さすがに男はソーセージ、女はすべてメイドにという原作での侵略構想は再現されなかったものの、日本が狸に支配されてしまったという構図自体や狸の悪口を言ったら逮捕されてしまうといった原作のシチュエーションは冒頭の描写にも生かされている。間違って「たぬきそば」を注文しても逮捕されるというちょっと笑えるシーンと、狸の尻尾をつけている者とそうでない者とで格差が生じており、侵略された側の人間も一枚岩ではなく内部に支配階級と被支配階級が出来上がっているというかなりきつめのアニメオリジナルシーンとを織り交ぜて描写しているのは、原作描写にさらに一捻り加えることを得手とする6期らしい描写と言える。
鬼太郎を復活させるべく要石の元へ向かう仲間たちの戦闘描写もまた原作だけでなく歴代アニメ作品の良点を引き継ぎつつ、さらに熱いアクションシーンとなっており、それは復活した鬼太郎と妖怪獣の激闘も同様だった。ストーリー上のヴォルテージに呼応してか作画も1話あたりの原画枚数が指定されているという東映アニメらしからぬ力の入れようで、鬼太郎&一反木綿の空中戦など何回か見返さないとどういう動きをしているのか判別できないほどの挙動になっており、この八百八狸以前の数話がアクション控えめだったこともあり、この前後編にアクション面での全精力を投入したと言わんばかりの戦闘は非常に見応えあるものになっていた(鬼太郎らしくないと言ってしまえばそれまででもあるのだけど…)。
一部ではあまり目立っていないと言われていたぬりかべは今回得意技である壁塗り込みを初披露し、子泣き爺は5期でも見せた腕だけ石化させての格闘、砂かけ婆も5期で見せた特殊な砂(しびれ砂)を使っての砂かけ、ネコ娘はシルクハット狸の団一郎とガチの格闘戦、そして一反木綿は団三郎のふんどしにされながらも原作どおりに隙をついて刑部狸の首を絞め、まなにかけられた呪いを一時無効化させるという殊勲を上げており、それぞれに活躍の場が与えられていた。特に砂かけ婆はかつての月曜ドラマランド版や80年代マガジン版でのみ使用していたアイテム「砂太鼓」を奥の手として使用しており、ここでいきなりこのマイナーな道具を使ってきたことに原作・テレビ双方を長く見てきたファンは驚きの声を上げたのではないだろうか。戦いに入る前の子泣きと砂かけのやり取りも、今回の戦いがまさに血戦であることを物語っていて、大いに盛り上げてくれた。
その分ねずみ男はほとんど最後まで狸側に与し、刑部狸がやられた時の洞窟崩壊に巻き込まれるのみと、原作でも見せた「敵についたり味方についたりする」ねずみ男らしさがほとんど発揮されていなかったのが残念だった。恐らくこれは今話オリジナルであるまなの描写に力を入れる分、ねずみ男の描写をどうしても省略せざるを得なかったのではと愚考する。
そのまなの活躍が文字通り今話のキーとなっているのだが、今回のまなの行動はありきたりな「いつも鬼太郎に助けられているのだから今度は自分が助けたい」という恩返し的な理由からのみ来ているものではないという点に注目すべきだろう。
要石にかけられた術が人間に効かないはずだからという(いささかご都合主義的な)理由はあったもののそこに到達するまでは簡単ではなく、前話で刑部狸にかけられた呪いが発動してまなは狸化してしまう。体が変わるだけでなく心まで八百八狸のものとなってしまう妖術だったようでまなもかなり苦しめられるが、そんな彼女の脳裏に浮かぶのは鬼太郎と初めて出会ってからの鬼太郎や妖怪たちと過ごした記憶。妖怪など信じていなかったまなが鬼太郎たち「見えないもの」の存在を信じて触れ合えるようになり、短い時間ではあるが共に生きてきた「友達」との思い出だ。
単純な恩返しではない、むしろそれよりもさらに単純な、それでも初登場の頃から友達を大事にする姿勢を見せてきたまなだからこそ抱く単純で素直な「友達を助けたい」という行動理念。まなの脳裏によぎったその記憶は彼女のその理念を思い出させるには十分だったのだろう、失いかけた人間としての感情をギリギリのところで押し留める。
大げさに言えばこの瞬間、まなは他の仲間妖怪と同様に「戦って」いたし、その意味ではいわゆる鬼太郎ファミリーと同格の立ち位置についたとも言える。鬼太郎たち妖怪にただ守られるだけではない、いつも助けてくれる相手への恩を返す形で奮起したのでもない、ただ友達を助けるために自分なりの戦いを続けたまなが、だからこそ到達できた一つの帰結と言うべき形が人間と妖怪の垣根を超えたこの立ち位置なのである。それは2話の時と違い石から復活した鬼太郎がごく自然に、素直にまなへお礼の言葉を伝えるという演出、そして要石の力を一時的に得たまなが鬼太郎と協力して妖怪獣を倒すというクライマックスに結実している。
余談だけどもまなの協力を得たスーパー指鉄砲(仮名)で妖怪獣を打ち抜くだけでなく、そのまま13金パート9の某シーンのように体を割いてしまうところまでやってしまうのはなかなかにえげつなかったが、同時にあれだけ苦戦した妖怪獣に完全勝利できたということがわかりやすく描かれており、親切な見せ方とも思った(笑)。
だがまなが得た立ち位置とはあの瞬間だけの極めて特異なものでもあった。その特異性故にまなは名無しに目をつけられてしまう。彼女の掌から注ぎ込まれた得体の知れない力、そして「木」の刻印は何を意味するのか。名無しの回想と思しき断片映像も含めて今期独自の縦糸となる物語がようやく本格的に動き出したようである。
さて次回はダイヤモンド妖怪こと輪入道。5期では妖怪横丁に住む味方妖怪だったため、悪役として鬼太郎との戦いが描かれるのは4期以来になるが、どんな話になるのだろうか。