個性の異なる複数のキャラクターを中心に据える構成は、話の展開そのものにバリエーションをつけることができるし、キャラ間の関係性を強調して見せれば個性そのものを膨らませたり、個性に深みを与えることもできるようになるという効能がある。
ドキュメンタリー形式のために物語そのものが設定されていなかった第1話と、アイドルたち全体を今一度俯瞰して見つめ直す意味合いの強かった第5話を例外として、アニマスは基本的にはこのようなやり方で作られてきた。
しかし今回の第9話は、そんな今までのやり方とは若干異なる作りとなっている。今話の中心となった2人の人物の個性・キャラクター性にはそれほどの差異がなく、異なる個性をぶつけることによって話を膨らませるような手段を取ることができないからだ。
その2人とは言うまでもなく、765プロアイドル唯一の双子、双海亜美と真美である。
ここでいきなりEDの一画像を引っ張ってきてしまうが、僕はこの画像が2人の関係性をある意味で最も強調している画像だと考えている。
亜美真美の背景に描かれているのは、恐らく母親の胎内にいた頃、臍の緒で結ばれた生まれる前の亜美真美だろう。
この画の通り、双子は生まれる前から、母親の胎内にいる頃からずっと一緒にいる関係だ。これは一般的な兄弟関係とは決定的に異なる。「生まれた時からずっと一緒」ではなく、「生まれる前からずっと一緒」なのだから。
生まれる前からずっと一緒だった双子の亜美真美は、生まれてからもずっと一緒に生きてきた。それはアイドルという今後の人生を大きく左右することになるであろう重要な活動でさえも2人で一緒に行っていたことから、容易に想像できることである。
ずっと一緒だった双子の2人は、しかし亜美の竜宮小町参入により、過ごす時間に微妙なズレが生じるようになってしまった。
そんな2人は今という時間をどんなふうに考えて受け止めているのか。それを描いていたのが今回の話である。
冒頭、暗い屋敷の中で竜宮小町の3人は殺人事件に巻き込まれてしまう。真犯人を追いつめた3人と思いきや、犯人はナイフを手にあずささんに襲い掛かり、取り押さえようとしたあずささんは…。すべてが終わり、思い出の日々に別れを告げて新しい人生を始めることを誓い合う3人。
というところで撮影は終了。竜宮小町が主演するドラマ「美人姉妹探偵団」の撮影が行われていたのだが、そこに「765プロを震撼させた忌まわしい事件は、この時すでに始まっていた」と、意味深な小鳥さんのナレーションが入る。
このアバンの部分だけを見てもわかるように、今話は全編サスペンス、ミステリー調で描かれることになるが、ミステリーの常として話のいたるところに回答へ繋がる伏線、またはミスリードやブラフが盛り込まれ、ミステリー調の話としてはかなり堅実な作りとなっていることが、後々になってわかってくる。
撮影終了後、律子の自動車で一旦事務所へ戻る3人。だが30分程度しか休憩時間は取れないということを聞いて、真美とゲームで遊ぶ約束をしていたという亜美は不満を漏らしてしまう。
その不満は同時刻、オーディションからの帰路についている真美も抱いていた。仕事とゲーム、オーディションとゲーム、どちらが大切なのかとそれぞれ律子とプロデューサーから詰問された亜美と真美は、迷うことなく「そんなの選べるわけないっしょ」と答える。
亜美真美には目の前の選択肢どれか一つだけを選ぶなどということはできない、というより彼女たちの考え方の中には存在しない、と言った方が正しいか。自分のやりたいことは全部やる。子供じみたシンプルな考え方ではあるが、それ故に迷いのない強い意志でもある。
離れた場所にいても互いに交わした約束のことを考えつつ、まったく同じ考え方で律子やプロデューサーの問いそのものを否定する亜美真美の姿もまた、以降の展開への伏線になっていることに留意されたい。
そんな中伊織は、撮影終了を記念して自分へのご褒美として、巷で噂のスイーツ「ゴージャスセレブプリン」を事務所に用意していることを話す。亜美はもちろん律子まで若干興奮する中、なぜか浮かない表情を浮かべるあずささん。
そして事務所に戻った伊織は亜美真美の見つめる中、満を持して冷蔵庫を開けるのだが、なんとそこにあるはずのプリンがなくなっていた。
しかし今現在事務所にいる面々がプリンを食べたわけではないようで、犯人は不明。そこでこれぞまさに事件!とにわかに元気づいてきたのは、言うまでもなく亜美真美だ。
亜美真美はゲームの約束以上に面白そうなこの事件に飛びつき、「セクシー美少女探偵 亜美&真美」として、早速調査を開始する。
まずは冷蔵庫に近づいた者はいないかを、やけにおっさん臭い口調で小鳥さんに問いただす。
小鳥さんからの情報により、やよいが給湯室の掃除をしていたことを知った2人は、社長室を取調室に見立ててやよいの聴取?を開始。
やよいの疑いが晴れると、今度は「甘い」という言葉を口にしていた真に詰め寄る。
調査開始してからの亜美真美は、まさに目の前の現状を全力で楽しんでいる。もちろん犯人を見つけるという目的自体も決して忘れてはいないのだが、それも含めて2人にとっては「大いに楽しむべきこと」なのだろう。
2人にしてみればかなり本気でやっていることなのだろうが、そこにかかる間の抜けたBGMが、そんな2人をまるで茶化しているかのようで面白い。
2話でも少し描写されたが、双子として家族としてずっと一緒に生きてきたからこそのコンビネーションも絶妙で、「色々混じった」セクシー美少女探偵の名乗りから、警察手帳に見立てた自分たちの手帳を出した時の渋い?表情(ちゃんと亜美が寒色系、真美が暖色系の手帳になっている点も細かい)、やよいや真に詰め寄る時の息のあったかけ合いなど、亜美真美でしか表現できないであろう描写がいろいろと盛り込まれていた。
作詞というがらにもないこと(失礼)をしていたために恥ずかしがって言いよどむ真や、プリンについて亜美真美と対等に会話をしているやよいの様子なども、見ていて微笑ましいものになっている。
特にやよいの場合、亜美真美は事務所内では唯一自分より年下ということもあって、他メンバーと話す時よりも若干口調がフランクになっており、対する亜美真美もそれを知ってか知らずか、かなり遠慮のない言葉をやよいに返していて、このあたりで3人の関係性が窺えるのが興味深い。
真からの情報で雪歩が伊織にプリンのことを話そうとしていたことを知った矢先、ビルの中に雪歩の悲鳴が響く。
雪歩は給湯室で何か強烈なショックを受けたようで、「ひび…」という言葉を残して気絶してしまう。
その言葉から犯人は響ではないかと当たりをつけた2人だったが、タイミング悪く竜宮小町は次の予定であるラジオ出演のために、事務所を出なければならなくなってしまった。仕方なく亜美は後を真美に任せて出かけ、真美はプロデューサーを連れて響と貴音のいるダンスレッスン場へ向かう。
自動車の中でも張り込みと称してわざわざあんパンとビン牛乳を買ってくる真美。響を捕まえる気まんまんの真美だったが、急に何を思い立ったかカーラジオのスイッチを入れる。
そこから流れてきたのは、亜美たち竜宮小町が出演しているラジオ番組だった。
こんな時でも忘れることなく亜美の出演しているラジオ番組を聞こうとする真美。それは竜宮小町結成以降、離れて行動することが多くなってしまった真美の、離れていてもなるべく亜美と一緒の時間を過ごそうという思いもあったのかもしれない。
そんな真美はプロデューサーからの「亜美と一緒に遊ぶ時間が減ってつまらないか」という質問に、正直に「つまんない」と答えた。
生まれる前からずっと一緒にいた2人、生まれてからもずっと一緒にいた2人、だが今は一緒にはいられない。デビューしたての竜宮小町にとっては今が大事な時期であるということを、子供なりに理解していながらも、それでも一緒にいられなくてつまらないという気持ちを隠さない真美。
良くも悪くも正直な性格、と言えないこともないが、真美という女の子の真骨頂はこの後に続くセリフで象徴されるだろう。
つまらないという素直な気持ちを吐露しながらも、真美はすぐ後に「だから真美も超売れっ子になって、亜美と一緒に仕事できるようになる」と宣言する。
ずっと一緒にいた亜美と一緒にいられなくなった現実。しかし彼女はそれについて悩んでいるわけではない。なぜなら彼女はその悩みを悩みとして受け止めていないからだ。悩みの原因となる今現在の状況を改善し、自分が望む状況に持っていくための自分なりの手段を、とっくに見つけていたのである。
これが真美の本質だろう。冒頭の車中における亜美真美の発言にも通じるシンプルな考え方であり、そこには精神的に未熟な子供ならではの安易な発想という側面も確かにある。しかしだからこそ余計な迷いを生じさせることなく、そこに全力で取り組むことができる。そうすることで今現在を楽しみ、その先にあるものも楽しめるようになるのだ。
真美は常に全力で、本気で楽しもうとしている(「真面目に」とは必ずしも言えないことに注意)。そんな彼女にしてみれば、オーディションとゲーム、どちらかを選ぶことなどありえないことなのだ。両方楽しめることなら両方楽しんでしまえばいいのだから。
亜美と一緒にいられないつまらなささえも楽しみに変えようとする、旺盛なまでのポジティブシンキング。これこそが真美の持っている強さ、そしてアイドルの資質なのではないだろうか。
そしてそれは亜美の方も同様だ。一緒にいられなくなったことについて、今話中で直接思いを述べているのは真美だが、亜美の方も真美と一緒の時間を大切にしていることがわかる描写がラジオ番組内で描かれる。具体的には亜美がドラマの内容を説明している時だ。
亜美は自分でドラマの内容を説明していくうち、ドラマの内容と現在765プロで起こっている事件の内容とが、ぴたりと一致していることに気づく。
一方の真美が、ダンスレッスン場を30分以上も前に出たという響を探して事務所に戻ってくる中で、ラジオ収録スタジオに姿を見せた響を目の当たりにした亜美は、ドラマの内容どおり、第一の犠牲者(雪歩)が発した名前の人物(響)は真犯人ではなく別にいると察し、思わず収録中に真美に向って「逃げて!」と叫ぶ。
このシーンでは単に思わず声を出してしまっただけかもしれない。しかし真美が自分の出ているラジオを聞いていてくれるであろうことを知っていたから、そう信じていたからこその行動だったのではないかとも思える。
真美がラジオを聞くことで亜美と一緒の時間を過ごそうとしたのと同じように、亜美は真美がラジオを聞いてくれていると考えることで、2人一緒にあろうとしていたのではないだろうか。
片や聞かせる立場、片や聞く立場。普通に考えればどちらかがどちらかに不満や嫉妬心を抱いてもおかしくはない関係だ。しかしこの2人はそんなことは考えない。いや、もしかしたらチラッとぐらいは考えるのかもしれないが、それ以上に「2人で一緒に過ごす、楽しむ」ことを大事に考えているのだ。
亜美は今のところ順調に売れていっている竜宮小町の1人、真美は未だそれほど売れていないアイドルと、2人の客観的な立場はずいぶん変わってしまっている。だが2人はそんな差異を意に介さない。今現在も楽しんでいるし、また2人一緒に仕事ができるようになれば、もっと楽しめることを知っているのだから。
亜美にとっての真美も、真美にとっての亜美も、両方とも今も昔も変わっていない、お互いに等価な存在のままなのである。
さて、亜美の「逃げて!」という言葉を聞いた直後に何者かに押さえつけられてしまった真美だったが、その人物は貴音であり、雪歩から聞かされてゴキブリ退治をしているだけだった。
雪歩はゴキブリを見たために悲鳴をあげて気絶し、壁のひびからゴキブリが出てきたことを差して「ひび」と言い残していたのである。プリンのことも、入っていた箱を落としそうになったので、それを伊織に話そうとしていただけだったらしい。
これで残りの容疑者は春香、千早、美希の3人のみとなったため、亜美はそれこそドラマのキャラクターそのままに、容疑者を罠にかけることを提案する。
と言ってもその罠の内容は、ゴージャスセレブプリンを模した被り物やらを使って脅かすという、何とも子供っぽい内容であったのは御愛嬌というところか。むしろ短時間に衣装を含めた小道具をきちんと作れたあたりに驚くべきだろう(笑)。
子供っぽい罠ではあったが春香には特に効いたようで、戸惑うだけの千早やマイペースぶりを崩さない美希と違い、今話で随一のリアクションぶりを披露してくれている。こんな時にも「転ぶ」という自身のアイデンティティを盛り込むその姿勢は、さすがと言わざるを得ない。
そしてそんな中、被り物を見ただけで「ゴージャスセレブプリン」だとわかった美希こそが真犯人だと詰め寄る亜美真美。そこで何か捻ったことを言うかと思いきや、美希はあっさりと自分が食べたことを認めてしまった。
午後の765プロを襲った不可解な事件は、こうして幕を閉じたのである…が、美希が勝手にプリンを食べてしまった理由を聞いて状況は一変する。
美希はあらかじめ冷蔵庫に入れておいた「イケイケファンシーゼリー」を食べようとしたものの、誰かが先に食べてしまっていたためにプリンの方に手を出してしまったというのだ。
そしてなんとそれを朝に食べてしまっていたのは亜美真美だった。今回の事件のそもそもの原因は亜美真美だったのである。
この辺は亜美真美の持つ大きな個性であるトラブルメーカーぶりが如何なく発揮されているが、これもまた「全力で遊んで楽しむ」亜美真美のやり方と通底している。彼女らの遊びは2人だけのやり取りに収まらず、知ってか知らずか周囲の人々を否応なしに巻き込んでいく。それほどに2人の「楽しみたい」「遊びたい」という気持ちは強いものなのだ。
互いに同じ気持ちの2人が共に遊んで楽しむことで、2人の持つパワーがより大きなものとなって広がり、それ故に周囲をも巻き込んで自分たちの楽しめる「遊び場」に変えてしまう。そしてそれは亜美と真美、2人が一緒にいるから出来ることだと、何よりも自分たちが知っているのである。
そもそも亜美真美は1話の時点で、「楽しいことはいっぱいあった方がお得」「みんながいれば楽しいことしかない」との言を残している(宿題は楽しくないようだが)。みんながいればもっと楽しくなることを、理屈ではなく感覚で理解できているのは、2人でいることの楽しさを幼い頃から知っていたからなのだろう。生まれる前からずっと一緒だった双子の亜美真美がそれを知っているのは、むしろ当然のことと言えるのかもしれない。
もちろん時には今回のように失態を演じてしまうこともあるだろうが、それさえも2人は楽しんでしまう。そういう強さこそが2人の良いところだということは前述したとおりだが、それもまた2人一緒であればこそのものなのではないか。
そんな2人を象徴する意味で、ED曲を「黎明スターライン」としたように思える。たとえ時間や空間を超越してもなお、周りを巻き込んで目の前のことを楽しむ2人の姿勢は変わらない。ED映像は2人のそういう部分がしっかりと強調されていた。
そしてそんな2人の気持ちを知っていたのはプロデューサーだ。もしかしたら律子でさえ知らないかもしれない双子の気持ちを理解していたからこそ、ミーティングをやるからと叱りつける律子を宥め、せめて今日はと亜美真美の好きなようにさせた。
これは同時に、4話のラストでプロデューサーが独白した「みんなのことをもっと知らなきゃいけない」に対応した結果でもある。プロデューサーとしてアイドルを理解し、アイドルのことを考慮した上での判断だったわけだ。
ここで始めて律子とは異なる、プロデューサーの「プロデューサー」としての腕を発揮できたのではないだろうか。
と、ここで物語は終わるかと思いきや、意外?な真相が明らかになる。美希はプリンを一つしか食べておらず、残り全部を食べてしまった人物が別にいたのだ。
すでに10日目に入ったダイエット生活、一番辛い時期を迎えていたその人物は、冷蔵庫に入っていたプリンに魅了され、無意識のうちに手を出してしまう。はっと気付いた時には遅く、すべてのプリンを平らげてしまっていた。
プリンのケースをゴミ箱に捨てたその人物は1人呟く。「さようなら、ダイエットの日々」と。
そう、本当の犯人はあずささんだったのである。
この真実を知っていると、冒頭からの伏線からミスリードに至るまで、ほぼすべてがかっちりと一本の線で結ばれることがわかる。
冒頭の小鳥さんのナレーションからして、確かにその時点であずささんはプリンを食べてしまっていたから、事件自体は始まっていたと言えるし、事件発覚前、車中で1人微妙な顔を浮かべていたのは、その事実を正直に言えない後ろめたさがあったからだろう。それは事件発覚後はほとんど事務所に顔を見せていないことからもわかるし、亜美真美の仕掛けた最後の罠や、ゼリーを食べた亜美真美を追いかけるアイドルたちの中にあずささんが入っていなかった理由も明白だ。
さらに言えば冒頭のドラマでは事件を終わらせる役を演じていたあずささんが、現実の事件では事件の発端となる役割を担っていたのも、一種の対比と呼べるかもしれない。
ちなみに亜美真美の一番最初の推理「ここにいない誰かが犯人」というのも、ばっちり正解していたわけである。
本来その場にいるべき人間が1人だけいなかったのだから。
ちなみにこの後あずささんがどういった行動を取ったのか、具体的には謝罪したのかどうかまでは描かれていないが、真犯人は別にいるということを伊織が知ったわけでもあるし、恐らくはそう間を置かずに謝ったことだろう。
今回の話の流れでそこまで見せてしまったら冗長になる恐れは十分にあったし、その辺は見た人が各々で補完すればいいことではないかと思う。
今話を端的に表現するなら、亜美真美というトラブルメーカー的要素を持つキャラクターが、ひたすら遊びまくった話と言える。
亜美真美の立ち回り方自体がコメディタッチであるため、今話はコメディ回、ギャグ回とされる傾向があるようだが、個人的にはそのどちらとも少し違うように思う。
時に真面目に、時におちゃらけたりしながらも目の前のことには全力でぶつかり、子供なりに考えて行動し、話を展開していくことで事態を収束させる。
これは古き良き時代のジュブナイル、または児童文学の体裁ではないだろうか。具体名を挙げるなら「ズッコケ三人組」シリーズのような。亜美真美が画面内で縦横無尽に活躍する様は、まさに「教訓色を廃し娯楽に徹した児童文学小説」そのままのように思える。
と言っても今話では前話とは違い、真美の視点を通してきちんと亜美真美の成長が描かれている。
ただ今話の中では成長してはいない。亜美真美は今話の時間軸を迎えた時点ですでに一回り成長していたのだ。
前述の「だから真美も超売れっ子になって、亜美と一緒に仕事できるようになる」という真美の言葉、これこそが何よりの成長の証と言える。2人は常に一緒にいられなくなった現実に対し、どう対応すべきかを今話の物語より前に、恐らくは自分たちだけの力で見出していた。それこそが彼女たちの成長なのである。
今話の視聴者は「成長する亜美真美」ではなく「すでに一歩成長した亜美真美」を見ることになったわけだ。それに一抹の寂しさを覚えなくもないが、自分の目の届かないところでも子供は着実に成長していくもの。かつてそれを如実に示したのが、ゲーム版アイマス1から2への流れの中で、身体的に大きく成長した亜美真美だった。
ゲーム版での身体的な成長を画面のこちら側にいる「プロデューサー」が直接知ることはできなかったし、今回のアニメ版における精神的な成長にもプロデューサーは当初気づいていなかった。だがそれでいいのではないかとも思える。子供は自分自身の内にある力で成長していくものなのだから。
成長した点と未熟な点の双方を描きながらも、決して現在の亜美真美を否定しない健全なアニマス世界。これもまた古き良き時代のジュブナイルに通じるものがあるように思える。
そして今話、正確に言えば今話に至るまでの7、8、9話の中で、それぞれの中心人物とは別に、明示的に描かれたものがある。
それは竜宮小町の「バランス」だ。
6話で「竜宮小町のメンバーにこの3人を選んだ理由は?」と聞かれた律子は、「バランスの良さ」と答えていたが、それがどういうことを示しているのかは説明されていなかった。
それに対する具体的な描写が7〜9話の中に込められていたのではないか。
7話では長介というその日まで会ったことのなかった一般人を厳しく、そして優しく諭す伊織、8話では自分にそんな意識がなくとも行く先々で小さな幸せを振りまいたあずささん、そして9話では周りの人々を強引に巻き込んで遊びまわる亜美と、それぞれの話の中で竜宮小町のメンバーが、各々のやり方で周囲の人々に影響を与えていく姿が描かれている。
人々の注意をひきつける力、それは大勢の人たちからの視線を絶えず浴び続けるアイドルにはなくてはならないものだろう。その力を現時点で強く発揮できる人物を、律子は選抜したのだろう。
そんな律子にしてみれば、無自覚に多くの人をひきつけるあずささん、強引に周囲の人を引っ張りこむ亜美、そしてそんな2人の強い個性を程よく持ち合わせた伊織をメンバーとして選んだのは、自明の理だったのかもしれない。
それぞれ人をひきつける力を持ちながら、それを発揮する手段も自覚の度合いも異なる3人だが、そんな3人が1つのユニットを組んだ時、それぞれの個性が絡み合って硬軟織り交ぜた魅力を発揮し、大勢の人たちの耳目を集めることに繋がる。それこそが竜宮小町メンバーの持つ「バランスの良さ」なのではないだろうか。
思えばゲーム版では竜宮小町はゲーム開始時点ですでに結成されており、結成に至るまでの具体的な経緯を知ることはできなかった。
それを承知した上でのアニメ制作陣なりのアンサーが、7、8、9話の三つの話の中に込められていたように思えるのだ。
今話は久しぶりの全アイドル登場回でもあったが、やはりモブの集団よりはアイドルたちが全員集合している方が、画的に華があっていいね(笑)。
ただ冒頭から全員が登場していたわけではないため、登場時間的に割りを食ってしまったアイドルが若干名出来てしまったが、さすがにこれはどうしようもないだろう。
演出面では人物を映す際にはアップを多用し、引きの画面ではあまり人物を画面内に入れないように工夫されている。人物ばかりをアップで映し、その周囲の空間をあえて描写しないことで、見る者に圧迫感を与えているのだが、それによって大事な引きの場面におけるインパクトもより深めることができるのだ。
Bパートでの張り込みから真美が事務所に戻るまであたりは、カメラの向きを若干斜めにし、登場人物や視聴者の不安感を煽る見せ方がなされている。
演出的には真面目にミステリー調をやっているのだが、それだけに亜美真美を中心とした人物のいつもどおりのやり取りが行われているというミスマッチ感覚が、今話に独特の味付けを施していると言えるだろう。
個人的に好きな画はこれ。
真の座り方が男前すぎて困ってしまう(笑)。
さて次回。
アイドル大運動会のようなものに参加するようだが、とすれば全員参加のイベントとしては3話以来のものになる。
あと4話で1クールが終了するということもあり、そろそろ何かしらの節目を迎えることにもなるだろう。
次が全員回になるのか、それとも特定の誰かがメインの回になるのかはわからないが、まず期待すべきなのはこれだろう。
まったくもって素晴らしい。10話が非常に楽しみになってきてしまうね。