彼女が何を思い、その思いに鬼太郎はどのように応えるのか。最終決戦の前に今一度両者の気持ち・決意を明示する儀礼的な話が今話の主な内容である。
アニエスが自分の過去と自分自身に秘められた事情を最初に打ち明けた相手は鬼太郎ではなく、鬼太郎よりも前に友達として関係性を築いていたまなだった。
まなと仲良くなれた場所でアニエスはゆっくりと語り出す。姉のアデル、そして母親と楽しく暮らした幼い日のこと、優秀な姉にコンプレックスを抱いてきたこと、些細なきっかけで見せた魔法の力の一端がバックベアードの目にとまったこと、そしてブリガドーン計画とアルカナの指輪のこと…。
アルカナの指輪がその力を最大限に発揮するには強い魔力を持つ魔女の命を生贄に捧げることが必要だった。アニエスの母もかつてその「運命」に従って命と引き換えにブリガドーン計画を発動させていたのである。そしてバックベアードは日本でブリガドーンを実行するためそのコアに、つまり次の生贄としてアニエスを選んでいたのだった。アニエスはベアードの命に従って生贄になることに、そしてそれを受け入れて母を見殺しにしたアデルに、魔女である自分が当然持つべきものとして存在していた「運命」に反発して遁走してきたのである。
彼女にしてみれば母の死の直接の原因であるベアードに従いたくないという気持ちも当然あるだろうが、それと同等に幼い頃はいつでも一緒だったという姉のアデルが変わってしまったことに対する反発心もあるのだろう。アデルを姉として慕っていたからこそ今のアデルがしていることを認めることができない、複雑な胸中を吐露するアニエス。
そしてその気持ちはアデルの方も同じだった。アデルは魔力の才能を見いだされベアードに選ばれた妹という存在に嫉妬していたのではないかと自問する。殊更に魔女一族の誇りに固執するのはその裏返しではないのかという苦悩さえその表情には浮かべており、彼女も決してベアードを盲目的に信奉しているわけではないということがわかるのだが、その苦悩さえも強い意志の元に抑え込み改めてアニエスと指輪を手に入れようと決意するアデル。
そしてアニエスは自分の正直な気持ちをまなに打ち明ける。指輪を破壊するため、ブリガドーンを止めるために最初はただ利用するつもりだった鬼太郎たち、そして人間であるまなと仲良くならなければよかった、そうならなければ「巻きこみたくない」という思いを抱くことなどなかったのにと。
これまでにもたびたび見せてきたアニエスの優しさを考えれば、仲間として迎え入れてくれた鬼太郎たちを大切に思う気持ちも、それ故に鬼太郎たちを巻き込みたくないと考えるのも当然であろう。彼女はバックベアードや配下の西洋妖怪だけでなく、自分自身の背負わされた運命ともずっとただ1人で戦ってきたのである。
優しさ故にずっと苦しんできたであろうアニエスの心を救ったのはまなの言葉だった。友達になれて良かった、巻き込まれたなんて思わないと言うまなの素直な想いは、1人で苦しんできたアニエスの乾いた心を潤すには十分であったろう。アニエスがまなに抱きつき涙を流すのは1人で運命に抗い続けてきたアニエスが初めて他人を、仲間を頼った瞬間でもあった。
その上でまなは改めて鬼太郎に相談するようアニエスに持ちかける。いささか逡巡しながらも友達であるまなの言葉を信じ、鬼太郎の下へ向かうことを決意したアニエスは、まなの手に感謝のキスをした後ゲゲゲの森へと向かう。
森に入ってきたアニエスを妖怪たちは警戒し、果ては石まで投げて追い出そうとするが、そこに現れたねこ娘がアニエスを静かに後押しする。それに呼応するかのように続々と姿を見せる砂かけ婆に子泣き爺、一反木綿にぬりかべ。ねこ娘に限っては途中からだがアニエスとまなの会話を目撃していたこともあり、それを踏まえてのこの行動だろうが、それ以外の面々が敢えて言葉を発することなくアニエスの下に集まってきたのは、もはや会話を改めて交わさずともその想いが1つになっていることの証左なのだろう。多くの妖怪たちがアニエスの存在自体を拒絶する中、見知ったレギュラー妖怪であり、そして視聴者にとっては「ファミリー」として定着している妖怪たちがただ一つの目的のために集結する様は否応なしに高揚させてくれるではないか。
集結した仲間たちの想い。それは彼ら「ファミリー」の中心に常にあり続ける1人の妖怪とも同じだった。注意して見ているとわかるが、アニエスとまなの会話は最初からカラスがずっと見続けていた。この世界において情報伝達役として重要な存在でもあるカラスは、アニエスの事情をすべて見て聞いていたのである。すべての事情をある妖怪に伝えるために。
恐らくはアニエスが訪れる直前に彼はカラスからすべての事情を聴いていたのだろう。だから彼は敢えて多言を口にすることはなかったに違いない。助けてというアニエスの短い言葉に今の彼女の想いすべてが込められていることを彼は理解し、その必死の想いに応えたのだ。これこそが「ゲゲゲの鬼太郎」なのである。
鬼太郎はなおもアニエスを追い出そうとする妖怪たちにはっきりと宣言する。ベアードの作る世界は単なる妖怪の世界ではなくバックベアードの世界であり、ただ1人の存在に支配され互いが互いを監視し合うような世界はまっぴらだと、そしてそれを果たそうとするベアードとは1人でも戦うと。
忘れられがちだが鬼太郎もねずみ男とは別ベクトルながら、ねずみ男と同様に何にも縛られないという意味での自由人的気質を持っている。勿論「正義の味方」としての考え方も鬼太郎の大事な信念であるからまるっきりねずみ男と一緒というわけではないが、以前の3話でも片鱗をみせていたその気質が、今話にて最大限に炸裂したと言えるだろう(さらに言うなら結構とんでもないことをしでかし続けているねずみ男と悪友の関係を保ち続けているのも、根本が似通っているからである)。
来たる最終決戦に向けて鬼太郎側の決意は固まった。その時とタイミングを同じくして出現するアルカナの指輪。指輪を求めて再び日本へ向かうバックベアード軍。そして暗躍する名無し。
最後の戦いはいかなる結末を迎えるのであろうか。