2011年10月16日

アニメ版アイドルマスター15話「みんな揃って、生放送ですよ生放送!」感想

 以前にもこのブログで書いたことがあるが、アニメ版アイドルマスターは1話完結のアンソロジー形式を基本として製作されている。この形式は「作品世界の根幹を塗り替えるほどのものでもない限りは、演出や表現にかなりの自由を利かせられる」ことが一番の利点であり、アニマスもその利点を生かして様々な演出や表現を用いることで、各話それぞれに異なる独自の味付けが施されてきたことは、今まで見続けてきた方ならば周知のことであろう。
 今回の第15話もその利点を最大限に生かした内容となった。内容そのものは端的に言えば8話と同様の「ギャグ」になるわけだが、今回はそれを補足・拡張する形で、8話にはなかった要素が新たに付け加えられた。
 それは「パロディ」である。

 14話でも少しだけお披露目されていた、春香・千早・美希が司会を務める765プロアイドル全員参加番組「生っすか!?サンデー」が今話の舞台。

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 日曜午後に放送されている1時間の生放送番組を番組の表と裏、双方の描写を絡めて描くというコンセプトは、13話でのファーストライブと同様のものであるが、今回は「予想外の大きなトラブル」の有無という違いはあるものの、全体的にライブの時よりは浮つくことなく、場慣れした様子で番組は進行していく。
 初ライブの頃よりも確実に成長しているアイドルたちの様子が窺えると同時に、「765プロアイドル」としての看板番組にアイドル全員が参加していることで、14話での写真撮影と同様「竜宮小町とそれ以外」という垣根が完全に取り払われたことを示しており、765プロそのものの堅調ぶりさえも垣間見えよう。
 しかし今回は各人の成長などと言った縦糸的要素は後背に控える形となっており、メインはその番組内における今現在の各アイドルを、パロディをふんだんに交えながら描写することに徹底している。
 パロディのネタ元については知らないものも多いため、知っているものに限って注釈的な意味で触れていくことにしよう。

 最初のコーナーは「響CHALLENGE!」。響が毎回何かしらにチャレンジするという企画のようだが、久々登場のハム蔵と共に映し出されたランニングスタイルの響がいる場所は、とても東京近郊とは思えないような田舎。

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 ランニングシャツや短パンの一部にイメージカラーがあてがわれているのは、いかにもアイマスと言うところだが、そこから放送時間内にスタジオにゴールすることが今回のチャレンジ内容とのことで、早速走り始める響。
 この企画自体は有名なチャリティー生放送番組の名物企画を思わせるが、個人的にはそれよりもそのシーン中に流れた「違法アップロード禁止」のテロップに注目したい。
 もちろんアニマスでは冒頭に毎回流れているごく普通のテロップだが、今話のアバンは丸々「生っすか!?サンデー」という劇中番組のオープニングとして作られていたため、見ようによってはテロップ自体もまた劇中番組の方にかけられたテロップと考えることもできる。
 そしてそれはそのまま、現代におけるテレビアニメ放送形態そのもののパロディと解釈することも可能になるわけだ。
 無論スタッフはそこまで考えていたわけではないだろうが、全編見終えて今話がパロディ主体のギャグ話であることを理解した上でもう一度見直すと、製作陣の意図を超えたパロディ的要素をここに見ることができるのではないか。
 さらに言うならこの制作側の意図を超えた解釈を起点として生まれるのが、今話でもパロディ要素として多少盛り込まれた「二次創作」であり、このテロップはアイマス全体と二次創作との少し特殊な関係性さえも、期せずして示しているように思う。
 テロップが本放送の時にしか挿入されず、リアルタイムに見た人間でしかそのような解釈をして楽しむことができないというのも、二次創作が所詮はグレーゾーンに属する産物でしかないことを考えれば、なかなかに暗喩的である。

 CM開けのアイキャッチ風挨拶を挟んで行われるのは、やよい・伊織・あずささんの幼稚園からの中継。

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 3人が着ている服はそのまま「ライブフォーユー!」でのDLCで配信された「チャイルドスモック」という、一部のファンから絶大な支持を受けた衣装が元ネタになっている。劇中では唯一成人年齢に達しているあずささんが着るのは…という春香のツッコミがあったが、一応14歳と15歳と言う年齢であるやよいと伊織が来ても違和感がないというのも、よく考えると結構危険な発言ではある。
 そんな中でもあずささんは8話同様、無意識に周囲(今回はスタジオの観衆)の目を引きつけてしまったり、伊織は7話で見せた子供たちへの面倒見の良さを発揮したばかりでなく、そんなあずささんをしっかりフォローしており、竜宮小町として普段活動している時の両者のやり取りまでも垣間見えて興味深い。
 やよいの姿を見て思わず千早が「可愛い」と漏らしてしまうのは、今までの千早の描写から考えると違和感を覚える視聴者もいるかもしれないが、一応元ネタとしてはCD「MASTER OF MASTER」内のドラマで同様のセリフを千早が言ったことと、何より千早を演じる今井麻美さんがずっと以前からやよいを大層気に入っているから、と言うことがあげられる。
 しかしそういう元ネタを抜きにしても、千早がやよいを特別気にかける理由は、公に語られることこそなかったもののきちんと存在していると考えられる。今井さん本人がツイッターで述べている通り、そこには千早が未だ事務所の誰にも明かしていないと思われる過去の出来事が関係しているのだ。
 それを頭に入れた上で思い返すと、千早は11話でダンスをうまくこなせないやよいと何度もぶつかってしまっているが、謝るやよいに千早は文句や注意を言うこともなく「いいえ、こちらこそ」と優しく返しており、このあたりからも以前からやよいに対しては優しく接していたであろうことを察することができるのである。
 そしてやよいは園児たちを相手に持ち歌「スマイル体操」を披露する。CDシリーズ「MASTER ARTIST 2」の中でお披露目された本曲は、「みんなー、集まってー」というセリフも曲の一部として使用されており、実際のアイマスライブにおける振り付けも体操を意識したものになっているのが特徴的だ。
 スマイル体操が流れている中、テレビに映っていないスタジオの方では、舞台裏にいるプロデューサーを見かけた美希が、プロデューサーへ投げキッスをして春香を慌てさせる。

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 前話の感想にも少し書いたとおり、美希がプロデューサーへの恋愛感情めいた部分を持っているのは確かなようだが、ゲーム版におけるいわゆる覚醒状態でのそれとはかなり雰囲気が異なるため、やはり今のところは恋愛よりも信頼の気持ちの方が勝っているようだ。
 本話の中で二度ほど「ハニー」と呼んでしまいそうになったり、実際に呼んでしまったりした際には美希本人も慌てた表情を作っていることを考えると、今回の投げキッスはむしろそれをわざとやることによって生じるプロデューサーの反応を楽しんでいる節があり、この辺は美希の持つ生来の小悪魔性が発揮されたと言える。
 そんな美希に迎合することもなく、あくまでプロデューサーとしてダメ出しをするプロデューサーの姿は、相変わらず清々しいほどに「プロデューサー」であった。
 元気に歌うやよいの姿をモニターで見つめながら、961プロのことを話すプロデューサーと律子。前話でカッコよく宣言したとは言え、アイドルプロデュースだけでなく961プロへの対策も考慮しなければならないというのはかなり大変なことだろうから、そういう点でも同僚プロデューサーの存在はかなり大きいと思われる。
 前にも書いたがアイドルたちが団結して目標を目指すのと同様、2人のプロデューサーもプロデューサー同士で団結して、「少女たちをトップアイドルに育てる」という夢のために邁進しているのだ。
 アイドルたちがアイドルとして、為すべきことをきちんとこなすことが大事だということを理解している彼らがしなければならないことは、そんなアイドルたちを支え続けること。ここでもまた961プロに対する765側のスタンスが改めて表明されたと言えるだろう。

 続いてのコーナーは「菊地真改造計画」。中継先にいる真をよりカッコよく見せるために雪歩がコーディネートするという企画だが、さすがに雪歩は単独でのレポーターに少し緊張している様子。
 しかし最初に真本人がコーディネートした服を試着した姿を見て態度が豹変、一気に強気な姿勢に変わりだす。

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 この時に真が発した謎の言葉?や「〜ナリよ」という語尾は、CD「MASTER LIVE 02」のボーナストラックトークが元ネタだが、元々真は女の子らしさに憧れながらも、その理想とする「可愛い女の子」像がどこかずれてしまっており、このシーンではそんな真の頓珍漢ぶりが遺憾なく発揮されたシーンであった。
 殊に着ている服は真のみならず誰が来ても微妙と言わざるを得ないようなフリフリすぎるもので、これを完璧に着こなせる人の方が少ないのではないかと思わされる服をチョイスしたのはさすがと言うべきだろう。
 そんな真を見て観客も春香や美希たちも意気消沈、雪歩はいつもの気弱っぷりはどこへやら、真を大改造すると力強く宣言して映像をスタジオに返す。

 亜美と真美が披露するシュール系コントコーナー「あみまみちゃん」を流す間、しばしの休息を取る司会の面々。

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 「あみまみちゃん」でのシュールギャグは、今話分の「しゅーろくごー!」で担当声優の下田麻美さんが語ったところによれば、ふかわりょう(と思われる芸人)のギャグが元ネタになっているらしい。
 だがその辺の元ネタを差し引いても、亜美と真美が2人で一緒に仕事をこなしているという構図は、9話での真美の言葉を思い返すと感慨深いものがある。「超売れっ子になって亜美と一緒に仕事できるようになる」という目標を、真美は本当に自分の力で達成したのだから。
 これもまた「目標を目指して努力し続ける」彼女たちの信念が実を結んだ結果の一つであろう。
 舞台裏に下がった3人は、せわしない生放送の収録に思い思いの感想を述べるが、そんな中でもファーストライブの頃にはなかった精神的な余裕というものが確かに存在して見えるあたり、成長ぶりが見て取れる。
 そんな折、プロデューサーからの「もう少し肩の力を抜いた方がいいかも」というアドバイスを受けた千早は、舞台の方に目をやりながら複雑な表情を浮かべるのだが、これの意味するところは4話での「ゲロゲロキッチン」の時とは異なる想いであるということが、後々になって見えてくることになる。
 そして番組はCMへ。CM前の映像はそのままテレビ番組のCM前アイキャッチ風に作られているだけでなく、実際に今話もそこの時点でAパートを終了させてCMに入っており、メタフィクション的なお遊びを味わうことができるようにもなっているのが巧いところだ。

 CM開けのBパート開始時には再びアイキャッチ風挨拶が挿入されるが、春香がペットボトルの水を飲んでいる最中に始まってしまったため、春香がむせて挨拶できず、代わりに美希がフォローの挨拶を入れる。

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 これもいわゆる中の人ネタであり、春香を演じる中村繪里子さんがネットラジオの公録などで頻繁に水を飲む様子が元ネタになっている。実際に段取りの一環で自分に振られた時にちょうど水を飲んでいたため、むせてしまうこともあったり、最近の公録では他の出演者よりも水を多く飲むことを前提に、他より一回り大きいペットボトルが用意されていたこともあったりした。
 春香のこの描写については元ネタ以外の面からもきちんとした理由があるのだが、これもまた今の時点では特に本編中で触れられてはいない。
 番組の方ではまず未だチャレンジ継続中の響に中継を繋いでみるが、当の響自身も自分が今どこを走っているのかよく分かっていない様子。すぐ後ろにクマ出没注意の看板が掲げられていることにも気付かず壮健ぶりをアピールする響だったが、さすがに不安がる春香や千早の一方で、響なら大丈夫と深く考えずに言い切る美希という三者三様の対応が面白い。
 この3人が司会者に選ばれたのもその辺に理由があるのだろうか。

 次のコーナーは「四条貴音のラーメン探訪」。タイトルロゴや冒頭のナレーションまでも、構成作家ではなく貴音本人が考案し実製作したのではないかと思えるほどに、貴音のためのコーナーである。

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 アシスタント、と言うよりは貴音を「姫」に見立てた上での「従者」的立場である亜美真美を引き連れて貴音が向かった先は、「ラーメン二十郎」なるラーメン屋。
 僕はよく知らないのだが、このラーメン屋や店内での様々なネタについては、すべて「ラーメン二郎」なる本物のラーメン屋が元ネタになっているとのこと。元よりラーメン好きという設定が存在している貴音と、この「ラーメン二郎」を結びつけるネタは以前から存在していただけに、知っている人から見ればたまらないシークエンスだったと思われるが、もちろんネタ元を一切知らずとも楽しめる場面になっていることは言うまでもない。
 具体的にどの辺が楽しめるかと言えば、凛とした佇まいを終始崩さず、浮世離れした雰囲気すら漂わせている貴音の目的が、「ラーメンを食う」という原始的且つ庶民的な代物であるという時点でまずおかしい。
 「頼もう!」と言いながら入店したり、注文前に食券を購入するという店の注文システムを説明したりと、堂々とした態度はまったく崩さないのだが、その直後に「お金を入れて食券を買う」という当たり前のことを知らなかったことが発覚し、不思議そうに小首を傾げながらもその佇まいは維持したままというギャップがおかしさを倍増させる。
 食券購入という当然のことを知らないにもかかわらず、直後の注文場面では「麺カタ辛め野菜ダブルにんにく脂増し増し」などという、亜美真美からすれば謎の呪文にしか聞こえないトッピング内容を澱みなく注文しており、貴音のラーメンに対する情熱までも感じさせてユニークだ。
 そして出されたのはもやしがうずたかく積まれたラーメン。亜美真美がそのビジュアルに面食らう一方、貴音は笑みをこぼしつつラーメンを食べ始める。「ロットなるものが乱れてお店に迷惑がかかる」から早く食べることを促す貴音ではあるが、混乱する亜美真美を尻目にさっさと食べ始める貴音の姿は、本当に店のことを考えているのかも疑わしいくらいである。
 まして一切感想を漏らすことなく黙々と(本人曰く「粛々と」)食べているため、亜美真美の言うとおりレポートコーナーの体を為しておらず、結果的に貴音がラーメンを食べることを楽しむだけのコーナーになってしまっているというのが、何ともおかしい。
 にもかかわらずスタジオでの観衆からの反応が上々であるのは、ただそこにいるだけでもその佇まいから耳目を集めることになる貴音と、そんな彼女を独自のテイストで巧みにフォローする亜美真美、そして時にはそんな亜美真美のフォローさえ及ばなくなる貴音のマイペースな言動や行動が、絶妙にマッチしているが故だろう。
 パロディに溢れたシーンではあったが、その中でも3人の関係性と仲の良さはしっかりとアピールされていたのである。

 貴音のコーナーを流す一方で司会の3人は再び休憩を取るが、その時ふと千早が舞台を見つめながら「自分はまだ硬いのではないか、春香や美希のようになれればいいのだけど」と呟く。
 Aパートで千早が複雑な表情を浮かべた理由は、この煩悶にあった。千早は変わることを迫られた状況で変わることを拒絶せず、むしろどうすれば変わることができるのかをずっと考えてきたのである。
 4話での生放送時、結局最後まで変わることを拒んでしまったあの頃の千早とは雲泥の差であろう。
 意地悪な見方をすればあの頃とは状況も違い、以前よりは自分の好きな歌に集中して取り組める土壌が出来上がっているし、今回の生番組にしても番組の最後に歌を披露する機会がちゃんと用意されている(ED画面参照)から、4話の時よりは元々前向きな気持ちで番組に取り組めているという点もあるかもしれない。
 しかし無論それだけが理由ではないはずだ。11話や12話でのやり取りを見る限り、千早は自分自身が少しずつ変わってきていることを自覚しているし、雪歩ややよい、美希と言った仲間たちが変わっていく様も目の当たりにしてきた。そしてその結果として13話でのファーストライブを皮切りとした数々の成功が存在していることも理解している。千早の中で「変わりゆくこと」は既に否定的に捉えることではなく、肯定的に考えるものであるとして受け入れられているのだろう。
 だが今度は単純にどんなふうに変わればいいのかわからない。思い返すと今話における生放送でも、千早は台本通りのセリフと実際の中継を見てのごく個人的な感想しか述べておらず、アドリブなどに失敗することはあれど常に周囲に気を遣った発言をしている春香や、同様の個人的感想でもそれだけで周囲を笑わせてしまう才覚を発揮している美希と比較すると、明らかにトークレベルが低く描写されている。それがわかっているからこそ、わかっていても自分ではどうすればいいのかがわからないからこその苦悩だった。
 そしてそれは千早自身が気づかぬうちに変わってきていることへの証左でもある。歌以外の部分において他人の能力を評価し、比して自分の力が及んでいないことを自覚するなど、以前の千早では有りえなかったことだろうから。
 そんな煩悶を打ち明けた相手が、彼女の変化を大きく促した存在であろう春香というのも頷ける話だ。
 だが千早と同じような考えは、春香もとっくの昔に抱いていた。先程の水の件でも失敗したしアドリブには未だ弱いことを自覚している春香は、しかしそんな今の自分の姿に悩むことなく、マイペースさを崩さないまま司会をそつなくこなす美希を素直に褒める。

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 春香もまた自分自身の司会としての能力がそれほど高くないことを知っている。それでも彼女はそんな自分自身を卑下しない、というよりその種の考え方よりもまず、すぐそばにいる優れた能力を持つ仲間のことを評価し我が事のように喜ぶ、前向きな考え方が先に立っているのだ。
 そしてそれは11話でも言及された、「みんなと一緒に一つの番組をやれることが本当に楽しい」気持ちがあればこそのものである。今までにも様々な挿話の中で描かれてきた春香なりの理念。迷いのないその理念から生まれる強さこそが春香という少女の真骨頂でもあり、それを象徴しているのが彼女の笑顔であろう。
 自分自身の変化という命題については未だ明確な回答は示されていないものの、千早が春香のそんな笑顔に今も救われたことは間違いない。
 …尤も今話での生放送に限っては、その春香の意外な行動のおかげで千早も硬さを払拭することができるのだが。

 一方の貴音コーナーは、亜美真美があまりのもやしの量に四苦八苦する中、とうに完食した貴音の締めで終了した。
 その時スタジオに運び込まれてきたのは「今週の差し入れ」と題された、ラーメン二十郎からの試作品であるアイス。
 早速そのアイスがしまわれた紙の箱を開けようとする春香だったが、引っかかっているのかふたを開けられない。春香も次第に力を込めるが、次の瞬間ふたが勢いよく跳ねあがり、春香の顔面にヒットしてしまう。悶絶する春香の様子は横に座っている千早もたまらず笑い出してしまうほどだった。

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 この一連の場面の元ネタは、春香役の中村繪里子さんと千早役の今井麻美さんがかつて出演していたネット配信番組「prestar」で実際に起きた出来事である。以前からアイマスファンにはよく知られている出来事ではあったが、このシーンで驚くべきところは、ネタ元である「prestar」でのシーンからの再現率が異様に高いということである。
 有志がネタ元と比較してくれているので、その辺を参考願いたい。



 そういう意味では今話の「パロディギャグ」を最も如実に表現しているシーンと言えるわけだが、これまたもちろんのことながらパロディという前提を知っていなければ笑えない、陳腐なシーンでは決してない。
 まずそれほど厚くなく、ほどほどの紙で作られたほどほどの大きさの箱のふたが、硬くて開けられないというシチュエーションがまずバカバカしい。そしてそんなふたを開けるために次第に腕にも顔にも力が込められてくる流れも、傍から見れば「紙の箱を開けるだけなのに、まるで鉄の箱を開けるかのような過剰な力を入れている」ようにも見え、そのアンマッチさがまた笑いを誘う。
 そして隣に座っている人が興味深げに覗き込んだその瞬間、箱のふたがまるでバネ仕掛けのように勢いよく跳ねあがり、それがまた狙いすましていたかのように開けようとしていた人物の顔面にヒットする。「紙の箱で起きるであろうこと」として予測できる通念を吹き飛ばす、意外性溢れるその事象は、目撃した人間に多大なインパクトを与えること必至であるし、だからこそ大受けするのである。
 顔面ヒットした人が痛みで思わず両手を顔に当てたまま動かないという、若干間抜けなリアクションがおまけとして存在することで、この一連のシーンはより完全な笑いの場面として昇華するわけだ。
 短いシーンなれど「8時だョ!全員集合」などのような良質なコントの要素が過不足なく収まっている、非常におかしく笑えるシーンになっているのである。
 このようにシーン単体で見ても爆笑必至の場面になっているのだが、そこにネタ元の知識を混ぜることで、「こんなコントみたいなことが現実に起こった」事実が重なり、またおかしさにある種の深みが加えられるのだ。
 このシーンは単体で見ても十分に面白く、元ネタを知っていればさらに面白みを感じることができる、上質なパロディギャグの見本と呼ぶことさえ可能であろう。
 またこのシークエンスでは元ネタを活かして、千早の今まで描かれなかった側面を新たに描出することにも成功している。それは千早の「笑い」の部分だ。
 千早という少女は笑いのツボが他人よりも少しずれていることが多く、さらにそのツボにはまってしまうと、なかなか通常の状態に復帰できず笑い続けてしまうという、普段の千早からすればかなり意外な個性を持っている。
 今までの話の中でそれが描かれたシーンはなかったし、強引にストーリー中に挟んでくると無理な流れになりかねないから描写されない可能性もあったわけだが、前述のパロディと巧みに絡めてきたスタッフの手腕は、いつもながら見事なものだった。
 その直後は2人の様子に構わずアイスを取りだす美希、台本棒読みでアイスの感想を述べる春香、また思わず「ハニー」を口にしてしまう美希とフォローする春香、そんな一連の様子を見ていちいちうろたえるプロデューサーと、ギャグシーンがつるべ押しになっており、決してパロディギャグだけに頼らない構成には好感が持てる。
 美希の失言に「後で説教しときます」と呟く律子からは、2人の普段の関係が窺えて想像の余地が広がったというところか。

 続いては再び「あみまみちゃん」から入る映画予告。「あみ」と「まみ」を合わせて「あまみ」と読み、春香の名字と掛けて遊ぶのもファンの間ではだいぶ前から行われてきたことであり、これもまたパロディの一環だろう。

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 そして流れ始める映画「劇場版 無尽合体キサラギ」の予告編。

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 この予告編部分は錦織監督がキャラクターデザイン担当として携わった縁からか、「天元突破グレンラガン」で監督を務めた今石洋之氏が絵コンテを担当しており、そのためグレンラガンを想起させる演出が散見される(敵ロボットを取りこんで自身の戦力に変換するなど)。
 この劇中劇だけでも様々なパロディがふんだんに盛り込まれているのだが、さすがにいちいち解説するのは面倒なので、ネタ元を知りたい方は他の感想ブログを読んでくださいますよう。
 個人的にまず気になったのはキサラギのデザインネタがOVA版ジャイアントロボであるところか。OVA版のキャラクターデザインを担当したのは、ゲーム版アイマスのキャラクターデザインを務めた窪岡俊之氏であり、本作の監督である錦織氏は窪岡氏を好きなアニメーターの1人であると公言しているところからも、そのあたりを意識して意図的にパロディとしたのだろう(尤もOVA版ジャイアントロボ自体も好きらしいが)。
 「敵の巨乳を生かした攻撃を貧乳故の方法で防ぐ」構図は、個人的には安永航一郎氏の漫画「巨乳ハンター」シリーズの一編「巨ブラ」に出てきた「スペルゲン盆地胸バリヤー」を彷彿とさせてくれたが、これはあくまでも僕個人の発想であって、今話自体の着想に影響を与えたわけではないと思われる。
 ただ続けて個人的な考えを書くなら、アミとマミを裏切る人物が美希であったことはゲーム版「SP」のパロではないと思うし、「ハルシュタイン」という名前も別にマッハバロンのララーシュタインとは関係ないだろう。

 この劇中劇ではアイマスの二次創作関連のネタ、例えば「春閣下」などが元ネタとして使用されているが、ともすればキャラ崩壊を起こしかねない危険なネタを「劇中劇」という形で消化しつつ、単独の劇中劇としても溜飲の下がる派手な内容に仕上げたことは特筆に値するだろう。強烈な印象を残すハルシュタインが描かれたすぐ後に、春香本人に同じセリフを春香らしく言わせることで別人感を強調し、あくまで演技の内であることを明示していたあたりもまた、そういった「消化」の一つだろう。
 先程の事件のせいで鼻のあたりが赤くなってしまっている春香の顔を見るたびに笑い出してしまう千早を置いて、番組は再び「菊地真改造計画」へ。
 「いい仕事ができた」と自負する雪歩は、自信満々で「生まれ変わった真」を紹介する。
 あまりにはまりすぎている真のイケメンぶりに、スタジオの女性ファンのボルテージは最高潮に。

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 傍目に見ても真のイケメンぶりはジュピターが裸足で逃げ出すレベルにまで到達しているように見受けられるが、同時に春香にも突っ込まれている通り、本人が考えたであろうカッコいいセリフがすぐにネタ切れになり、単なることわざの羅列になってしまっているところに、真の素が見えて面白い。
 一方の雪歩は誰よりも興奮しだし、暴走気味に次々服を着せようとしだしたため、慌てて真はスタジオに映像を戻してしまう。

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 この辺はとある事務員を喜ばせるには十分すぎるカップリング描写であったわけだが、同時に雪歩の持っている良くも悪くも猪突猛進な面を、改めて描いているシーンであることにも留意されたい。

 先程の春香の衝撃映像が番組ホームページで配信されることが急遽報告された後、番組はお天気コーナーへ。
 Aパートの時と同じスモック姿のやよいが、中継先の幼稚園から明日の天気をお知らせするが、漢字を読むのが苦手なやよいはところどころでつっかえてしまい、伊織にフォローされるだけでなく周りの園児たちからも応援されてしまう。

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 やよいが漢字、というより勉強が苦手という設定はアニマスで11話で少し描写されていたが、今回のシーンに限ってはやよいの設定云々というより、今日初めて出会ったばかりの園児たちに応援されるほど、やよいと園児たちは仲良くなれていたという事実を重視すべきだろう。無論それはやよいの姉としての側面が最大限に発揮されたからに違いないからだ。
 美希からでこちゃん呼ばわりされてお決まりのセリフを返す伊織の後ろで、疲れて眠ってしまった園児を抱きかかえているあずささんも、非常にらしくて良い。
 そして残った最後のコーナー「響CHALLENGE」。スタジオの近くにまで到達しているのかどうか、響に中継を合わせてみると、響は明らかにスタジオ近辺とは思えないような場所で、しかも雨に降られながら独走を続けていた。スタジオからの声も届いていないようで、涙目になりながらも必死に走り続ける響。

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 しかし番組自体はもう終了の時間になってしまったため、無情にも今回の響のチャレンジは失敗ということで、コーナー自体は終了させられてしまった。
 このシーンはすぐ前のやよいのお天気コーナーで「現在の関東の空は雲一つないきれいな夕暮れ」「週末はいい天気に恵まれたが、一部の山間部ではにわか雨が降るかもしれない」との言を残しておいた上で、春香の「今にも足音が聞こえてきそう」という振りの後に、雨の中でどことも知れない場所を走っている響の姿が映しだされるという、きちんと段階を踏んだ典型的なオチとなっている。
 惜しむらくは響が1人で困っている様子を見せたままでコーナーが終了してしまったため、このシーンだけを抜き出して見ると、少し消化不良感が残ってしまうことか。
 ただ演出上は「スタジオからの声が届かない」という状況に連鎖する形で、中継先に画面が切り替わった直後、画面左上の時間表示が一瞬消えてしまう場面が織り込まれ、状況を細かく補足している。
 しかしこの場面は今話のオチそのものとして機能しているわけではない。これも途中の要素の一つに過ぎないのであって、本当のオチはこの後にやってくるのだ。

 響が番組終了後も完走目指して走り続けることが春香の口から伝えられたが、春香と同様に響のことを案じている女性が、テレビカメラの向こうに1人いた。
 日曜の真昼間なのに外に出かけるでもなく、トレーナーの上下にどてらを羽織っただけという簡素な格好で、煎餅をバリバリかじりながらテレビを見つめるその女性こそ、765プロの事務員である音無小鳥だった。

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 言うまでもなく今までは番組に直接携わっているアイドルたちの視点から番組が描かれてきたのに対し、最後にその番組をずっと客観的に見続けてきた「視聴者」である小鳥さんの側に視点を移動させることで、図らずも視聴中に抱いた感想を小鳥さんと共有することができるという、メタフィクション的な趣向が凝らされているわけである。
 現実世界の視聴者と劇中世界の視聴者がいつの間にか同じ視点に立ってしまっていたという事実が、今話最大のオチであったと言えるだろう。
 同時に日常描写が皆無と言っていい小鳥さんのプライベートが初めて明確に描かれたシーンとしても、記憶に残すべきところだろう。
 小鳥さんは12話でのプロデューサーのフォローに代表されるように、出来る女性としての描写が作中では大半を占めてきただけに、今話のくたびれた年増女(失礼)のような生活描写は、小鳥さんの個性をより深める一方で、少しばかりの寂しさをも味わわせてくれたのではないだろうか。

 今回のED曲は「MEGARE!」。芸能界という荒波の中で果敢に頑張るアイドルたちの姿をストレートに描いた良曲である。
 各人の番組終了後の一コマが描写されていくが、個人的にはやはり響がお気に入りだ。にわか雨も止んで晴れ上がった夕焼け空の下、ハム蔵と共に晴れやかな笑顔で走り続ける姿がいかにも響らしくて非常に良い仕上がりである。
 もちろん雨に濡れたシャツが透けているあたりは文句のつけようがない。素晴らしいの一語に尽きる。

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 今話はパロディ部分にばかり目が行ってしまいがちだが、13話でのライブ以降人気が上昇してきた今の時点での765プロアイドルたちの仕事の風景を描いたという点で、2話や3話でのそれに近い構成となっている。
 だがあの頃よりは格段に状況が変化してきたとはいえ、彼女たちのやっていることは基本的に変わらない。アイドルとして目の前の仕事に全力で取り組むこと、それは前話でほとんどのメンバーが各々悩んだ末に辿り着いた結論でもあった。
 だからこそ自分たちの出したその結論を実践している姿を描出する必要があったのだ。961プロという新たな逆風があってなお、自分たちの目標や進むべき道を誤らない。そこに彼女たちの魅力があり、困難をも乗り越える原動力となるのだから。
 しかし同時に彼女たちは未だ成長途中にあるアイドルだ。これまたパロディ部分に覆い隠されている感があるが、それぞれのコーナーでそれぞれのアイドルたちはかなり失敗してしまっている部分が多い。単純に失敗と思われる回数だけを考えれば、恐らく13話でのライブの時より多くなっているだろう。
 当然傍らで見守っているプロデューサーは冷や冷やしっぱなしだし、胃の部分まで押さえる描写も見受けられる。
 プロデューサーにとってもまずやらなければならないことは、961プロをどうこうすることではなく、このまだまだ危なっかしい少女たちがトップアイドルになるまで支えてやることなのだ。

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 今話はアイドルとプロデューサーの双方が、何よりもやるべきことと見定めたものを改めて具体的に描いた話と言えるだろう。
 しかしながら今話はそういう部分が霞んでしまうほどのパロディギャグに満ち満ちた話となった。脚本担当の高橋龍也氏によれば「やり残しがないくらいにやった」そうで、長くアイマスファンを続けてきた人ならば二重三重に楽しめる内容になっていたはずだ。
 もちろん何度も書いたとおり、元ネタの存在を抜きにしても良質なギャグとして成立しており、決して元ネタありきの受け狙いに堕していない点は非常に良く出来ていると言っていい。
 だからこそ公式サイトでこんな遊びさえも実際に行ってしまうのだろう。劇中で触れられた春香の秘蔵映像もここから見られるし、番組終了後の響の顛末もきちんと描かれている(14日の午前5時に「ゴールした」との更新が行われた)。
 今話は元ネタの既知未知にかかわらず楽しめる、8話に続く優れたギャグ回であったと言えるだろう。

 さて次回。

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 今話は文字通りの全員回で、特にフィーチャーされるアイドルはいなかったが、次回は予告を見る限り響がフィーチャーされるようだ。961プロもまた何か別の手を打ってくるのだろうか。
posted by 銀河満月 at 23:53| Comment(0) | TrackBack(22) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする