2011年10月10日

アニメ版アイドルマスター14話「変わりはじめた世界!」感想

 7月から放送が開始されたアニメ版アイドルマスターは、「トップアイドルを目指して頑張る」というお題目を掲げつつ、そんな中で日々を生きる少女たちの日常を丹念に追い、彼女たちの心の機敏、変遷、そして成長を丁寧に描いてきた作品である。
 アニマスの第1クールは芸能界という非日常的世界を舞台にしながらも、いわゆる「業界もの」的な派手さを極力抑え、ストーリーよりもまずキャラクターを描くことに尽力してきたと言えるわけだが、そんな第1クール期も最後を飾る13話において、無事にファン感謝祭ライブを成功させることでひとまずの決算を迎えた。
 まだまだ道半ばとは言え「アイドル」として大きく成長した彼女たちが、自分も周囲も今までとは異なる新たな「日常」の中で紡いでいく物語。第2クール全体を通して描かれるであろう物語の起点となるべき今回の14話は、果たしてどのような内容になっていたのだろうか。

 冒頭では1話と同様に春香の通勤風景が描かれるが、変わったのは夏から秋への季節の移ろいや、秋色に変わりつつある周囲の風景だけではない。
 春香は簡単には転ばなくなったし、車両には765アイドルを特集した雑誌の中吊り広告が掲げられている。乗客に自分の存在が気付かれないよう変装したり、疲れからか車中でふと眠りについてしまったりと、1話のそれとはかなり異なる通勤風景である。

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 1話の頃から春香の遠距離通勤は恐らくずっと続いてきたのだろうが、そんな当たり前の日常の中でも、確実に春香も彼女を取り巻く環境も、変化してきているのだ。それも良い方に。
 今回の14話は第2クール最初の回ということで、前述の通り2クール目で描かれる物語の起点となる役割も担っているわけだが、それを考慮すると役割を同じくする第1クール最初の回で描かれた春香の通勤風景というシチュエーションを再度持ってきたことは、過去と現在の春香の立場や環境の変化を明確にするという点で、非常に効果的な演出であったと言えるだろう。
 1話においては撮影しているカメラマン(プロデューサー)がナレーター的立場にも立って状況説明を字幕で行っていたが、今話ではその役割を春香(アイドル)が担っているという事実もまた象徴的だ。
 その「環境の変化」は事務所に到着した春香が見つめるホワイトボード、そしてその後の小鳥さんとの会話でより浮き彫りとなる。
 ホワイトボードには竜宮小町だけではなく、他の9人のスケジュールもぎっちりと書き込まれており、小鳥さんは皆忙しくなったため、以前のように事務所で集まる機会が減ってしまったと独りごつ。
 ファーストライブを経た彼女たちは以前よりも高い人気を獲得したこと、そしてそれに伴い仕事量も以前より格段に増えてきたことが画的に良くわかるシーンだ。殊にホワイトボードは5話の冒頭でその真っ白ぶりを揶揄されたり、6話で竜宮小町関係のスケジュールが大量に書き込まれる中、他の9人に十分な仕事を取ってきてやれていないプロデューサーの焦燥感を煽る材料に使われたりと、要所要所でアイドルたちの「アイドル」としての部分を強調する小道具として使われてきただけに、アイドル全員のスケジュールがまんべんなく書き込まれているホワイトボードの画からは、ずっと見続けてきた者だけが味わえる独特の感慨すら浮かんでくることだろう。
 そんなホワイトボードをにっこり笑いながら見つめる春香の表情も晴れやかだし、皆がなかなか事務所に揃わないことを寂しがりながらも、料理番組で単独司会を務めるやよいの姿を、まるで本当の母か姉のように見守る小鳥さんの姿もどこか嬉しそうだ。

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 そして流れ出す新オープニングテーマ「CHANGE!!!!」。
 第1クールで一人前のアイドルになるための準備をしてきた少女たちが、アイドルとしてより大きく変わっていくことになるであろう第2クールを象徴する良曲だ。
 楽曲自体もOP映像も素晴らしいものであったが、特に序盤では2〜3人のアイドルたちが個別に活動するシーンを基本的に描き、Bメロ部では集まった全員が夜空に浮かぶ一際輝く星を見上げ、その星を目指して衣装をアイドルのものに変え、サビに突入して全員で歌い踊るという流れが、第2クール全体の基本的な構図になっているというのが面白い。

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 知名度も実力も備えてここに活動することも多くなってきた彼女たち。しかし「トップアイドル」という全員が目標とする大きな星を目指す時は、765プロアイドル全員が一丸となって突き進む。
 第2クールもまた基調として描かれるのは「765プロアイドル全体の物語」であるという、スタッフからの宣言のようにも思える。
 サビ部分のライブシーンが「READY!!」では具体的なライブ会場でのそれだったのに対し、今回の「CHANGE!!!!」では抽象的な空間に変えられているというのも、第1クールではファーストライブが彼女たちの目指すとりあえずの終着点となっていたのに対し、いよいよ「トップアイドル」という個々人の概念や夢そのものを、具体的に視野に入れて目指すようになってきたということの表れだろう。

 その日はテレビ雑誌の表紙撮影ということで、久々に765プロアイドル全員揃っての撮影会となった。
 撮影会の様子そのものは2話で描かれた宣材写真撮影の時とほぼ同じで和気藹々としたものではあったが、そんな中でも765アイドルを取り巻く状況の変化や各人の成長が丁寧に描かれている。
 顔が知られてきたために移動中変装してきたもののすぐにばれてしまった真、逆にあずささんに気づかれないほどの変装を施してきた響などは、状況の変化を体現した描写だろう。その原因となったファーストライブ成功の一端が、実は隠れた敏腕記者であった善澤記者の書いた記事によるものであるということも、話の流れの中で無駄なく触れられている。

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 最も個人的な成長が描かれたのは、実は雪歩ではないだろうか。
 雪歩は撮影の合間にも自分が参加しているミュージカルの台本を熱心に読んでいるのだが、その際に貴音と話すシーンからは、第1クールの時のように何に対しても自信を持てない、気弱な女の子であった頃の面影はない。ライブ成功までの経緯を経て、ある程度は自分に自信が持てるようになってきていることが、雪歩のセリフからも十分に窺える。

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 そもそも基本的に真を始め誰かと共に行動することの多かった雪歩が、単独で個別の仕事についているということ自体が、雪歩の成長を何よりも明示していると言えるのではないか(尤も彼女性格の根本は変化していないことも後半で明らかになる)。
 成長とは少し違うかもしれないが、個人の変化として如実なものだったのは、やはり美希の「ハニー」呼称だろう。

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 原典であるゲーム版ではプロデューサーにはっきりとした恋心を抱いた時に言い出すプロデューサーへの呼称であるが、このアニマスでは若干違ったニュアンスで使用されているというところが注目すべき点である。
 12、13話で描かれた通り、美希にとってプロデューサーとは自分をもっと輝かせてくれる人であり、美希が持つべき美希独自の目標を指し示してくれた人間だ。美希1人ではとても到達できなかったであろう境地に辿り着くまでの道標を作ってくれたのは、他ならぬプロデューサーだったのである。
 だからこそ美希はプロデューサーに全幅の信頼を寄せた。自分を更に高いところへ連れて行ってくれると信じている相手だからこそ、プロデューサーは美希にとって特別な存在であり、特別な呼称で呼ばれるべき存在となったのだ。
 この美希の考え方はゲーム版「1」とも「2」とも異なる心の変遷によって生じたもので、具体的に言えば恋愛感情に起因したものではない。ゲーム版でもどちらかと言えば美希が強烈な恋愛感情を一方的にぶつけてくるだけで、プレーヤーであるプロデューサーの方は鈍かったりごまかしたりしていて、はっきりとした恋人関係になるわけではないのだが、それでも基本的に一対一の関係で、さらにプロデューサー=プレーヤーの視点で進行することになるゲーム版ならばともかく、アイドルたち全員を描写することが大前提のアニマスで、プロデューサーとアイドルを個人的な恋愛関係に発展させるわけにはいかなかったという内情も影響しているのだろう。あくまで主役はアイドルであり、プロデューサーは彼女ら全員を対等に支える立場の人間でなければならないのだ。
 しかし改めて考えてみると、プロデューサーが美希にとって特別な存在たりえたのは、そもそも12話においてアイドルをやめようとまで考えた美希のことを必死に繋ぎ止めた結果であり、この部分はゲーム版「2」のそれに通じると取ることもできる。また12話のAパートではプロデューサーが美希に対し「765プロアイドルの1人」として叱りつけていたのに対し、Bパートでは「15歳の女の子」として接していたが、これは何よりも美希を大切に想い美希の気持ちを尊重していたからこそのものであり、この「純粋に美希のことを1人の少女として大切に想う」描写は、「1」で美希を揺り動かしたプロデューサーの感情に近いものがある。
 いささか強引な見方だとは思うが、アニマスでの「ハニー」呼称に至る経緯と同時に変わっていく美希の心情は、「1」と「2」でのそれぞれの描写を折衷し、且つ恋愛面の部分を薄めることで生み出されたものとも解釈できよう。
 ただアニマスにおけるハニー呼称も単なる親愛の情によるものだけではなく、わずかに恋愛感情も入り混じった、ゲーム版に近しい感情からの発露であることが今話のNO MAKEから窺えるが、このあたりが今後の物語にどう影響していくのか、それも注目すべき点であることは間違いない。
 その美希の影に隠れてしまう形になってしまったが、プロデューサーと衣装について話をする伊織の様子も、同様のシーンが存在した2話の時とは違い、プロデューサーからの褒め言葉を素直に受け止められる程度には信頼感を強めていることが見て取れるし、その会話を美希に遮られた際にかなり立腹していたのも以前よりもプロデューサーに心を許していたからこそだったのだろう。
 そして「キミはメロディ」に乗って、春香曰く「765プロの快進撃」が描かれる。

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 新たな分野に挑戦する雪歩や自分のやりたかったことに今まで以上に積極的に取り組めるようになった千早を筆頭に、各アイドルはそれぞれの場でアイドルとしての仕事に邁進していく。
 その中に電撃マ王で連載中の「ぷちます!」に登場するぷちどるたちがストラップとして登場するのは、御愛嬌というところか。

 だが彼女らの快進撃もまた順風満帆とはいかなかった。13話での台風と同様、新たな問題の種が静かに芽吹き始めていたである。
 テレビ局で出会った春香とやよいに意味深な言葉を残して去っていく、961プロ所属のアイドル「ジュピター」。漠然と湧きあがる不穏な空気は、先日撮影された765プロアイドルの写真が表紙として使われるはずの雑誌が発売された時に、はっきりとした形となって現れる。
 表紙に彼女らの写真は一切使われておらず、ジュピター3人の写真に差し替えられてしまっていたのだ。
 伊織が怒りを露わにする一方で、生来の気弱さから自分がどこか悪かったのではと雪歩が悲観してしまうが、そんな彼女を励ますのが美希というのは、なかなか意外性のある組み合わせである。
 雑誌社へプロデューサーが連絡を取ってもけんもほろろと言った感じで埒が明かない。しかしそこへ現れた高木社長は、ある人物への疑念を抱く。

 その人物とは、961プロの黒井社長であった。
 折りしも961プロの社長室で、ジュピターを前に765プロと高木社長を叩き潰すことを、大仰な言い回しで高らかに宣言する黒井社長。
 その一方、善澤記者を交えて善後策を話し合っていた765プロの事務所では、小鳥さんが誰に気づかれることもなく沈んだ表情を浮かべる中、高木社長が黒井社長との因縁を語り始める。

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 若かりし頃、2人は切磋琢磨しながらプロデューサーとして活動していたが、やがてアイドルのプロデュース方法についての意見の相違から2人は対立するようになり、ついには黒井社長は高木社長の説得にも耳を貸さず、袂を分かってしまったというのだ。
 そして現在、765プロのアイドル勢が新進気鋭のアイドルとして頭角を現してきたことを認識した黒井社長は、自分の見出したアイドルこそが至高の存在であることを示すべく、邪魔となる765アイドルを失墜させるべく活動を開始した。雑誌社に手を回して表紙を差し替えたのも、それを誇示するための宣戦布告であるという。
 この高木社長と黒井社長の因縁、さらにその因縁に小鳥さんが絡んでいるという描写は、ゲーム版「SP」以降打ちだされた設定であり、「SP」以降ファンの様々な憶測を呼んできた。
 「2」では社長が高木順一朗氏から高木順二朗氏に変わったということもあり、2人の社長の因縁についてはだいぶぼやかされる形となったが、アニマスではその因縁描写を再び明確に背景設定に持ってきたことになる。
 「SP」の時点から2人の過去については断片的な情報でしか語られていないため、アニマスでより明確に語られることがあるのではと期待する向きもあるようだが、あくまで2人の過去話は今現在の話に深みを持たせるためのスパイス的なものであり、本作において2人の過去を本格的に掘り下げるようなことはしないと解釈しておいた方がいいだろう。例えるなら「刑事コロンボ」における『うちのかみさん』的な扱いに留まると思われる。
 製作側としては過去の物語もある程度出来上がっているのかもしれないが、それを「今現在活動しているアイドルの物語」の中で公表する必要はないのだから。

 黒井社長との因縁、そして現在の765プロには961プロという巨大な芸能事務所に真正面から対抗できるだけの力はないということを聞かされ、アイドルたちは意気消沈してしまう。
 そんな中怒りの収まらない伊織は、権力には権力とばかりに水瀬財閥の力を使って961プロの行動を封じようとするが、そんな彼女をプロデューサーが制止する。彼らと同じことをしてはいけないと。
 だがその正論を聞いてもなお伊織は食い下がる。それは単に仕事を横取りされたというだけが理由ではない。久しぶりに集合できた765プロアイドル全員が一丸となって取り組んだ仕事であったからこそ、皆の努力が理不尽な手段で踏みにじられた悔しさ故のものだった。10話で新幹少女のプロデューサーと対峙した時と同様に、仲間を大切に想っているから尚のこと激情を収めることができないのだ。
 そんな伊織の気持ちを理解しているからか、皆も口々に不満をこぼし始め、さらには黒井社長に仕返しをしようとまで言い出す。仕返しとして提案された内容自体は子供っぽい間の抜けたものであったが、雰囲気が次第に険悪になってきてしまったことは否めず、律子の注意を聞いてもそれは止まらない。
 そんな中、伊織の「負けたまま引き下がるのか」という言葉に思わず口を開きかけたのは春香だったが、彼女より先に声を上げた少女がいた。
 声を上げた美希は、雑誌の表紙として掲載されているジュピターよりも自分たちの方がずっとよく撮れていた、だから自分たちは負けてないと話す。
 写真の写り具合の良し悪しを自分のセンスで判断してしまうところは、2話で伊織の着ていた衣装をさらっと否定していたあたりを彷彿とさせるが、皆が他事務所との勝ち負けにこだわる中、それに囚われることなくあくまで客観的に写真の評価を下したところは、常にマイペースな面を崩さない美希ならではの持ち味が発揮されたとも言えるだろう。
 美希の言葉を受けてプロデューサーも、961プロに邪魔された悔しさはわかるが今は自分たちのアイドルとしての仕事に集中し、いつか961プロも手出しできない事務所に成長しよう、961プロに関しては皆の納得できない部分も含め、社長や律子、そして自分たち裏方の人間が引き受けるからと呼びかける。
 そのプロデューサーの言葉に一応その場での収拾はつけられたものの、ほとんどのメンバーは納得できていない様子。
 まだ事務所内がいつもの雰囲気に戻りきれない中、春香は大量に届いたファンレターの仕分けをしていた小鳥を手伝い始め、その中に自分の似顔絵が描かれたファンレターを見つける。
 それを皮切りにやよいが、亜美と真美が各々ファンレターやファンからのプレゼントを手に取り、その内容を見て笑顔を作り始める。やがてそれは他のアイドルたちにも波及し、いつしかアイドルたちは全員、ファンレターを読み耽るようになっていた。

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 それぞれ自分の似顔絵に困惑する伊織と美希、「真王子」と書かれたファンレターに苦笑する真、ペットのことを気遣われ奮起する響…。それは彼女たちがアイドルとして努力してきたこと、自分たちの頑張りが大勢の人の心に良い影響を与えている何よりの証左であったし、アイドルとして最も喜ばしい「ご褒美」の一つでもあった。
 そして彼女たちは悟る。自分たちが立ち向かうべきは961プロではなく、これからもトップアイドルを目指して努力し続ける自分自身なのだということを。
 それでもなお961プロを打倒すると宣言する響だったが、その言葉にも表情にも、先程までの思いつめた暗い感情は存在しない。彼女たちにとって961プロもジュピターも「勝利すべき敵」ではなく、それこそ前話での台風と同程度の「障害」に過ぎないのだ。障害を倒すことそのものではなく、それを乗り越えた先にあるものを追い求める。それこそが彼女たちの何より目指すべき夢なのである。
 彼女たちの中で961プロやジュピターの扱いが変化したことは、机の上に置き去りにされたテレビ雑誌が何より如実に示しているし、765プロアイドルの中でも正負に拠らず感情表現が豊かな響に件のセリフを言わせることで、全員の胸中から刺々しい感情が霧散したことをも明らかにしている。このシーンに流れているBGMが「GO MY WAY!!」のスローバラードであったことも、BGMの面から彼女たちの決意を後押しする好演出だ。
 先程プロデューサーが全員に話した内容とはまさにこのことであったのだが、プロデューサーの説得一つで皆が納得する展開にさせず、アイドルたち自身に考えさせ、自分たちで自分たちなりの答えを見つけさせるという流れは、アニマスの大きなテーマである「アイドルたちの物語」に即したものとなっている。あくまでも中心となるべき存在はアイドルの少女たちであり、プロデューサーを始めとする周囲の大人は、彼女らが正しく成長するための介添えをする立場に過ぎないという姿勢を徹底しているのだ。
 そしてそんなプロデューサーの考えを、皆より一足早く正確に理解していた者が春香だ。
 春香は伊織の発した「負けたままで引き下がるのか」という言葉に反応し、声を上げようとした。それは「勝ち負け」という価値基準に呑まれてしまっていた皆を諌めるためではなかったか。
 自分たちが何よりやるべきことは、トップアイドルを目指して努力していくこと。純粋にアイドルに憧れ、アイドルになることを目標にし続けてきた春香だからこそ、その想いだけは今までぶれることはなかったし、自分たちがアイドルとして順調に活躍できている今現在の状況こそが、その考えが正しい事の何よりの証であることも知っている。
 だからこそ春香はみんなが誤った方向に進みかけているのを止めようとしたのだ。プロデューサーの言葉に頷き、美希とともに笑顔で納得したのも、プロデューサーが自分と同じ考えを以ってみんなを説得してくれたことが嬉しかったからに他ならないだろう。
 今話では春香自身の気遣いがみんなを直接的に助けることはなかったものの、プロデューサーからの説得の直後、皆がまだわだかまりを捨てきれない状況の中、ただ1人ファンレター=アイドル活動のご褒美に目を向けることができたのは、彼女が普段から持ち合わせている優しい視点あればこそのものであった。今回は春香の積極的な気遣いではなく、彼女が持っている生来の優しさが無意識のうちに他のアイドルの心を和やかにしたと言える。

 さらに言うならこの事務所での一連のシーンは、961プロ側、とりわけジュピターとの決定的な対比にもなっている。
 「2」でジュピターが登場すると判明してからの一連の騒動は、知っている人であればご存知のことと思うが、実際にゲームをプレイした人からはあまり否定的な意見は聞かれず、むしろ「実はいい人」的な評価が多くささやかれるようになった。
 しかしここで勘違いしてはいけないのは、ジュピターの3人は確かに悪い人間ではないかもしれないが、同時に良い人間でもないということだ。
 なぜなら彼らは黒井社長の取った手段が汚い手段であることを承知しつつ、それを是認しているのだから。メンバーの1人である天ケ瀬冬馬に関しては少し事情が異なるものの、基本的に彼ら自身は黒井社長のやり方に口を挟むことはしない。彼らには彼らなりの矜持があるだろうが、同時に黒井社長の仕掛ける小狡いやり口を否定することもまた行わないのである。
 このあたり、10話における新幹少女と同様の限界を指し示していると言える。妨害工作を受けてなお報復を否定し、アイドルとして高みを目指す765プロのアイドルと、他者を蹴落とすことに固執し、そのためなら汚い手段を用いることも許容する961プロとで、志の違いが明確に打ち出されているのだ。
 あえて言うなら今話での描写の時点で、961プロもジュピターも新幹少女のプロデューサーと同様の「小者」であると断じることさえ可能なのである。彼らが辿り着いた思考の先は、結局のところまったく同じものなのだから。
 961プロの社長室があれだけ広いにもかかわらず無味乾燥とした印象を与えるものであったのに対し、狭くとも大勢のアイドルたちの笑顔で溢れている765プロの事務所。どちらがより魅力的に見えるか、よく考えるべきところだろう。

 多くのファンレターを目にすることで、ゲーム版の設定と同様にテンションを上げることができたアイドルたち。
 そんな中でとある姉弟から送られてきた自分宛のファンレターと、同封されていた2人の写真をじっと見つめる千早。歌を通して結ばれている「姉と弟」の姿を見、彼女は何を想うのか。OP映像では彼女が歌うその背後で、今の彼女からは想像できないほど元気に飛び跳ねて歌う幼い頃の千早が映し出されていたが、そんな彼女の複雑な想いがクローズアップされる時がいつか来るのかもしれない。
 千早を交えた13人のアイドルはいつものように円陣を組み、アイドルとしてこれからも頑張っていくことを改めて誓う。

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 彼女たちを頼もしく思う一方で、961プロの今後の動向を危惧する高木社長。だがそんな社長の不安を否定するように、プロデューサーは自分でできる限りのことをしてみせると静かに、しかし力強く宣言する。
 アイドルが大人たちに頼らず、自分たちだけで抱えた問題を解決していくのと同様、裏方であるプロデューサーもまた抱える問題を、人生の先輩であり仕事上の先輩でもある社長たちに頼ることなく、自分の力で解決しようとする。日々成長していくアイドルたちの後ろで、プロデューサーもまた確実に彼女らをよりしっかりと支えられるように成長していっているのだ。
 それは皆の仕事の成果を高く評価する一方で、誤った考え方に傾いていく彼女らを正し、その上で強引に納得させるようなことはせず、不満のみを自分が一身に引き受け、彼女たちが自分自身で答えを導き出すことを信じて任せる、アイドルたちへの説得のやり方からも見て取れることだろう。
 そんな彼の姿に社長も、そして善澤記者もあえて多くを語ることなく、彼に任せることを態度で示すあたり、大人の渋みを感じさせてくれた。
 ED曲「Colorful Days」に乗って描かれる撮影風景のにぎやかで楽しそうな様子は、それが彼女たちのアイドルとしての魅力を最大限に引き出す源であると同時に、「仕事を楽しむ」姿勢こそが目標を達成する上で一番大切なものであることを表している。
 歌詞の内容どおり彼女らの個性はそれぞれ異なるが、しかし全員の個性が一つとなって真摯に仕事に取り組めば、誰よりも輝ける存在になれる。EDのラストカットはそのことを何よりも雄弁に物語っていると言えるだろう。

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 13話でのライブ成功を皮切りにどんどん変わっていった少女たちの日常。それはもちろん喜ばしいことであるが、同時にそれは望まない変化をも生み出す結果ともなった。ただアイドルとして日々を頑張っているだけなのに、ごく一部の人間に疎まれ仕事を邪魔される。当人にしてみれば確かに納得できないことではあるだろう。
 しかし彼女たちはそこに固執せず、今までどおりにアイドルとして各々の目標に邁進していく決意を固める。それは自分たちを支えてくれるプロデューサーや互いを支え合う仲間の存在だけではない、大勢のファンの暖かい応援が自分たちを支えてくれる新たな存在になったと知ることができたからだ。
 目まぐるしく変わっていく日常の中で決して変わらないものもある。アイドルたちはその変わらないものを芯としてこれからも歩んでいく。それを明示することこそが今話の目的であり、第2クールの中でも重要な要素となるはずのものだろう。
 そういう意味でも今話は第2クールの開幕を飾るにふさわしい良編に仕上がっていたと言える。
 殊に961プロ側との対決姿勢を前面に押し出さず、あくまで一つの障害としての側面のみを抽出した構成は秀逸だ。ゲーム版ではオーディションやフェスといった形で「相手と対決する」スタイルが仕様として組み込まれているため、対決要素そのものを主軸の一つに持ってくる必要があったわけだが、アニメにはその縛りはない。
 また「2」では3人編成のユニット一つのみをプロデュースする関係上、同じ編成のユニットであるジュピターがライバルとして立ちはだかる構図が無理なく成立していたが、アニメの場合はプロデュース対象が13人全員であるため、特定の一ユニットをライバルとして設定するのも難しい。
 そこで「2」と同様に961プロそのものを対立関係の相手として設定しながらも、その代替となるべきジュピターに焦点を絞らないことで、対決要素に話を限定させることを回避し、961プロという障害要素だけを残す措置を取ったのだろう(尤もジュピターの扱いについては今後の展開次第という部分もあるが)。
 ファン心理としては961プロ側にあまり出しゃばってきてほしくないという思いもあるが、彼らが765プロアイドルにとっての障害要素としてうまく機能してくれれば、1クールとはまた異なる彼女たちの日常と成長の物語が描かれ、彼女たちの魅力が引き出されるのではないだろうか。

 さて次回。

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 早速765プロアイドル全員での仕事が描かれるようだが、1クールでも同様の全員仕事の中で特定アイドルをフィーチャーすることが多かったアニマス。今回フィーチャーされるアイドルは誰になるのだろうか。
posted by 銀河満月 at 15:06| Comment(0) | TrackBack(13) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする