ほら、天使でしょう?
と、そんなわけで今回はやよいメインのお話である。
やよいは家が大所帯なので厳しい家計を支えるためにアイドルを目指したという、なかなかシビアな設定を持っているものの、そんな様子はおくびにも見せず毎日を元気いっぱいに生きている明るい女の子。冒頭で紹介された伊織の家を見て、それが伊織の家だとは最初は思えず、事実を知ってから真っ先に浮かんだ感想は「掃除が大変そう」という、庶民的な女の子である。
そんな彼女に用意された物語は、やはり「家族」の物語だった。
アバンでの強引なテレビ番組出演が失敗した伊織は、響とともに自分の家族に対する不満を口にする。
給湯室でおしゃべりをしている3人の中ではやよいが最年少であるものの、それぞれの家族の中では、兄を持つ伊織と響は年下の「妹」であり、6人兄弟の長女であるやよいが年上の「姉」である。
兄弟がいる者同士でありながら兄弟間での立場が異なる3人のやり取りは、伊織と響があくまで妹目線であるのに対し、やよいが姉目線になっており、「兄弟」そのものについての見方について微妙な差異が生じている。
そしてこの辺もまた後々の伏線になっていたりするのだ。
やよいの家で食事をもらうことになった一同は、帰り際に大量のもやしを始め材料を買い込んだ後、やよい宅を訪問する伊織と響。
「(飼い犬の)ジャンバルジャンの家より小さい」と伊織が感想を漏らしたやよい宅で彼女らを出迎えたのは、やよいの妹や弟たち。やよいが「もやし祭り」の準備をしている間、伊織と響は下の兄弟全員の遊び相手を引き受ける。
伊織も響も兄弟の中では一番下であり、姉的役割を持って子供の面倒をみる機会はほとんどなかったであろうから、一緒に遊びながらも次第に疲れてきてしまう。その一方でやよいは料理を作る傍らで洗濯物を取り込んだり、うまくトイレに行けない浩司の面倒を見たり、最年少である浩三のミルクを用意したりと、様々な用事をすべて1人でこなしていく。
ここはしっかり者であるやよいの面目躍如と言ったところだが、同時にBGMの「キラメキラリ」に合わせて伊織と響がダンスを披露するシーンがあったりと、見所が多い。
もちろんやよいの兄弟が初めて明確なビジュアルを持って登場してきたこともポイントが高い。かつてのプラチナアルバムやドラマCDなどで断片的に登場したことはあったものの、実質今回が本格デビュー?と言ってもいいのではないだろうか。
年齢相応に遊びたい盛りの弟や妹であるが、唯一長介だけは少しずつでもとやよいの手伝いをする。彼もやよいの弟ではあるが同時に長男、つまり男兄弟の中では最年長であるだけに、姉を手助けしたいという思いが強かったのだろう。
しかしその思い故にBパートではやよいとすれ違うことになってしまった。
もやし祭りを楽しんでいた面々だったが、伊織と響が来て手伝ってくれたことを素直に喜ぶやよいの言葉を聞いて、長介は複雑な思いを抱き、さらに些細なことから浩司を泣かせてしまう。
そしてやよいの「お兄ちゃんなんだからみんなに優しくしなさい」という言葉を聞いた長介は、売り言葉に買い言葉で「自分ばっかり好きなアイドルやってるくせに」と言い残し、家を飛び出してしまった。
飛び出していった長介を心配しながらも、今は自分が家族の最年長者=しっかりしなければいけない立場であることを自覚しているやよいは、その不安な気持ちを弟たちにも、友達である伊織や響にも吐露しない。
このやよいが持つある種の頑なさは、長介の言葉にショックを受けたとやよいが述べるまで、やよいの表情が画面に一切映されないという演出面からも表現されており、制作陣のやよいというキャラクターへの理解度の高さを感じさせる。
伊織からあの言葉が長介の本心ではないことを聞かされたやよいは、響に後押しされて響とともに弟を探しに出る。6話もそうだったが響は最後の一押しをする役割を担うことが結構あるようだ。
その一方で伊織はAパート冒頭でプロデューサーから受けた言葉を思い返していた。
仕事に失敗してしまった伊織に注意するプロデューサーに対し、プロデューサーは竜宮小町に所属している自分とは関係ないと言い返す伊織。
しかしプロデューサーはその言葉に引き下がることなく、静かにはっきりと「困ったことがあったら相談にも乗りたい。俺はみんなのプロデューサーのつもりだ」と告げる。
そのまっすぐに向けられた気持ちを、その場ではかわしてしまったものの、その時のプロデューサーの言葉と様子は、伊織の心のどこかに残っていたのだろうか。伊織はプロデューサーと連絡を取るが、この時誰が聞いているわけでもないのに「一応」と断りを入れるあたりが、いかにも伊織らしい。
やよい達は長介を見つけられず、やよいは不安な気持ちがあふれ出して涙を浮かべてしまうが、そこへ報を受けたプロデューサーが駆けつけてくる。
結論から先に書いてしまえば、長介を見つける際にプロデューサーは能動的に活躍したわけではない。伊織との電話の中で伊織と何気ない会話をし、それをヒントに伊織が長介の居場所を見つけたわけで、プロデューサーが直接動いても事態は好転しなかったのだ。
ではここでプロデューサーを登場させたのはなぜだろう。
僕としてはこの場、この状況でやよいとプロデューサーを会わせることが最大の目的だったように思える。
長介を心配するあまり涙ぐんでしまったやよいを前に、目の前にいた響は何もすることができなかった。恐らくその場に伊織がいたとしても、声をかけることはできたかもしれないが、やよいの不安を払拭することはできなかっただろう。
だからこそのプロデューサーである。ゲーム版をプレイしている方にしかわからないことで恐縮だが、やよいは6人兄弟の最年長として家事を切り盛りする一方で、自分も年上の人間に甘えてみたいというかすかな願望を持っている。それは「1」にして13歳、「2」でも14歳に過ぎない少女にしてみれば当然の願いだろう。
だがもちろん兄弟の前でそんな気持ちを出すはずがない。長いこと一緒にアイドルとして過ごしてきた仲間たちの前でも、むしろ仲間だからこそ出そうとは思わない。そんな彼女にとってはプロデューサーは、今まで彼女が築いてきたどの人間関係とも異なる関係にある存在と言える。
無論今の時点ではプロデューサーに「甘える」などという発想は湧いていないだろう。だがやよいは仕事とは全く関係のない、家族間のトラブルで心配事を抱えてしまったにも関わらず、プロデューサーはそれを承知の上で、純粋にやよいとやよいの弟を案じて駆けつけてくれた。その仕事上の関係を超えた真摯な態度がどれほどやよいを安心させたことか、それはプロデューサーの励ましでようやく笑顔を取り戻したやよいの姿に集約されているのではないだろうか。
この役目は他の誰でもない、プロデューサーにしかできなかったことであろう。
さて肝心の長介は、自宅の物置に1人隠れていた。突発的に飛び出しては見たものの、根本的に家族が大好きな人間というものは、得てして遠くには行かずにこのような場所に隠れるものである。
伊織はプロデューサーとの会話の中でそれに気づくわけだが、当初「庶民の感覚なんてわかるわけない」と言っていた伊織ではあるものの、実際にはかつて兄とケンカした時の伊織と同じ発想で長介は物置に隠れていたわけで、庶民も金持ちも関係なく、「兄や姉」とケンカした「弟や妹」の取る行動は似通ったものになるというところだろうか。
長介のわだかまりはやよいが自分を頼りにしてくれないから、というところに起因していた。いくら頑張っても弟だからと姉から頼られることなく、かと言って失敗したら「みんなのお兄ちゃんなんだから」と叱られる。彼にしてみればまさにどっちつかずの中途半端な扱われ方で、納得できるものではないだろう。
しかし伊織はそんな長介を甘やかすことなく叱咤する。やよいに認めてほしいなら全力でぶつかっていけ、胸張って前を見ろ、と。
正直な話、落ち込んでる子供に対して少し厳しすぎな感じがしないでもないお説教(笑)だが、それは立場的には長介も伊織と同じ弟妹であり、且つ伊織が友人としてのやよいを見続けてきたこと、そして弟を心底案じる姉としてのやよいを見たからこその、厳しめのアドバイスだったのだろう。
そして戻ってきたやよいは長介を叱ることもなく、ただ無事だったことを喜んで抱きしめる。姉であるやよいが弟に対して真っ先に取った行動。目に涙を浮かべていた伊織と響も、そんな「姉」の姿に妹として感じ入るものがあったのではないだろうか。帰宅時にそれぞれの兄へ思いを馳せていたあたりからも、それは窺い知れる。
帰り際、自分を頼ってくれた伊織に感謝の言葉を伝えるプロデューサーだったが、もちろん伊織は素直に返答するようなことはしない。
実際表面的にはプロデューサーはほとんど役に立っていなかったわけであるが、勤務時間はとっくに終わっている時間帯、恐らくは事務所を退社していたろうし、もしかしたら何か別の仕事をしていたのかもしれない。しかしそんな事情を捨て置いて真っ先にやよいの元へ駆けつけてくれたプロデューサーに、以前より強い信頼感を抱いたのも確かだろう。最後の伊織の言葉はそんな胸中を伊織なりに表現した良い言葉だった。
今話はアイドル活動自体はほとんど行っていない、ゲーム版で言うところの休日コミュやアフターコミュに相当する内容の話になっていた。
「トップアイドルを目指す」という話の縦糸的部分はまったく進展していないため、それを残念と思う向きもあろうが、やはり高槻やよいという女の子の精神的バックボーンを見せる上では、必要な話でもあったろう。小さなケンカはあるけども、家族のことが大好きで、家族のことをいつも大切に思っているからこそ、今アイドル活動をしているやよいがいるのだから。
やよいが長女として家族を支えるように、そう遠くない将来、やよいの弟たちが彼女のアイドル活動を支えるようになるかもしれない。そんな未来図まで想像できるような爽やかな仕上がりの好編であった。
細かいところに目を移すと、今回は4話に続いてアイドルたちが全員登場しない話でもあった(これも4話と同様、No Makeにて本編に登場していないアイドルたちのやり取りが聞ける)。
そんな中、地味に響が皆勤賞を獲得している。春香も冒頭で登場こそしているものの、セリフがないので皆勤とまではいかなかった。
その代わり中の人こと中村繪里子さんは、ハム蔵役で皆勤賞である。厳密には「you-i」として参加していたと思われる今井麻美さんも皆勤賞になるのかな。
で、その「you-i」もそうだが、今回は妙なところで変に遊びのシーンが多かった。
ゲーム本編でも名前が登場しているヒーロー番組「ヤキ肉マン」が登場し、しかも声の担当は以前出たCDシリーズ「M@STER LIVE」でも担当していた串田アキラ氏が続投(串田氏はアイマスの3周年記念ライブにも出演した経緯がある)。水瀬家の執事である新堂さんも、ドラマCDに続いて麦人氏が担当と、キャスティングにもかなりこだわっていることがわかる。
さすがに以前のドラマCDで高槻家の兄弟が出演した際は、他の声優陣が掛け持ちで演じていたため、すべて別の声優さんとなっているが。
そしてそのヤキ肉マンの番組に出演していたブンタ、アシゲ、モニョは、元々ネットラジオ「アイドルマスター Radio for You!」で、パーソナリティの3人が作った番組のマスコットキャラとして作られたもの。本来アシゲは「あしげちゃん」と呼ばれ、設定上は合体することもできるとされる(笑)。
さらに言うと担当声優の「you-i」もまた、「Radio for You!」で、パーソナリティの3人が結成したユニットの名前である。
他にも響が三輪車に乗っているシーンに映る自動車のナンバーが「足立841 く 00-72」になっていたり、高槻家の居間にののワさんの人形が置かれていたりと、いつも以上に小ネタ満載の話となっていた。
個人的には浩三にミルクを飲ませた長介が、きちんと浩三にゲップをさせるために背中をポンポン叩いていたのが、親切と言うか優しい演出と言う感じで好感触。
作画面ではやはりスーパーの描写を抜きには語れまい。
どんだけ背景を細かく描いてるんだろうか。別にスーパーが舞台の話ではないのだから、この場面ではそんなに凝らなくてもいいと思ってしまうのだが、その辺もまたスタッフのこだわりと言うところだろうか。
人物の作画については、本分冒頭における「天使」を見ていただければすべて了解できることだろう。
さて次回は。
念願のあずささん主役回になるのだろうか。真や美希といろいろ絡むようだが、さてさてどんな展開になるのだろう。
髪の毛を切ったことについてはもう触れてくれないとは思うけど。