今話は前話のラストで新たに発足したユニット「竜宮小町」を軸に、サブタイどおりに「先に進むこと」を選択した人たちの様子が描かれた。
具体的には竜宮小町の精力的な活動を目の当たりにして自らも奮起したプロデューサーと、原因は同じながらも違う理由で新たな一歩を踏み出すことになった美希である。
ただ短い描写ではあったものの、長い綺麗な髪をバッサリと切ったあずささんもまた、「先に進むこと」を選択した人と見ることができるだろう。
竜宮小町は伊織をリーダーとして、その両脇にあずささんと亜美が位置する関係にある。故にユニット全体のトータルバランスを優先したのと、「髪を切った方が若く見える」との助言?に従って髪を切ったわけだが、あくまで個人の理由は付随的なもので、周囲のことを第一に考えて髪を切ったことが、まずもってあずささんらしい選択だ。
以前から「女が髪を切る」と言う行為は、例えば失恋した時に今までの思いを吹っ切るため、と言った感じで、何か人生の転機になるような重大事項に絡んで描かれることがあった。
しかしかの「あずまんが大王」で、三年に進級した滝野智ちゃんが、単なるイメチェンで伸ばしていた髪を切った例を出すまでもなく、「重大な理由により髪を切る女」というものもまた、近年では記号的、と言うよりも陳腐な存在になってしまっている。具体的には「ほっかむりした泥棒」とか「山の手のザマスばばあ」と同レベルなわけ。
そんな陳腐な記号をあえて導入せずに自然な流れで「髪を切る」という行為を盛り込んだのは、元々記号的でいて記号的でない部分を多く持つアイマスのアイドルたちにはふさわしい展開と言えるのかもしれない。
プロデューサーは竜宮小町の活動を見て自らも奮起したものの、千早や貴音からもすぐにそれとわかるくらい、見事に空回ってしまう。
自分がやらなければならない、と思いこんでいるからこその空回りではあるものの、同時にそんな自分のやり方に自信が持てていないということが、Aパートで小鳥や律子に対して消極的になり、自分の苦悩を正直に伝えられないところからも察せられる。
結局さしたる成果を上げられないばかりでなく、ついにはダブルブッキングという失態まで犯してしまう。
小鳥や美希の協力で最悪の事態は回避できたものの、重大なミスには違いないわけで、美希たちの元へ急ぐタクシーの中で、プロデューサーは1人「何やってんだ、俺…。」と独白する。
奮起して今まで以上に努力してみたものの、結局状況を改善させることはできず、さらには手痛いミスまで犯し、その収拾をつけたのも小鳥や美希であって自分ではない。自分のやっていることは結局事態を悪い方向にしか導いていない。本人にはもちろんそんな気がまったくないからこそ、この独白は痛切だ。
渋滞に巻き込まれて自分自身の力で移動することもできないというシチュエーションもまた、プロデューサーの焦燥感をより強く煽っている。
そんな時、偶然ポケットから転がり落ちたのは、Aパートで春香からもらったキャラメル。
プロデューサーの様子がいつもと違うことを察し、「甘いものは脳をリフレッシュさせるから」と、プロデューサーを気遣ってキャラメルを渡してくれた春香。
イベント会場で「もっと私たちを信用してください」と言ったのも春香だったし、美希たちの元へ向かう一押しをしてくれたのは響だった。
プロデューサーとアイドル、どちらか片方が頑張るだけでは成り立たない。互いが互いを信頼して頑張るからこそ、「アイドル」として完成することができるのだ。
そしてそれは常に傍らにい続けるということでもない。プロデューサーがタクシーの窓から見上げた先には、抜けるような青い空があった。その同じ空の下で、春香と響はきちんとイベントの仕事をこなしている。
例え離れていても、信頼し合った者同士は同じ空の下でつながることができるのだ。「the World is all one!!」の一節「空見上げ 手をつなごう この空は輝いてる」をまさに具現化したかのような名シーンと言えるだろう。
それをわかったからこそ、キャラメルをもらった時には春香に感謝の言葉すら言えなかったプロデューサーが、雪歩からのお茶や春香からの手作りドーナツをもらった時、素直にお礼を述べるほどの余裕を得ることができ、尚且つ小鳥や律子に自分の決意をまっすぐ伝えることができたのだ。
春香からの差し入れが円で構成されている「ドーナツ」というのも、「人と人のつながり」という今話のテーマを体現しているようで面白い。
さてプロデューサーとは異なる理由で前に進むことを決めたのが美希だ。と言っても美希はトップアイドルを目指すと言うよりは、竜宮小町に入る、引いては「律子に認められる」と言うことの方に主眼を置いているようで、客観的にはようやくスターターが入ったという程度のところだろう。
それでもダンスの振り付けを一度見ただけで覚え、ダンスに関しては美希よりも習練しているであろう真を驚かせるほど完璧に踊って見せたあたり、未完の天才ぶりが発揮されていた。
ラストでテレビ初出演を果たした竜宮小町が新曲「SMOKY THRILL」を披露している際、竜宮小町へのぼんやりとした憧れを抱いていた程度の美希が、そのパフォーマンスを目の当たりにして、目指す意志をより明確にしていくシーンは、アニメならではの細やかな演出だったと言える。
この「SMOKY THRILL」披露シーンでの各人の表情もまた細かくて、見ているだけで非常に楽しい。
緊張の面持ちで見守る律子や伊織、少し不安げに見つめるあずささん、心の底から嬉しそうに微笑んでいるやよい、意外にもマイペースに、しかしいつものような茶化しを一切挟むことなく笑顔で見つめる亜美真美、自分の「成果」を真剣な眼差しで見つめる伊織を見て驚いた表情を見せる真など、各人の胸中までも想像できるかのような千差万別の表情が並んでいた。
肝心のダンスシーンについてはもはや言うまでもないだろう。動きにも作画にもディフォルメを利かすことができるアニメの利点を最大限に生かし、全身の動きのタメ、髪の毛や衣装のなびき方、忙しく変わるアングル、ゲーム版とは異なるステージ演出など、まさに素晴らしいの一語に尽きる。
営業やレッスンと言った地道な努力の先にこのステージシーンがある。それはゲーム版もアニメ版も同じと言うことだろうか。
竜宮小町のテレビデビューを見届けたプロデューサーは、改めてこれからの道のりを「みんな」で進んでいくことを決意する。そしてEDとしてかかる「THE IDOLM@STER」。
オールドファンなら言うまでもなく、この歌はアーケード版のEDテーマでもある。最後の最後に登場する社長の顔にかぶさるように表示された「NEXT STAGE」もそうだが、今までの物語はここで一旦区切りがつけられたということなのだろう。そしてアイドルたちもプロデューサーも、新たなステージへ進むことになる。恐れることなくその道をみんなで邁進していく、希望にあふれた良い区切りだったのではないだろうか。
今回、個人的にポイント高かったのは小鳥さんだ。
Aパートでプロデューサーは自分の悩みを小鳥さんに打ち明けることができなかったわけだが、Bパートで小鳥さんに謝罪した時、彼女はただ一言「大丈夫ですよ」と返すだけだった。
ここから考えると、小鳥さんはそれこそ春香と同じくらいに最初からプロデューサーを信頼して疑わなかったのではないだろうか。逆にプロデューサーの苦悩を知った上で敢えて助言せず、自分で答えを導くことを待っていたではないか。
あの笑顔とピースサインを見ると、ついぞそんなことまで考えてしまうわけなのである。
逆に律子は「NO MAKE」を聞く限りでは、内心かなりいっぱいいっぱいになっていることが伺え、この状態でもし何か障害にぶつかってしまったら容易く折れてしまうのではないか、と思わされないこともない。
なんだか白々しい書き方だけども、竜宮小町かそうでないかはともかく、いつか彼女らのうち誰かが障害にぶつかり、挫けてしまう日が来るのだろう。今話で多くのアイドルたちに支えられていることを知ったプロデューサーは、その時彼女らを支えることができるような存在になれているのだろうか。
で、次回は全国7650万人のファンがいるとされる、やよいの主役回っぽい。「しゅーろくごー!」での説明を聞く限りは、かなり良い話になっているようなので、これもまたまた楽しみである。