2話も非常に良い話でしたねえ。
で、今回書くのは3話目「すべては一歩の勇気から」。男性と犬が苦手で、自分に自信が全くなく穴を掘って埋まりたがる、それでいて良くも悪くも猪突猛進(暴走とも言う)な一面も持つ少女、萩原雪歩をフィーチャーした話である。
原典であるゲームでもとにかく引っ込み思案な上に男性を苦手とするため、ネガティブな思考パターンに陥ることが多く、それをプロデューサーがうまくフォローするというのが序盤のコミュニケーションでの定番の流れだった。
アニメ版における雪歩もまさにそんな感じで、1話ではカメラ撮影をしているプロデューサーを見ただけで青ざめてしまい、2話で宣材写真を撮影する際にも、手に持っている花束に視線を集中させて、撮影している男性カメラマンをなるべく視界に入れないように工夫?しているといった描写がなされていた。
今話でも冒頭からレッスンを行う先生が男性だったというだけで逃げ出してきてしまい、伊織からは嫌味を言われてしまうだけでなく、そんな雪歩を励まそうとしたプロデューサーからも逃げ出してしまう。
さらにアイドル総出での村祭りイベントに参加した際も、子供の連れていた犬が何気なく吠えただけで怯えたり、青年団の人たちに囲まれただけで卒倒、挙句には男性陣が得体の知れない化け物のように見えてきて、ステージイベントのリハーサルさえ満足にこなせない始末。
アバンからAパートではまさにこれでもかという勢いで雪歩のダメダメな部分を見せつけてきたのは、見ている人にとってはそのまま雪歩にマイナスイメージを持たせてしまう可能性もあるが、これは止むを得ないところだと思う。
1話で本人が言っていた通り、雪歩は「気弱でダメダメな自分」を変えるためにアイドルを目指している。だからこそ「雪歩はどんなふうにダメなのか」と言うことを、視聴者に具体的に見せる必要があったのだ。
そして前述の雪歩のもう一つの特徴である暴走しがちな一面をも、Aパートまでの時点で既に描写していることは特筆すべき点だろう。
Aパートを順を追って見てみると、あくまで雪歩の中だけの話ではあるが、雪歩が段階的に追い詰められていっていることがわかる。
最初は初めてステージで歌えることを楽しみにしていたものの、村に着いた途端犬に吠えられて怯え、次に青年団の人たちからの挨拶を受けて卒倒、その後は1人きりになってしまった時に男性から声をかけられ、その時に初めて化け物の幻めいたものを見るようになっている。
単に男性から声をかけられたからと言うだけでなく、周囲が男だらけという環境の中で、今までと違い「1人きり」という状況で話しかけられたことで、雪歩の感情がネガティブな方向に暴走を始めてしまったと言うわけだ。
そして本来頼るべきプロデューサーまで化け物に見えてしまい、リハーサルとは言えステージ上という逃げ出すことのできない状況で男性陣を見たことによって限界を迎えてしまうと言う流れは、一見すると脈絡なく雪歩の「男が苦手」な面をつるべ打ち的に描いているようではあるが、実はかなり巧妙に計算されたものだったと言える。
合間にやよい、あずささん、伊織が料理を作ったり、亜美真美と美希が会場設営の準備をしているシーンが挿入されるが、いずれの場合も各アイドルにかかわる村の人が「女性」であったあたりもまた、雪歩を追い詰める流れの一環として設定されたものではないだろうか。
すっかり自信をなくしてしまった雪歩は、イベントが始まってからもそつなくステージをこなすやよいやあずささん、勢いに任せて乱入する響、マイペースすぎるトークで会場を盛り上げる美希(余談だが舞台袖でハラハラしながら見ているプロデューサーとの対比も面白い)の姿を見て、ますます落ち込んでしまう。
そんな雪歩を励ますのが真と春香なのだが、真は弱気になっている雪歩を率先して引っ張っていこうとするイメージで、春香は自分にも同じように弱い部分があることを明かし、静かに雪歩の背中を後押しするイメージと、きちんと役割が分担されている。
このあたりの流れはまさに1話でも印象的な演出として挿入された一節「1人では出来ないこと 仲間となら出来ること」を実践していたのではないか。
しかしそこですんなりうまくいくほど予定調和的な展開にはならず、男性はどうにかなりそうなものの、今度は会場に同じく苦手な犬を見つけてしまい、雪歩は再度くじけてしまう。
そこで満を持して?登場するのがプロデューサーだ。ここでまた真や春香に慰められたり励まされたりしてしまっては、さすがに「甘え」と受け取られかねないので、別の人物、とりわけ3人で頑張ると決心したところをきちんと見て、3人の気持ちを理解していたプロデューサーが説得に出るというのは、無理のない流れである。
犬を怖がっていることを知ったプロデューサーは、「犬は絶対ステージに近づけないしほえさせもしない」と雪歩と約束を交わす。
言葉でうまく説得できずに行動で示そうとする姿はいかにも駆け出しのプロデューサーと言う感じだが、同時にここで「約束」というフレーズを出してきたのも、「アイドルマスターSP」をプレイしていた人ならニヤリとさせられたかもしれない。
この時のプロデューサーは上述したとおり、台詞回しから体の姿勢(少し猫背)まで、かなり「駆け出しプロデューサー」であることを強調して描かれている。指で犬の顔を作って雪歩を落ち着かせようとする一幕も、それをやったあとに照れくさくなって「少し子供っぽいか」と自分で突っ込んでしまうところが、不器用さを醸し出していてまた良い。
プロデューサーですら怖がっていた雪歩が彼の不器用な気遣いに触れて、びくつきながらもどうにか小指と小指の「約束」を交わすシーンは、今話で一番の名場面と言えるのではないだろうか。
そしてそれと同時に静かに流れ始める「ALRIGHT*」。
この歌はCD「MASTER SPECIAL 04」に収録された雪歩の曲であり、雪歩の担当声優が朝倉杏美さんに代わってからは初めて歌われた曲でもある。
「今日がんばればきっと明日は素晴らしいものになる。だから一歩を踏み出そう。」という内容の本曲は、まさに今話の雪歩にふさわしい曲であり、これを声優変更後の雪歩が初めて歌ったということも含め、古参ファンの胸中には様々な想いが去来したのではないか。
そしてこの歌の通り、決意を新たにした雪歩は最初の一歩を踏み出すため、亜美真美が間違えて持ってきてしまったパンク風の衣装を着こみ、メイクも施した上でステージに飛び出し、「イェーイ!!」と絶叫する。
この辺もまた雪歩の暴走気味な面を見せているわけだが、単なる暴走ではない雪歩の決意、それに春香と真が同調することで会場が盛り上がり始める「仲間となら出来ること」の再描写などが、各人の表情、セリフ、動き、他アイドルや観客の様子などの様々な要素を最大限に活用し、時間にして3分程度でしかない中で濃密に描かれていた。
踏み出したその一歩が雪歩にとってより良い明日を呼ぶものになったであろうことは、歌い終えた後の雪歩の笑顔を見れば言わずもがなであろう。
ラストにプロデューサーも犬が苦手だったという事実が発覚する。
プロデューサーは頑張っている雪歩の姿を見て、自分も苦手を克服しようと思い立ち、そんなプロデューサーに励まされて雪歩は一歩を踏み出す決意をした。2話に続いてプロデューサーとアイドルがほんの少し、しかし確実に成長したわけだ。
それはラストでプロデューサーと会話する雪歩が、今までのように怯えることなくまっすぐプロデューサーを見ていることからも窺える。
ちなみにラストのことを踏まえた上でもう一度見返すと、Aパートで犬に吠えかけられた際、雪歩だけでなくプロデューサーもかなり驚いた顔をしていることも分かり、このあたりの芸もまた細かい。
ラストでプロデューサーの机に置かれていたびわ漬けも、Aパートでの会話における伏線もさることながら、雪歩からのお礼の気持ちと雪歩らしい控えめさとが一緒に込められており、その丁寧な見せ方には改めて驚かされる。
今回は雪歩とそれをフォローする春香、真が中心ではあったが、例によって他のアイドルも短い登場時間の中でそれぞれきちんと個性を発揮しているのは、相変わらずすごい。
牛と仲良くなってしまう響や劇中ほとんど寝てばかりだった美希はもちろんだが、アバンで真と口喧嘩を起こしそうになる伊織と、それを止めようとするプロデューサーの描写が、さりげないながらも2話以降の関係が良好であることを匂わせていて良かった。
村祭りイベントが当初の想像とは違いすぎてテンションが全員だだ下がりになってしまったのは、アイマス1での低テンション時を彷彿とさせるし、祭りの準備の手伝いをする羽目になったり、ステージイベントが始まってからもわたわたして落ち着かなかったりと、短い時間ながらも「イベントの舞台裏」をきちんと描いていたのもアイマスならではと言えるだろう。
事務所の壁に貼られている社長直筆の訓示?が「飛翔」から「勇気」に変わっていたり、ホワイトボードに美希のサインを利用して(恐らく)亜美真美が○×ゲームをした形跡があったりと、相変わらず事務所内の背景美術は変態的と言えるほどに細かく描かれている(笑)。
おかしかったのはステージ上の雪歩たちを眺める伊織、やよい、貴音の3人。伊織とやよいは焼きそばの屋台を手伝っていたようだが、貴音はそこで売っていないたこ焼きを持参し、且つ食べながらステージの感想を述べているという、なかなかミョーな光景になっていた(たこ焼きについてはサイドストーリーで触れられている)。
次回は予告を見る限り千早に貴音が絡む形になるようだ。
今話でもステージ上の雪歩たち3人を複雑な表情で見つめていた千早。歌以外のことにはまったく興味を示さない彼女に訪れる物語はどのようなものであろうか。