれない。いずれにしても大変彼女らしい行為ではあるのだが、同時に多少の危うさを感じさせる行為でもあった。
 春香は駆け足でレッスンスタジオへと向かう。既に辺りがすっかり暗くなるような時間になっていたが、それでもいつものように明るく挨拶をしながらスタジオに入る春香。
 しかしそんな春香の挨拶に答える仲間たちは、以前と同じように少なかった。その場にいたのは千早に雪歩、そしてあずささんと真の4人のみ。伊織や響、亜美たちは仕事が長引いてしまったために、美希は搭乗していた飛行機の到着が遅れたために、それぞれ練習に参加することができなくなってしまっていたのだ。
 全員集まれないことを残念がる真や雪歩を鼓舞するように、ここにいるメンバーだけでも練習しようと春香は努めて明るくふるまう。それはいつもの春香であり765プロアイドルたちの光景には違いなかったが、準備をしながらも彼女が少し沈んだ面持ちを浮かべていることに、千早だけが気付いていた。

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 レッスンからの帰り道、疲れたように大きく伸びをする春香を案じる千早。春香は自分が担当しているラジオ番組の収録時間を、合同練習に参加できるように早朝にずらしていたのである。
 合同練習の予定を調整している時も、移動中の車の中で他のスタッフが眠っている中、眠らずにメールで連絡を取っている春香の姿があったが、これも恐らくは睡眠時間を削ってのことだったのだろう。
 一つの目的を達成するためには自分自身の労苦を厭わない。これは春香の美点の一つであるし、実際に春香はずっとそうやってアイドル活動に取り組んできたはずであるから、殊更今になって取り上げるようなことではないのかもしれない。
 しかしその時の千早にはそう思うことはできなかった。言葉にこそ出さないものの、そんな今の春香の姿に何かを感じたのは間違いない。
 だからこそ千早は春香に提案してきた。明日からの海外レコーディングの日程をずらしてもらうようプロデューサーに頼むことを。今の状態でライブに参加するのは自分が納得できないからと理由を述べるものの、本当の理由がそれとは別にあるであろうことは容易に察せられることである。
 だがもちろんそんな提案を春香が呑むはずはない。今度の海外レコーディングは千早の今後を左右するほどに大切な仕事であることを知っている春香ならば、いや春香だからこそそんな提案を受け入れるはずはなかったのだ。
 千早のそばに歩み寄った春香は千早の手を自分の両手でしっかりと握りしめ、「大丈夫」という言葉と笑顔とを千早に送る。2人とも言葉には出さなかったが、互いの気持ちはわかっていたのだ。千早は春香が無理をし始めていること、そして春香は千早がそんな自分を案じてくれていることを。
 千早の提案も実際には通るはずのない無茶なものであったことは明らかだが、それでも千早は言わずにはいられなかった。アイドルとしての立場を無視してでも、目の前で無理をしつつある大切な友人のために言わないわけにはいかなかったのだ。
 しかしそんな彼女の提案を春香は否定した。たとえ無理をしていても、それを千早が理解していたとしても、何よりもまず千早のことを考えて否定したのである。それは春香という少女が当然取るはずの行動でもあった。

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 春香を心配する千早と、そんな千早に心配させまいとする春香。こんな時において尚、自分のことより千早を案じることができるのが春香なのである。春香のそんな性格に自分自身がかつて救われたからこそ、彼女の言葉を最終的に千早が信じる気になったのだろう。そんな春香本来の性格ならばきっと大丈夫であろうと。春香のそばには彼女を誰よりしっかり支えることのできる人物がいるからという思いも、そこにはあったのかもしれない。
 お互いに本心を明かしたわけではないが、言葉にせずとも互いの気持ちを理解できている、強い絆で結ばれた2人。春香の「ちょっぴり寂しいけど」という言葉は、そんな絆の強さを自覚しているからこその、精一杯の甘えであったとも言えるだろう。
 春香はもちろんまだあきらめてはいない。しかし今日のレッスンを録画したビデオを見るその表情からは、少し重くなったであろう心の重さを感じさせる。千早に本心を吐露しなかったことは、果たして彼女にとって良い方向を指し示してくれるのだろうか。

 あくる朝、春香は新たに次の全体練習までの間、現場が一緒になった人が数人ずつでも集まって練習しようと提案する。
 これは春香個人の希望を抜きにしても良い提案であろう。全員が集まるライブなのだからいつまでもバラバラで練習しているのはあまりよろしいことではないわけで、無論スケジュール的な問題は山積みであろうが、プロデューサーではないアイドルという立場の春香の提案としては、最良に近いものと言えるのではないだろうか。
 しかしそんな提案もまた十分には生かされなかった。現場で一緒になった春香と真美は、同じく一緒になった響や貴音の仕事が終わるのを待っていたが、例によって長引いてしまい、どうしても練習に参加することができない。
 さらには一緒に待っていた真美もまた、仕事の都合でその場を離れなければならず、結局その日は練習することは叶わなかった。さらには次の日に予定していた全体練習も、どうしてもみんなの予定が合わず、結局中止することになってしまう。
 その知らせを聞いた春香の具体的な様子は描写されていない。既に誰もいなくなり暗くなったレッスンスタジオと、雨の降る中を事務所に向かって歩く春香の姿が遠景で映し出されるだけだ。
 春香は誰にも何も言わなかった。もちろんそれは何かを言える筋のことではないと、何より本人が理解しているからに他ならない。確かに練習に集まることはできなかった。しかしすまなそうに謝る響や、一緒にいられない寂しさを春香に抱きつくことで表現してきた真美に、何を言うことができるだろう。プロデューサーとして春香と同様に予定調整に奔走しているであろう律子に、何を言うことができたろうか。
 だがそれでも「仕方がない」と言い切ってすませるには、春香にとっては重すぎる現実であったのも間違いないことだろう。
 事務所に戻ってきた春香は、小鳥さんにプロデューサーの所在を聞く。そこに冒頭のような笑顔は浮かんでいない。
 プロデューサーは自分の席で電話中だった。どうやらニューイヤーライブに絡んだ内容の電話らしいが、それでも春香にジェスチャーで挨拶だけ交わすところは、相変わらずの細かい気遣いである。
 ライブも目の前に迫っているだけに、プロデューサーの言葉にも自然と熱がこもる。そんな中不意に飛び出してきた、彼の「みんなで作る765プロのライブ」という言葉に反応する春香。

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 それは春香にライブのパンフレットを渡した時のプロデューサーの言葉とほぼ同じ内容であっただけでなく、春香が理想とするライブそのものでもあった。
 春香の願う理想と同じ理想を持ち、ライブに取り組んでくれている人がすぐそばにいる。その事実が春香に目の前に横たわる厳しい現実に向かっていく力を与えてくれていた。
 いつもどおりの笑顔を作って決意を新たにする春香。しかし電話中のプロデューサーに遠慮したのか黙って事務所を出てしまい、プロデューサーとの話はなされないままだった。事務所に戻ってきた際、真っ先にプロデューサーの所在を尋ねたのは、彼に何かしらの話があったためであることは疑いない。それをしなかったのは、春香の理想とプロデューサーの理想が同じであることを改めて認識することができたから、自分の今の不安も自己完結できた、と思いこんだからではなかったか。
 しかしそれは「思いこみ」でしかないのも確かだった。春香の理想は本来彼女が以前から抱いていたそれとは微妙にずれが生じてきてしまっていたのである。プロデューサーと話をしていればそれに気づくことができたのかもしれないが、今となってはどうしようもない。
 その微妙なずれ、そしてより厳しくなっていく周囲の環境は、彼女をさらに苦しめることになってしまう。

 翌日、仕事場で昨日の練習に参加出来なかったことを謝る真を取りなした春香は、次の仕事が始まるまで少しでもライブの練習をしようと提案するが、真はライブよりまずは今これからの仕事に集中しようと切り出す。
 今日の仕事は雪歩をメインに据えた新曲「Little Match Girl」の初お披露目。前回の22話で雪歩自身が宣伝していた曲であり、初めて雪歩がセンターとして歌う歌でもあった。生放送でそんな重大な役目を担っただけに、雪歩もいつにないプレッシャーを感じている。そんな雪歩のためにも今はこの生放送を成功させることに集中しようと言うのだ。
 これは真の言うことが正しいと思われるが、同時に普段の春香であればそれに一も二もなく同意するであろうはずが、すぐに返事をしなかったところに、上述した「ずれ」の一端が垣間見える。今回の生放送はAパートで春香が断ったスタッフからの、仕事かどうかもわからない呼びかけとは根本的に異なる、明確に重要な内容の仕事なのだ。
 にもかかわらず春香は目の前の仕事より、その後に控えているライブのことを優先してしまった。それは彼女が平時とは僅かではあるが明らかに異なる精神状態にある証左と言える。
 そう、彼女の心の変化はごくわずかなものだった。センターに立ってLittle Match Girlを歌い踊る雪歩の背中を後ろから嬉しそうに笑顔で見つめている時も、お披露目が終わり感極まって春香に抱きつく雪歩を祝福する時も、その時の春香の気持ちに嘘がないのもまた事実だろう。

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 3話での夏祭りイベントでは春香と真、そしてプロデューサーに励まされてようやくステージに立つことができたほどのか弱かった雪歩が、その春香と真を連れセンターで堂々と大勢の前で新曲を披露するまでに心も体も成長を遂げた。春香がそれを喜ばないはずはないのだ。
 しかし同時にその時春香が抱いていた別の気持ちもまた、春香の本心であることには違いなかったのだろう。その一方の気持ちを春香は2人に明かすことはなく、2人もまた気づくことはなかった。

 場面は変わって「生っすか!?サンデー」の収録風景。海外に出向いている千早を「出張中」として、薄い板か紙のようなもので代用扱いしていたり、映像の向こうでも相変わらずの仲の良さを見せる真と雪歩の様子など、相変わらず和気藹々とした良い雰囲気で収録を締めることができたようだが、そんなみんなの様子を見つめる律子の表情はなぜか暗い。
 やがて収録は終了。一同もこの番組のみならず日ごろの激務が祟ってか、かなり疲れ気味のようだ。そんな中でもあずささんに甘えてくる亜美や、体力的に余裕のあるところを見せる響の描写あたりで個性を浮き立たせる見せ方は忘れていない。
 美希はその後もすぐに別の仕事が入っているようで、律子に急かされながらその場を後にする。今日も春香はライブに向けての練習を考えていたようだが、それはまたも叶いそうになかった。
 しかしそんな春香だけでなく、765プロアイドル全員にとって衝撃的な知らせが、律子よりもたらされる。彼女たち全員が協力して今まで作り上げてきた「生っすか!?サンデー」が打ち切られると言うのだ。
 思わず激昂するのが伊織であるというのも嬉しいキャラシフトだが、打ち切りの理由は視聴率不振などといったありふれたものではなかった。視聴率は良いし局側としても続けたい意向はあるのだが、多数の人気アイドルたちのスケジュールを日曜の夕方という特定の時間に縛り続けていることへの、他の番組からクレームが入ったというのである。
 確かに日曜日は休日でもあるから平日よりもアイドルたちの需要が重なることは容易に予測がつくし、「生っすか!?サンデー」はその名の通り生番組だから、実際には日曜のかなり早い時間帯からずっと拘束されていたことだろう。
 人気のある番組を人気であるが故に終了させなければならない。少し前であれば絶対に味わうことのなかったであろう苦いジレンマだが、アイドルたちは各々、そんな現実を出来る限り前向きに受け入れようとしていた。ただ1人を除いて。

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 仕事の上でも仲間たちと顔を合わせる機会が少なくなってきた中、毎週一度は必ず会える時、それがこの番組の収録の時だった。彼女がその時を心待ちにしていたということは、口数こそ少ないものの22話で千早に対して語っているところからも十分に察することができる。
 仲間たちとの繋がりを体感できた唯一と言っていいその「時」もしかし、完全に失われてしまうこととなった。
 そのことが春香の心にどれほどの喪失感を生じさせたか。それは楽屋での律子とのやり取りから容易に類推することができるだろう。
 律子が渡したミュージカルのスケジュール表は、立ち稽古が明日の20時からであることを示していたが、その時間は合同練習の予定を組んでいた時間でもあった。
 詰問する春香を「ライブもミュージカルもどちらも重要」と律子が諭すのは当然のことであるが、春香はそれに同意する態度を見せなかった。前回の22話から楽しみにし、やる気を見せていたミュージカルに対し、全力で取り組むいつもの姿勢を見せることができなくなってしまっていたのである。
 春香の心に生じた激しい喪失感は、本来の彼女であればするはずのない「仕事に序列をつける」行為をさせてしまう。それは真や雪歩との仕事をしていた時点でおぼろげながらも存在していた「ずれ」が、明確な形を成したことを意味していた。

 翌日、ミュージカルの練習に励む春香と美希。しかしそんな時でも時間を気にしてしまう春香の表情は、どこか虚ろだ。
 休憩時間に入っても春香のそんな態度は変わらない。とその時、少し離れた場所に美希が座ったのを認めた春香は、美希の隣に移動して話しかける。
 目立たない描写ではあるが、共に同じ現場で仕事に励む美希に対し、普段ならかけるであろうはずの労いの言葉が一切なかったり、美希のそばに移動する姿が見ようによっては「相手に擦り寄る」体になっていたあたり、見ている側の不安を煽る。
 「美希が一緒で良かった」との春香の呟きは、自分が不安定になっていることの自覚が少なからずあったからこそのものなのかもしれない。だが今の春香にとって仲間と一緒にいることは、必ずしも彼女の心を救うことにはならなかった。彼女自身の何気ない一言が、それを決定的にしてしまう。
 「どっちが主役になれるかわからないけど、一緒に頑張ろう」という春香の言葉は、それ自体はいかにも彼女らしい言葉である。だがその言葉に込められた彼女の本意は、普段の彼女のそれとは微妙に異なっていた。そのことを春香は美希の「絶対に主役をやりたい、『一緒に頑張る』というのは違うと思う」という言葉を受けることで、痛烈に思い知る結果となってしまった。

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 先程書いたことであるが、春香は自分の取り組んでいることに、序列や優先順位による差をつけることはしないが、同時に第三者から序列をつけられることも否定しない。彼女は目標に向かって努力することを何より大切にし、結果はそれに伴って自然についてくるものだという信念を持っている。
 これは13話でのライブにおいて、混乱し収拾がつかなくなりかけた他のアイドルたちに呼びかけた言葉や、12話で竜宮小町と他の9人との差について響から問われた時の前向きな回答などから、容易に読み取ることができよう。
 春香は別段無欲というわけではない。今回のミュージカルに関して言えば、当然主役になることを望むだろうし、事務所の仲間と主役の座を争うことを拒絶するほど潔癖な性格でもないのだ。春香としては「結果のために努力する」のではなく「努力した末に結果がつく」というスタンスなので、自分が努力してきた結果として得られるものに対しては、それほど貪欲な姿勢を示さないだけのことである。
 だがそれは普段の春香ならばの話であって、今の不安定な状態の春香はまた異なる思考の元に先述の言葉を述べていた。
 それは誰かと一緒にいたい、誰かと一緒に歩んでいきたいという単純な気持ち。しかしそこには平素の春香なら考慮の範疇に入れているであろう「結果」が組み込まれていなかった。彼女はただ仲間と一緒にいられることだけを望んでしまったのである。そしてそれはアイドルとしては不適当な望みでもあった。
 美希はそんな春香の胸中を見透かしたわけでは決してない。美希は美希で自分なりに考えていることをストレートに春香に伝えただけのことであり、そこに春香への他意は存在しないと言っていいだろう。
 美希は春香と違い「結果のために努力する」というスタンスであったことと、そんな彼女の姿勢に以前から全くぶれが存在していなかったことは、しかし結果として2人には不幸な偶然となってしまった。
 15話で春香本人が認めたとおり、美希は自分の姿勢や価値観がが全くぶれることなくアイドルとして成長していた。そんな美希に不安定な今の自分を否定されてしまったのだ。
 そしてそこにはもう一つ、大きな「不幸な偶然」も存在していたのであるが、それは後ほど触れることにしよう。

 仕事を終え帰路につく春香の心に去来する様々な風景。仲間たちのいない事務所、誰もいないレッスンスタジオ、自分を案じ自分と同じ想いを抱いてくれた千早やプロデューサー、そして自分の道を歩き続けるアイドルの仲間たち…。
 彼女の表情はその髪に隠れてよく見えない。しかしそれこそが彼女の今の心情を端的に表しているとは言えないだろうか。表情さえ虚ろな、完全に自分自身を見失ってしまった状態。変わりゆく世界や仲間たちに何もできない自分、自分を案じ信じてくれる人たちに何も応えてやれない自分。
 彼女の心が大きな無力感に苛まれているであろうことは、想像に難くない。

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 そんな春香が最後にすがる相手はプロデューサーであったが、その夜の事務所にはプロデューサーはおらず、掃除をしている社長がいるのみだった。言葉少なに事務所を立ち去る春香の心の空虚さは、さすがの社長にも読み取れない。
 春香の内面の荒れようはミュージカルの稽古にも影響を及ぼしていた。以前に演出家は「この役に自分をぶつけろ」と言っていたが、自分というものがひどく不安定な状態に陥っている今の春香では、それを実現するのは無理というものであろう。
 自信に満ちた表情で舞台に立つ美希を見つめる春香の表情は、いつもの彼女のそれとはまったく違う、悲しそうでもあり寂しそうでもあるものだった。
 休憩時間に入っても演技についてスタッフと話しこむ美希の一方、春香は1人で座り込むのみだ。そこに姿を現したのは、春香が内心では今一番会いたかったであろう人物、プロデューサーだった。
 陣中見舞いとして持参してきたどら焼きを食べつつ、久々に会話する2人。調子を問うプロデューサーに舞台は楽しいし勉強になると春香は静かに答える。それもまた彼女の本心ではあったのだろうが、今の春香が話したいことはもっと別にあると、何より彼女の横顔が訴えている。
 それを察したのだろう、プロデューサーは努めて明るく春香に、彼女が昨日事務所に顔を見せたことに触れ、自分に何か話があったのではないかと問いかける。その最中でも決して笑顔を絶やすことなく。

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 プロデューサーのこの姿勢は彼がプロデューサーとして正しく成長してきた証とも言えるが、このような姿勢で他人のフォローに入ることは、本来なら春香が最も得意とすることであった。
 22話全般における千早の立ち回り方もそうだが、今話のプロデューサーの態度もまた、本来春香が持っているそれと密接に結び付いている。だからこそ余計に現在の春香とのずれを際立たせる結果にもなってしまっているのだ。
 春香はしかし逡巡するばかりでなかなか話を切り出そうとせず、それどころか顔さえ上げようとしない。表情からも仕草からも胸中に相当の煩悶が生じているであろうことは火を見るより明らかであるが、それでも春香はプロデューサーに素直に自分の感情をぶつけることができないでいた。
 それでもやっと口を開きかけたその瞬間、プロデューサーの隣にやってきた美希によって、春香の言葉は遮られてしまう。
 大勢の外部スタッフがいる中でも構わずプロデューサーを「ハニー」と呼んで親しそうに話す美希の姿に、春香は一体何を思ったか、目を伏せ視線をそらしてしまった。
 本当ならすぐにでもプロデューサーの横に座って今の自分の気持ちを吐露したかったはずが、春香にはそれができなかった。そんな彼女にしてみれば、何に遠慮することもなく常に自分らしさを維持し続けている美希の姿が、辛くなるほどに眩しく見えていたではないだろうか。
 春香がなぜ素直にプロデューサーに話をすることができなかったのか。見ている側としては色々考えることはできるものの、劇中ではまだはっきりと描写されているわけではない。しかし話をしたくともそれを抑え込んでしまう最後の一線と呼ぶべきものが、彼女の心の中には確実に存在しており、それは今の彼女にはどうすることもできない代物でもあった。
 だから春香は何も言わずにプロデューサーの隣からも立ち去ろうとする。未練を残していることを自分で承知しつつも、「なんでもない」という言葉をプロデューサーに、そして自分自身にも向けながら。

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 しかし当然のことながら、「なんでもない」わけはない。喪失感、無力感、空虚。春香の胸中に渦巻く感情はとても彼女1人に抑え込めるものではなかった。「悲劇」という形を持って、さらに彼女を追い込むことになる。
 下がったままになっていた舞台のセリ。それに気づかなかったため奈落へ落ちそうになる春香。彼女はすぐに伸びてきた救いの手に救われるものの、その手の主は入れ替わりに奈落の底へと転落してしまう。
 まるで彼女の身代わりとなったかのように。

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 病院の一角に静かに灯る「手術中」のランプ。その先にある一室をじっと見つめ続ける社長と美希。椅子に座り無事を祈る小鳥さんと律子。
 そんな彼女らとは離れた場所の椅子に1人座る春香。今はただ、自分を守り自分の代わりに傷ついたプロデューサーのことを想い、涙で頬を濡らすことしかできなかった。

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 今話、というより前話あたりから描かれてきた春香の戸惑いとは、言葉で端的に言い表すなら「一つのことに情熱を燃やしてきた人が、ふと冷静になって自分のやってきたことを振り返り、これからのことを見つめ直す時期」という、一般的な人間であれば誰でも一度は経験するであろう瞬間、あるいは期間に起因しているものだったと言える。
 それは22話の時点で時折、アイドルとしての自分のスタンスを自分で問い質すような仕草が描かれていたことからも理解できよう。
 他のアイドルたちにそのような兆候は見られないのに、春香にだけこのようなことが起きたわけだが、これは別に春香のメンタルが他メンバーと比較して弱いからというわけではない。
 春香以外の765プロアイドルは総じて「アイドルになって何かを為したい」という目標を抱いているのに対し、春香は最初から「アイドルになること」が目標であった。つまり他のアイドルにしてみれば1〜5話あたりの頃はまだまだ走り始めた段階であったと言える時期であったのだが、春香の場合はその頃から、もっと言えばアニマス本編の始まるずっと前から、アイドルになることを目指して走り続けてきていたのである。彼女にとってはアイドルとして活動するための準備もまた、目標そのものであったと言える。
 他のアイドルより全力で走ってきた期間が長かったのであれば、冷静になる時期が他メンバーより早く訪れるのも道理であろう。
 だからきっかけそのものは特に珍しいものではなかった。ただ春香にとってそのきっかけが訪れた時期はあまりにタイミングが悪すぎたのである。振り返りたくともゆっくり振り返らせてくれない、見つめ直したくともそんな暇を取る余裕もない。そんな中では彼女が本来是としてきた「みんなと共に努力して歩んでいく」という考え方が、「みんなと共にいる」というようにずれてしまうのも、やむを得ないことであったかもしれない。
 そして春香のそのずれは、765プロアイドル各人とのやり取りの中でさらに増大することになってしまった。上記文中の中では美希のことを「ぶれがない」と強調して書いているが、実際には今話中に出た春香以外のアイドル全員が一切ぶれていない。彼女らは今まさに全力でわき目も振らずに走っているわけなのだから、それも当然のことなのではあるが、だからこそ既にずれが生じてしまっている春香と想いが重なることはなく、それ故に春香のぶれはより増大してしまったのである。
 そして極めつけは美希とのやり取りだ。美希との会話の中で春香が今の自分を否定されたということは既に記載したとおりであるが、実際には上述した二項以外にもう一つ、大きな「不幸な偶然」が存在していた。
 それは春香と美希の2人ともが、プロデューサーのことを想い、プロデューサーのために活動していたということである。
 無論美希とは違い、春香の方はプロデューサーに対する恋愛感情は含まれていない(「恐らく」という注釈がつくが)。春香の場合はプロデューサーの「みんなでライブを成功させる」という考え方が、自分の理想に近しいものであったことから共感し、それを実現しようと努力してきた。
 「プロデューサーとアイドル」という関係性の中で、アイドルの春香はプロデューサーの期待に応えたいという明確な意志を、自分の行動理念の中に含むようになっていたのである。
 思えばプロデューサーも1話の時点で「夢はみんなまとめてトップアイドル」と言っていたが、もしかすると春香はその時点で自分と同様の理想や夢を抱いていたプロデューサーに信頼を置いていたのではないだろうか。
 そして20話での社長室でのやり取りから、プロデューサーが自分を強く信頼してくれていることを改めて実感できてもいる。だからこそ今回は自分の方が奮起して、プロデューサーの信頼に応えようとする意志が働いたように思えるのだ。
 そんな自分の考え方も行動も、ベクトルは異なるとはいえ同じく「プロデューサーのため」を行動の指針としていた美希に否定されてしまったことで、春香の精神は混迷の極みに達してしまったのだと言える。
 もはや自分ではどうすることもできない状態であることは、恐らく春香本人も承知していたはずだが、無理をしてプロデューサーからの救いの手を拒んだために、ついには物理的に救いの手を差し伸べさせるような事態を引き起こしてしまい、その結果として重い代償さえも払うことになってしまった。
 その点では今話は徹頭徹尾、追い込まれていく春香の苦悩を描く物語として完成したと言える。ラストの展開は衝撃的ではあるが、直接的な描写を控えることで悲壮感を極力抑え、あくまで春香の物語におけるファクターの一環としての描き方に終始している点を見逃してはならないだろう。
 このあたりは5話における水着シーンや入浴シーンと同様、扇情的なエログロを露骨に描くような作りを否定してきたアニマスならではの演出だった。
 これら一連の、段階を踏んでの春香の追い込み方は実に秀逸だ。黒井社長のように明らかな悪意をもって行動している人など1人もいない、そう言う意味では誰も悪くないにもかかわらず、いつの間にかどんどん春香が袋小路に追い詰められていく様を、丁寧に描出しきっていた。
 そして前話から仕込まれていた春香と美希の両者間におけるギミックも、一連の描写に奏功している。
 一部とは言え両者の行動の指針が同じであるからこそ、それに基づいた行動と得た結果に差異が生じれば、その分両者におけるギャップは大きくなる。そのギャップを段階を付けて描写することが前話から仕込まれたギミックの効能だったのだ。
 さらに言うなら前述した15話における春香の美希評もそのギミックの一環と見ることができるし、深読みするなら13話で「マリオネットの夜」を熱唱した後の美希と春香のやり取りの時点から、ギミックとしての布石を放っていたと考えることもできるのである。
 ラストの容赦ない展開のみに心を奪われがちであるが、それは実際にはいくつもの縦糸を入念に、千早の時とは異なりはっきりそれとは分からぬよう各挿話間に張り巡らせてきたことによる、追い込まれていく人間の心理状態を真正面から見据えた上での作劇の結果として描かれた場面であったのだ。
 内容こそ異なるものの、1話から紡いできた物語が結実して生まれた話と言う意味においては、今話は20話と全く同質のものであると言えよう。
 そして紡がれた話はまだ終幕を迎えてはいない。これ以上ないほどに追い詰められてしまった春香の心は、次回において救いを見出すことができるのであろうか。

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 最後に余談と言うか、作品を見た上での感想のみを書くことを主旨としているこのブログでは、自分的にルールを逸脱しているようにも思うのだが、次回への期待を少し書いてみる。
 次回に期待したいのは春香個人の内省的な話に終始して終わるのではなく、春香と千早以外の765プロアイドルたちにもきちんと焦点を当ててほしいということだ。
 単に描写があればいいと言うわけではなくて、彼女たちにとって「天海春香」という仲間の存在の立ち位置を再確認させてほしいのである。
 上で「誰も悪くない」と書いたが、確かに明確な悪意を持って動いた人間は1人もいない。しかし春香は結果的に追い詰められることになった。これは裏を返せばそれぞれに一定の落ち度と言うか、欠落していた部分が存在していることでもある。
 765プロアイドルは確かに多忙のために合同練習に参加出来なかったし、それに対して完全に納得しているわけではないという所も、今話のNO MAKEから察すること自体はできる。しかしながら彼女たちが劇中で合同練習を実現させるために、自ら積極的に何かを実行した描写はない。ラジオの収録時間をずらしたり、睡眠時間を削ってまで連絡を取り合っていた春香のみだ。
 真は目の前の重大事に取り組む雪歩を支えようとした。では春香は?合同練習のために奔走する春香を誰かがフォローしたのか?自分たちはそのために何がしかの努力をしたのか?誰かが春香を支えようとしたか?
 結局春香の精神状態がいかなるものであるか、劇中では千早以外の誰も推し量ることはしなかった。普段から周りを見てごく自然に気を配っていた春香に対して、悪気や他意はないとは言えあまりに酷ではなかったか。ただ自分の考えをぶつけることしかしなかった美希は、そんな事の出来る性格ではないと承知の上で書くが、あまりに春香に対して無頓着でなかったか。
 765プロのアイドルたちは春香があまりにも自然に周囲に気を遣っているから、それに甘えているというか、春香がそうすることを普通のこととして受け止めてしまっているのではないか。だから誰も春香の状態に気づくことができなかった。そこには確実に各々の「落ち度」が存在しているのである。
 彼女たちにそれを気づかせてあげてほしい、と言うのが次回への自分の希望だ。
 あくまで個人的な希望なので、それがなかったからと言って作品そのものへの評価が変わるわけではないけども。
posted by 銀河満月 at 00:56| Comment(0) | TrackBack(7) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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