また1人、忘れられない人が旅立ってしまった。
何度も病気で倒れながらもその都度復帰してきたから、先月仕事を再開したと聞いた時も「いつもどおりだな」などと思っていた矢先の悲報である。
僕にとって藤田氏と言えば、やはり必殺シリーズの中村主水になる。
「殺し屋に見えない人物を殺し屋にキャスティングする」という必殺シリーズの不文律を考えれば、当時まだコメディアンとして認知されていた藤田氏にとって、主水役はまさに適役だった。
とは言え「仕置人」当時はそれほど演技もうまいとは言えず、殺陣に至っては正直な話、下手と言っていいレベルだったとも思う。
しかし昼の顔と夜の顔とを巧みに使い分けるキャラクターはファンから絶大な支持を得て、中村主水は次第にシリーズそのものの顔として定着するようになる。
当然藤田氏が主水を演じる機会もどんどん増えてくるわけで、その中で殺陣も演技も研鑽されていったのだろう。
今思い返してみると、初期の仕置人とか仕留人のあたりは、主水もまだまだ殺し屋としてはアマチュアであり、気の合う仲間とつるんでやりたいことを楽しんでやっていた、と言う感じである。これはそのままコメディアン的な部分を少々引きずっていた藤田氏の演技とオーバーラップしていると思う。
主水はシリーズ中で戦歴を重ね、同時に仲間の死や寂しい解散と言った、裏稼業特有の厳しい現実を知るようになり、次第にプロフェッショナルとしての技と矜持を持つようになる。
そして「仕事人」「新仕事人」のあたりになると、主水は名実共に最強の仕置人として活動するようになるわけだ。
それは演じた藤田氏自身の演技力向上とも重なる。一つ一つの動作にも深みと渋みが加わるようになり、ベテランの仕置人、主人公チームの重鎮としての存在感を見せ付けるようになる。
中村主水を藤田氏が演じることで、互いに影響を及ぼしあい、相乗効果として成長していったように思えるのだ。
そして去年、久々に放送された「仕事人2009」では、以前のシリーズからはかなり歳を重ねたにもかかわらず、いやだからこそなのか、圧倒的な存在感で主人公チームの中に座し、ともすれば陳腐になってしまいがちな2009の世界観を地に足の着いたものとしていた。
思えば必殺シリーズは「木枯し紋次郎」と並び、それまでの時代劇の常識を覆した革新的な作品だった。
必殺以後の藤田氏の代表作である「はぐれ刑事純情派」シリーズも、それまでのハードボイルド系やオシャレ系と言った刑事ドラマの路線ではなく、「ホームドラマ」的な刑事ドラマと言う新境地を開拓したドラマだった。
どちらも日本テレビ史に名を残す作品であることは疑う余地もないし、その両方の作品に主役として名を連ね、両シリーズを定着させたその能力と功績は非常に大きいと言えるだろう。
日本テレビドラマの発展に貢献した偉大な方が、また1人彼岸へと旅立った。
ご冥福をお祈りいたします。
蛇足だけど、昨日のNHK夜7時のニュースでこのニュースを流していた時、藤田氏が必殺シリーズで演じた裏稼業名を「仕置人」と紹介していた(表記は「仕置き人」だったけど)。
中村主水を「仕事人」と呼ぶことにどうしても違和感を感じてしまう古参のマニアにとっては、ほんの少しだけ慰めになったのではないだろうかと、勝手に思ったりしている。
素晴らしい役者でしたね。
ご冥福を お祈り申し上げます