2019年02月10日

ゲゲゲの鬼太郎(第6期)35話「運命の魔女たち」感想

 西洋妖怪編も折り返しを過ぎ、明確に鬼太郎自身がバックベアードと敵対する理由を見出したことで再び激しい戦いが起きることを予感させる流れになってきたが、その渦中で仲間としての絆を培ったはずのアニエスは鬼太郎の元をまたも離れていってしまう。
 彼女が何を思い、その思いに鬼太郎はどのように応えるのか。最終決戦の前に今一度両者の気持ち・決意を明示する儀礼的な話が今話の主な内容である。

 アニエスが自分の過去と自分自身に秘められた事情を最初に打ち明けた相手は鬼太郎ではなく、鬼太郎よりも前に友達として関係性を築いていたまなだった。
 まなと仲良くなれた場所でアニエスはゆっくりと語り出す。姉のアデル、そして母親と楽しく暮らした幼い日のこと、優秀な姉にコンプレックスを抱いてきたこと、些細なきっかけで見せた魔法の力の一端がバックベアードの目にとまったこと、そしてブリガドーン計画とアルカナの指輪のこと…。
 アルカナの指輪がその力を最大限に発揮するには強い魔力を持つ魔女の命を生贄に捧げることが必要だった。アニエスの母もかつてその「運命」に従って命と引き換えにブリガドーン計画を発動させていたのである。そしてバックベアードは日本でブリガドーンを実行するためそのコアに、つまり次の生贄としてアニエスを選んでいたのだった。アニエスはベアードの命に従って生贄になることに、そしてそれを受け入れて母を見殺しにしたアデルに、魔女である自分が当然持つべきものとして存在していた「運命」に反発して遁走してきたのである。
 彼女にしてみれば母の死の直接の原因であるベアードに従いたくないという気持ちも当然あるだろうが、それと同等に幼い頃はいつでも一緒だったという姉のアデルが変わってしまったことに対する反発心もあるのだろう。アデルを姉として慕っていたからこそ今のアデルがしていることを認めることができない、複雑な胸中を吐露するアニエス。
 そしてその気持ちはアデルの方も同じだった。アデルは魔力の才能を見いだされベアードに選ばれた妹という存在に嫉妬していたのではないかと自問する。殊更に魔女一族の誇りに固執するのはその裏返しではないのかという苦悩さえその表情には浮かべており、彼女も決してベアードを盲目的に信奉しているわけではないということがわかるのだが、その苦悩さえも強い意志の元に抑え込み改めてアニエスと指輪を手に入れようと決意するアデル。

 そしてアニエスは自分の正直な気持ちをまなに打ち明ける。指輪を破壊するため、ブリガドーンを止めるために最初はただ利用するつもりだった鬼太郎たち、そして人間であるまなと仲良くならなければよかった、そうならなければ「巻きこみたくない」という思いを抱くことなどなかったのにと。
 これまでにもたびたび見せてきたアニエスの優しさを考えれば、仲間として迎え入れてくれた鬼太郎たちを大切に思う気持ちも、それ故に鬼太郎たちを巻き込みたくないと考えるのも当然であろう。彼女はバックベアードや配下の西洋妖怪だけでなく、自分自身の背負わされた運命ともずっとただ1人で戦ってきたのである。
 優しさ故にずっと苦しんできたであろうアニエスの心を救ったのはまなの言葉だった。友達になれて良かった、巻き込まれたなんて思わないと言うまなの素直な想いは、1人で苦しんできたアニエスの乾いた心を潤すには十分であったろう。アニエスがまなに抱きつき涙を流すのは1人で運命に抗い続けてきたアニエスが初めて他人を、仲間を頼った瞬間でもあった。
 その上でまなは改めて鬼太郎に相談するようアニエスに持ちかける。いささか逡巡しながらも友達であるまなの言葉を信じ、鬼太郎の下へ向かうことを決意したアニエスは、まなの手に感謝のキスをした後ゲゲゲの森へと向かう。
 森に入ってきたアニエスを妖怪たちは警戒し、果ては石まで投げて追い出そうとするが、そこに現れたねこ娘がアニエスを静かに後押しする。それに呼応するかのように続々と姿を見せる砂かけ婆に子泣き爺、一反木綿にぬりかべ。ねこ娘に限っては途中からだがアニエスとまなの会話を目撃していたこともあり、それを踏まえてのこの行動だろうが、それ以外の面々が敢えて言葉を発することなくアニエスの下に集まってきたのは、もはや会話を改めて交わさずともその想いが1つになっていることの証左なのだろう。多くの妖怪たちがアニエスの存在自体を拒絶する中、見知ったレギュラー妖怪であり、そして視聴者にとっては「ファミリー」として定着している妖怪たちがただ一つの目的のために集結する様は否応なしに高揚させてくれるではないか。

 集結した仲間たちの想い。それは彼ら「ファミリー」の中心に常にあり続ける1人の妖怪とも同じだった。注意して見ているとわかるが、アニエスとまなの会話は最初からカラスがずっと見続けていた。この世界において情報伝達役として重要な存在でもあるカラスは、アニエスの事情をすべて見て聞いていたのである。すべての事情をある妖怪に伝えるために。
 恐らくはアニエスが訪れる直前に彼はカラスからすべての事情を聴いていたのだろう。だから彼は敢えて多言を口にすることはなかったに違いない。助けてというアニエスの短い言葉に今の彼女の想いすべてが込められていることを彼は理解し、その必死の想いに応えたのだ。これこそが「ゲゲゲの鬼太郎」なのである。
 鬼太郎はなおもアニエスを追い出そうとする妖怪たちにはっきりと宣言する。ベアードの作る世界は単なる妖怪の世界ではなくバックベアードの世界であり、ただ1人の存在に支配され互いが互いを監視し合うような世界はまっぴらだと、そしてそれを果たそうとするベアードとは1人でも戦うと。
 忘れられがちだが鬼太郎もねずみ男とは別ベクトルながら、ねずみ男と同様に何にも縛られないという意味での自由人的気質を持っている。勿論「正義の味方」としての考え方も鬼太郎の大事な信念であるからまるっきりねずみ男と一緒というわけではないが、以前の3話でも片鱗をみせていたその気質が、今話にて最大限に炸裂したと言えるだろう(さらに言うなら結構とんでもないことをしでかし続けているねずみ男と悪友の関係を保ち続けているのも、根本が似通っているからである)。

 来たる最終決戦に向けて鬼太郎側の決意は固まった。その時とタイミングを同じくして出現するアルカナの指輪。指輪を求めて再び日本へ向かうバックベアード軍。そして暗躍する名無し。
 最後の戦いはいかなる結末を迎えるのであろうか。
posted by 銀河満月 at 16:09| Comment(0) | ゲゲゲの鬼太郎(第6期)感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゲゲゲの鬼太郎(第6期)34話「帝王バックベアード」感想

 別作業を優先していたら鬼太郎の感想を書くのがすっかり遅れてしまった。5期の感想も結局中途半端に終わってしまったし(まあ全体の4分の3くらいは書いたんだけどね…)、早く最新話に追いつくようにしていかないと。

 今回の話はこれまで顔見せ程度だった出番のバックベアードがメイン。力と力をぶつける話ではなかったものの、鬼太郎とベアードの思想・信条的な対立を決定づけるという点では両者の初「対決」話と言ってもいいだろう。
 今期のベアードは原作やこれまでのアニメ版におけるベアードのような「球体の体で中央に目がついている」存在と違い、存在そのものが別空間に存在しており周囲の黒い部分は空間の裂け目で、別空間から目だけを突き出しているという存在に改変が成されているが、今話はその改変が生きた話でもあった。28話でも少し描写があったが本体が別空間に存在しているから自分自身が移動することなく、どこからでも常にこちら側の世界の至る所を見やることができるという設定が加えられたことで、アニエスやねこ娘たち仲間妖怪の居場所を容易に見つけ虜にするというやり口に説得力が付与されている。
 さらに言えば妖怪大戦争後のアニエスや鬼太郎たちの行動さえも筒抜けだったのかもしれない、指輪が見つかるまで泳がされていただけだったのかもしれないと考えると、バックベアードの帝王としての圧倒的な実力と恐ろしさが窺い知れるわけで、今話の時点ではそれほど出番のないベアードの存在感を見せつけるには十分な能力設定だろう。
 そのような具体的な力を見せつけるだけでなく、鬼太郎の仲間たちを攫ったりねずみ男たちを甘言で惑わせてアニエスを精神的に追い詰めていくという卑劣な手段を行使してくるところは、いかにも「悪の軍団のリーダー」らしい完璧な敵役としての立ち回りであった。ましてその直前に悩みながらも妖怪バスツアーに参加しようと手弁当を作るアニエスと、それを微笑ましく見守る砂かけ婆たち妖怪アパートの面々を描写したばかりである。鬼太郎や日本の妖怪たちとも打ち解けたい、仲良くなりたいというアニエスの純粋な気持ちを見せておいて、そのアニエスの優しさを巧みに突く作戦を用いてくるやり口は、バックベアードという妖怪の恐ろしさを印象付けるという意味でもこれ以上ないほどに効果的であったろう。

 それ故にクライマックス、操られた仲間たちと戦うことを強要される窮地に立たされながらもベアードに屈することなく仲間たち、そしてアニエスも全員救って見せると決然と言い放つ鬼太郎の姿は非常に凛々しくカッコいい、正しく正義の味方・ヒーローであった。そしてそれはいみじくもバスツアーに参加することをためらうアニエスがまなに受けた「アニエスはどうしたいの」という助言と同じく、自分の心が求めるものに素直に従った故の決意であり、この時ようやくアニエスと鬼太郎は「共にありたい」という1つの想いを共有することができたのだろう。
 その想いに絶望の中の光を見出したアニエスは鬼太郎と協力し合うことでベアードからの脱出に成功する。鬼太郎だけでなくカミーラに騙されていたとは言えアニエスを追い出そうとしていたねずみ男が、唯一の武器である最後っ屁と「屁子力」による爆発で鬼太郎をアシストした点も、鬼太郎単独ではなく鬼太郎「たち」がアニエスを救うという骨子の暗喩になっており、同時にねずみ男らしいフリーダムぶりをも体現している名シーンと言える。
 この瞬間、アニエスはいわゆる鬼太郎ファミリーの一員になったのかもしれない。

 しかし想いを共有したはずのアニエスは、いやだからこそなのか、さよならの言葉を残して鬼太郎の元を飛び立ってしまう。ベアードの残した「ブリガドーンのコア」という言葉の意味も含め、アニエスの胸中は次回で明らかになるのだろうか。
posted by 銀河満月 at 12:07| Comment(0) | ゲゲゲの鬼太郎(第6期)感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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