ショックを受けた美希は1人走り去ってしまい…。
という前話での美希と律子のやり取りを再度描写して始まった今回の12話。今まで美希自身が努力してきた理由そのものを完全に否定されてしまった中、美希がどのようなことを考えて行動するかが今話の焦点である。
律子からの言葉を聞いて以降、美希はレッスンスタジオに姿を現さなくなってしまった。プロデューサーからのメールや電話にも一向に応じる気配はなく、事情を知らない他の8人は美希が体調を崩したのではないかと心配する。
この段階ではまだ全員がそれほど事態を深刻に捉えていないようで、それは「お腹が減ったら帰ってくる」という響の軽いセリフに象徴されている。しかし同時に各人がそれぞれのスタンスで美希を心配しているのも確かであり、それもまた響のセリフに象徴されていた。
すなわち7話で長介が家を飛び出して行った直後、皆に心配かけまいとやよいが呟いた言葉と同じセリフを響に言わせることで、字面通りの軽い見方と内心のかすかな不安とが響の胸中に渦巻いていることを一度に描いているわけだ。
ただ一言のセリフでアイドル全員の胸中をそれとなく悟らせる構成も例によって見事だが、何より7話と今話とでは脚本担当も演出担当も別人なのに、過去話での描写と巧みに絡ませる演出ができているという事実にも驚かされる。スタッフ間の連携が滞りなく行われていることの証左だろう。
そんな中プロデューサーは、律子から美希がレッスンに来なくなったと思われる理由を聞かされる。それは熱心に見ていた視聴者であれば周知の通り、6話におけるプロデューサーにとっては何気ない美希とのやり取りがすべての発端であった。
前話の感想でも書いたとおり、あの場面において美希が勘違いしてしまったことについて、プロデューサーだけを非難することは難しい。仕事相手との電話をしている最中にずけずけ話しかける方も一方的すぎるし、そもそも竜宮小町の構成メンバーを決められるのはプロデューサーではないのだから、プロデューサーとのやり取りだけで自分の目標をすべて決めてしまったのも安易と言えば安易だろう。
しかし経緯はどうあれプロデューサーが美希に対して嘘を言ったのもまた事実である。さらにプロデューサーがその時の美希とのやり取りを、律子に言われるまで全く覚えていなかったことが、事態をより複雑にしてしまったのだろう。プロデューサーはこの時まで美希が竜宮小町に入るために頑張っていたことを知らず、他のアイドルと同様に「トップアイドルを目指す」ために頑張っていたと考えていたはずでそれを疑っていないのだから、美希の目標に関して美希と改めて話をするわけがなかったのだ。
結果としてそれが美希の勘違いを大きくさせ、真実を知った時のショックもまた大きなものにしてしまったと言える。そういう意味ではやはりプロデューサーの責任は大きいものだろう。
事実を知ったプロデューサーに、事実を知らない他のアイドル8人が美希のことを尋ねて来ても、プロデューサーは安易に本当のことを話すことはできない。プロデューサーの責任は大であっても、何も言わずに顔を見せなくなった美希の方にも非があるのは確かなのだから。
病気にでもなったのではとみんなが心配する中、「今はライブに向けて集中するべきではないか」と冷静な意見を述べたのは千早だった。
貴音もそれに同意したことでとりあえず8人はいつもどおりレッスンを続け、美希のことはプロデューサーが引き受けるということでその場は収束する。
一見すると千早の言動は冷徹なようにも聞こえるが、直後の千早の表情が不安げなものになっていたことからも、単にライブのことだけを盲目的に考えているわけではないことが窺える。そんな千早の表情の変化に唯一気付いていたのが春香だったというのも、春香自身の個性や2人の関係性が改めて浮き彫りになっていて面白い。
当の美希は熱帯魚ショップで水槽の中を泳ぐ熱帯魚を落ち込んだ表情で見つめていた。
プロデューサーからの電話に気づいた美希はようやく電話に出るが、竜宮小町に入れないことを知った美希はアイドルとしてやっていく気がなくなったと言いだす。レッスンにも行きたくないと言う美希に思わず声を荒げるプロデューサーだったが、美希はそれには応えず電話を切ってしまう。
まともな話すらできず落胆するプロデューサーだが、そんな彼に忠言してきたのは小鳥さんだった。
美希はアイドルであると同時に15歳の女の子。現実を理解できていても、それでも感情的になってしまうこともあるのではないかという言葉に、プロデューサーは自分の至らなさを痛感する。
プロデューサーは常に765プロのアイドルに「プロデューサー」として接してきたし、彼女たちを「アイドル」として見てきた。それは決して間違ったことではなく、むしろ変に浮つく人間よりもよほどプロデューサーとしては適した考え方だろう。
しかし今回はそれが裏目に出てしまった。彼女たちはアイドルという公の存在だけでなく1人の人間、とりわけまだ年端もいかぬ女の子でもある。自分の感情を制御できなくても仕方のない年頃の少女。プロデューサーは「プロデューサー」という職業に極めて真面目に、ストイックに取り組んでいたがために、その当たり前の事実に気付けなかったのだ。
だがこれはプロデューサー個人の落ち度というには当たらないだろう。まして「無能」などと揶揄されるべきことでもない。ゲーム版をプレイしている人であればわかるはずだ。若い少女たちの「アイドルプロデュース」が本当に大変であったこと、目の前の少女の気持ちを量りきれずに何度もバッド選択肢を選んでしまった現実を。アニマスのプロデューサーが今まさに直面しているのは、ゲーム版を遊んできた数多くのプロデューサーが味わった苦悩そのものとも言えるのである。
しかし何度も再プレイできる現実のプロデューサー(プレーヤー)と違い、アニマスのプロデューサーの選択にやり直しはきかない。だからこそ常にアイドルをフォローしている彼をフォローする立場の人間が必要になるわけで、その役割を一手に担っているのが小鳥さんだったというわけだ。
6話においてもプロデューサーが自分の空回りに気づいた時、優しくフォローしてくれていたが、今話では悩むプロデューサーをフォローしつつも「こう考えるべきではないか」というアドバイスまでしてくれ、さらに今もどこかで悩んでいるであろう美希まで気遣っている。
この細やかな心配りはアイドルの女の子たちにはできない、それなりに経験を積んだ大人の女性ならではのもので、プロデューサーにとっても非常に救いになったことだろう。765アイドルが仲間同士助け合って頑張っているのと同様、そのアイドルを支えるスタッフであるプロデューサーと事務員もまた、助け合って頑張ることができるのだ。
翌日、事務所にはライブ用の衣装が届けられた。アニマスのキャラクター設定画でも各人が着用していたゲーム内衣装「ピンクダイアモンド765」である。
途中からやってきた竜宮小町の面々も感嘆のため息を漏らすが、彼女らも美希が未だ姿を見せないことを心配していた。8人もさすがに不安の色が濃くなってきたようで、皆を気遣っての春香の冗談めいた発言を聞いても、どことなく元気がない様子。
当の美希は特にさしたる目的があるわけでもなく、街の中をブラブラと歩いていた。クレープを食べ、プリクラで写真を撮り、友達と電話をし、本屋で立ち読みをするという何の変哲もない、しかし十代の女の子ならばごく普通の光景(ナンパをあっさり断る美希ならではの身持ちの硬さもさりげなく描写)。まさしく小鳥さんが言っていた通り、年頃の女の子ならではの日常とも言えるが、同時にアイドルという仕事に無理やり区切りをつけるため、敢えて街をぶらついているようにも見える。
それは撮影した写真に美希自身が書いていた「プロデューサーのバカ」という言葉が視界に入ると同時に笑顔が消えたり、雑誌に載っていた自分自身の記事を見て笑顔を作るも、直後に竜宮小町の3人が表紙になっている雑誌を見てすぐ沈んだ表情を作ってしまったところからも窺えるだろう。
しかし新しい衣装ができたとのプロデューサーからのメールを見て、一瞬顔をほころばせながらも慌てて首を振りつつ携帯をしまっており、無理をして気を張っている様子も見て取れる。
このようなシーンで「ふるふるフューチャー☆」がBGMとしてかけられたわけだが、一見すると曲調からして場違いな印象を受けることだろう。
全体としては恋人であるハニーへの想いを歌った歌であるから、内容的にもこのシーンにはそぐわないと思われがちだが、純粋にこのシーンのみに使用された箇所の歌詞を抜き出して考えてみると、信じていた「約束」を守ってくれなかった相手への反発の気持ちと、目標を喪失してしまった美希自身に、自分が歩むべき「未来」を提示してくれる人を期待している気持ちとが入り混じった、現在の美希の胸中を代弁しているのではないか。
映像だけでは描写しきれなかった美希の微妙な心情を、BGMが補完してくれているように思える。
また美希の一連の竜宮小町への想いを「竜宮小町への恋」と解釈すれば、本曲がBGMとして使用されるのもさほど違和感を感じないかもしれない。
さてプロデューサーは律子とともに、感謝祭ライブの会場を下見していた(場所のモデルはアイマス6th Anniversary Liveの東京会場となった「TOKYO DOME CITY HALL」)が、美希のことはもちろん気にかかっていたものの、美希の両親に聞いても行き先を知ることができずに悩んでいた。
だがそれでもプロデューサーはあきらめない。「美希にもこのライブ会場に立ってほしい」という彼の強い願いを聞いた律子は、後のことを引き受けてプロデューサーに美希を探しに行かせる。
ここにも765プロのスタッフ同士、プロデューサー同士の助け合う姿があった。
プロデューサーは美希を探して街の中を歩き回る。美希とよく話し合わなかったことを今更ながらに悔やむプロデューサーだったが、偶然か故意かは不明なれど着実に美希の立ち寄った場所を追ってきており、そういう点で見るとプロデューサーは美希という少女のことを、ある程度は的確に把握できていたのかもしれない。
だがある程度把握できていたが故に、彼女のことをより深く知ろうとしていなかったのではないか。彼の独白にはそんな自責の念も感じられる。
果たして探し求めた先に美希はいた。街頭インタビューに応えていた美希は、自分をアイドルだと名乗った上で持ち歌と思しき「Do-Dai」を野次馬たちに披露するが、美希はまた沈んだ表情を作りながら途中で歌うのを止め、見つけたプロデューサーからも逃げ出してしまう。
逃げながら美希は、もう歌いたくないし踊りたくないからアイドルを止めるとプロデューサーに言い放つが、つい先程まで美希が楽しそうに歌っていた姿を目の当たりにしていたプロデューサーはそのことを指摘、美希は思わず「あんなの全然楽しくなんかないよ!」と叫んでしまう。
それは恐らく美希の本音だったのだろう。自分の中で渦巻いているであろう様々な感情を整理できずに持て余してしまう、年相応の女の子。そんな複雑なものをいくつも抱え込んだままで歌ったとしても、楽しい気分になれないであろうことは間違いないのだ。
やっとのことで美希を捕まえたプロデューサー。美希は怒られるのではないかと顔を強張らせるが、プロデューサーが真っ先に取った行動は「無責任な言動を取ったことの謝罪」だった。
6話でもそうだったが、プロデューサーは自分に非があると自分で認識した場合は、それを素直に認めて謝罪できるという潔さを持っている。今回はこの潔さが功を奏したようで、身構えていた美希も若干気が抜けてしまったらしく、先程までの頑なさは失われていた。
それでもまだ意地になって「アイドルを止める」という宣言を撤回しない美希と、そんな美希を説得するために美希の後をついていくプロデューサーの姿は、「少しわがままな少女と、彼女を取りなそうと奮闘する頼りない年上の男性」という、傍目には何とも微笑ましい様子に見える。
それは無論美希本人が持っている子供っぽさと大人っぽさのアンバランスさから生じる可愛らしさもあるのだろうが、Aパートでの美希の会話と違い、自分の都合を基本的には押し付けず、美希のやりたいことをやらせ、それに素直についていこうとするプロデューサーの姿勢も影響していることは間違いない。
Aパートでは美希への対応をしくじってしまったプロデューサーではあったが、小鳥さんの忠言を聞き入れて美希との向き合い方をすぐに修正できるほどには、柔軟な思考の持ち主でもあるというわけだ。
そんなプロデューサーの対応を知ってか知らずか、美希の意地の張り方もプロデューサーが反論してこないことを知っていて少し甘えているかのような言動まで取るようになってきて、実に良好な雰囲気を醸し出している。元より別に美希はプロデューサーを憎んでいるわけではないのだから、当然と言えば当然かもしれないが。
結果的にプロデューサーと一緒に街をふらふらと散歩することになった美希は、次第に自分がプロデューサーと共にいることで感じる「楽しみ」を隠しきれなくなってくる。
それは特に目的なく歩いていてもいろいろ面白い物が見つけられるという自分自身の楽しみ方をプロデューサーが理解してくれたり、自分に合うアクセサリーや衣服をズバリ言い当ててくれたりと、プロデューサーが自分と同じ目線で物事を見てくれるようになってくれたからに他ならない。
言葉にこそはっきりとは出さないものの、服を選ぶ際ハンガーラックにかかっているハンガーに手をかけ、楽しそうに鳴らしているところからも、だいぶ和らいできた美希の感情が見て取れるだろう。
だが街角に貼られていた竜宮小町のポスターを見てすぐに意気消沈してしまうあたり、まだまだ完全に吹っ切れたというわけではないようだ。
一方、今もレッスンを続けている8人のアイドルたちは、抑えていた気持ちが隠しきれなくなったようで、響ややよいはもし美希が戻ってこなかったらと不安がる。
11話でも響は自分たちがライブをきちんとこなせるのか、ダンスをきちんと習得できるのかといった不満を、他のメンバーより早く口に出すことがあったが、この辺に未だメイン回のない響の内面を知る手掛かりがあるかもしれない。比してやよいの方は10話での成長を踏まえて、自分の抱いている不安な心情を素直に言えるようになっている。
だが2人の言葉は全員の不安な気持ちをそのまま代弁したようなもので、他のメンバーも2人の不安を簡単に取り払ってやることができない。11話であれほどにポジティブな考え方で皆を引っ張った春香ですら、その不安を払拭することができないのだ。
11話で示された春香の前向きさ、まっすぐな面の欠点がここにある。春香のどこまでも前向きな信念は、「自分が努力すれば必ず自分の望んだ未来を得られると信じている」ことが根本にある。だがこれは同時に自分が努力してもどうにもならない事態に対しては、根本としての力を失ってしまうことにもなるのだ。
今の自分たちがどう努力しても、美希の問題は解決しないかもしれない。そもそもどう努力すればいいのかもわからない。皆の気持ちを切り替えさせようとする春香の言動が前話に比して少々弱々しくなっていたのは、何より春香自身が自分の考え方に自信を持てていないことへの表れだったのだろう。
そんな春香をフォローするかのように皆に声をかけたのは千早だ。発言そのものはAパートでのそれとさほどの違いはないが、その言葉に「美希が戻ってくると信じている」現在の千早の気持ちが付加されたことで、皆も再び不安を取り払って自分たちが今やれることをやると決める。
今話の「NO MAKE」を聴いていただければわかるが、表情や言動で露骨に示すことはないものの、千早自身も美希の状況をかなり心配している。しかし「NO MAKE」中であえてその気持ちを春香にではなく雪歩に相談したところに、春香と千早の個性の違いが垣間見えるように思う。
美希が戻ってくると信じている点では春香も千早も同じだが、千早は信じていても今の自分たちに美希をどうこうすることができないことも分かっているから、現状自分たちができることに専念しようと割り切ることができる。しかし春香であれば、例え有効な策が思いつかなくても美希を連れ戻すために何かしら行動しかねない。それはもちろん春香なりの気遣いだし優しさからくるものであるが、それは同時に事態を余計に混乱させる危険性を孕んでいるのも確かなのだ。
それを知っているからこそ、千早は春香をフォローする形で今回は自分たちが動かないことを提案し、必要以上の気遣いを春香にさせないよう雪歩に相談したのではないだろうか。相談相手に雪歩を選んだのは、17歳という765プロアイドルの中では比較的年齢が高めで、且つ内緒の相談を落ち着いてやりやすい相手だからというところか。
ひとしきり散歩を終えた美希とプロデューサーは、とある小さな川の橋の上にやってくる。そこは美希が小学生の頃から尊敬している「先生」の住む場所でもあった。
これまたゲーム版をプレイしている方ならご存知の通り、美希の「先生」とはこの川に住んでいるカモのことである。寝たままでもプカプカ浮きながらのんびり生きているカモのように、美希自身も楽に生きていけたらいいなという思いから、彼女はカモを「先生」と呼んでいるのだ。
先生を眺めながら美希は独白する。美希は以前から両親に「美希のしたいことをしなさい」と言われて育ち、美希自身も以前までは好きなことだけやっていれば思っていた。しかし最近は辛いことや苦しいことがあっても、それでもワクワクしたりドキドキするようなことをしたいと思うようになってきたと。
美希が最近ワクワクドキドキしたことは、言うまでもなく竜宮小町だった。自分が竜宮小町に入れれば、可愛い衣装を着てステージで歌い踊り、今よりもっと輝くことができるという美希の想いを聞き、プロデューサーはようやく悟る。美希は竜宮小町に入ることそのもの以上に、竜宮小町に入ることで自分が今よりももっと輝けるようになることを望んでいたのだ。
さしたる目標を持っていなかった美希は、765プロでアイドル活動を続けるうちに曖昧ながらも「アイドルを目指す」目標を見出すようになってきた。このあたりはそれこそ春香の目標に近しいものがあるが、春香と決定的に違っていたのは春香が「トップアイドル」という自分にとっての理想の偶像、逆を言えば物理的な形を成していない抽象的なものを目標としていたのに対し、美希は「竜宮小町」という目の前にある実物の存在そのものを目標の終点に据えてしまったのだ。
春香に限らずそれぞれのアイドルは、それぞれが理想とする「トップアイドル」になることを目指し、その方法を模索しながら歩んでいる。しかし美希は模索や歩みと言った途中経過をすっ飛ばして、「竜宮小町」という目に見える結果のみを望んでしまったことになる。
このあたりは「楽して生きていければいい」という、美希が幼少の頃から持っていた観念に拠るところが大きいだろう。途中で苦労してもその先に訪れるであろう結果に喜びを見出しながらも、小さい頃からの考え方が影響して、少し歪んだ考え方になってしまったわけだ。
だからプロデューサーの説得を受けてもなお、美希はアイドルとしてみんなと頑張っていくことを渋る。自分が頑張っても竜宮小町のようになれるかは分からないから。もしかするとそれは、確定されていない未来に自ら切りこんでいくことへの怖さに起因しているのかもしれない。
それでもプロデューサーは丁寧に美希を説得し、その心を解きほぐしていく。彼もまた信じているのだ。美希たち765プロアイドルが努力していけば、全員が人気アイドルになって輝ける存在になることを。それは彼女らの毎日のアイドル活動を一番近くで見ていたからこその嘘偽りない気持ちであり、彼がプロデューサーとして活動する上での原動力となっている信念でもあるはずである。
その嘘のないまっすぐな気持ち、今の美希を受け入れた上でなお美希のアイドルとしての可能性を信じる強い想いは、プロデューサーに嘘をつかれたことでショックを受けていた美希の心にも響いたのだろう。ライブに向けて全員でレッスンしている時のワクワク感やドキドキ感を改めて思い出した美希は、プロデューサーに約束を持ちかける。
1つと言っておきながら3つも約束事を持ちだすちゃっかりさはいかにも美希らしいが、「美希を竜宮小町みたいにすること」「嘘はつかないこと」「もっとドキドキワクワクさせて本当のアイドルにしてほしい」という3つの約束を、プロデューサーはすべて聞き入れる。それはプロデューサーが初めて聞いた、もしかすると美希の中でも初めて生まれたのかもしれない、美希の目指す美希だけのアイドル像が込められていた。
美希はアイドルを止めず、次のライブまで頑張ると約束する。ライブのその先がどうなるかはわからないと呟く美希からは、未だ自分自身で未来への道を歩んでいくことに戸惑っているようにも見えるが、そんな彼女を支えるためにプロデューサーはいるのだ。美希はアイドルとして頑張り、そんな彼女にプロデューサーが道を指し示す。それが2人の交わした何より大切な約束だった。
指切りを交わすシーンは、3話でプロデューサーと雪歩が同じく指切りを行うシーンを彷彿とさせるが、この3話以降、雪歩はプロデューサーに対して強い信頼を抱くようになったことは周知のとおりである。
実際に今話の「NO MAKE」を聞いても、美希のことを心配する千早に対し、プロデューサーに任せておけば大丈夫と言い切るのは雪歩なのだ。
犬が苦手な雪歩だからこそ、同じく犬が苦手であり大の男としては恥ずかしい欠点をあえてさらけ出しても、雪歩のために最後まで頑張ってくれたプロデューサーの優しさと思いやりが、雪歩には痛いほど伝わったであろうから、雪歩がプロデューサーに信頼を置くのは道理であるが、同じく指切りを行った美希は、今後プロデューサーに信頼を置くことができるのだろうか。
先が楽しみになるシーンではあった。
紆余曲折あったものの、美希は765プロに戻ってきた。やる気がなくなってしまっていたことを正直に告白し謝る美希を、みんなは暖かく迎えようとするが、千早だけは厳しめの口調で美希に話しかける。
しかし「謝ることよりもまずプロとしてライブを成功させたい」という千早の言葉は、取りも直さず美希をプロのアイドル=仲間として認めているからこその言葉でもあり、千早らしい不器用な美希へのエールだったとも取れる。
さらに言えば11話終盤、駅で春香と別れる際の千早は「ライブ成功するといいわね」と、まるで他人事のように呟いていたが、今話では積極的に「ライブを成功させたい」という自身の明確な決意を示しているあたり、前話での春香とのやり取りが良い方向に作用したことを窺わせて面白い。
レッスンを何日もさぼった美希に対して多少怒っていたことを見抜いていたのが、春香1人だったというのもまた憎い演出ではないか。
憎いと言えば、美希が戻ってきたことを知った伊織が、今までかなり心配していたことを匂わせながら声をかけるところも憎い見せ方だった。
遅れていたレッスンも再開、1人だけ行っていなかったライブ用衣装の衣装合わせにピンクダイアモンド765を着込んだ美希は、新しい衣装を着て自分が輝いていることを実感し、満面の笑みをこぼす。
前話の感想で美希のことを「目標を喪失した少女」と書いたが、実際に今話で描写された美希は「自分自身が持ちうる目標に気づけていなかった少女」だった。
自分の心の中にそれが芽生えてきていると漠然とは気づきながらも、それを形にする術を知らなかった少女に対し、そばにいながら少女の変化に気付けなかった男が、少女と向き合い受け入れて手を差し伸べる物語。それが今話のすべてである。
今話を見ればわかるとおり、美希という少女は傍から見ればかなり面倒な性格をしている。感性や考え方が独特で自由なものであるし、良くも悪くもマイペース、加えて気まぐれな側面も持つから、彼女に合わせて物を考えるだけでもかなりの苦労が伴う。そのあたりについてはゲーム版で彼女をプロデュースした経験のある方ならお分かり頂けると思うが、そんな彼女であるから、他のアイドルたちが当然のように持ち合わせていた「自分なりの目標」に到達するまでにも、ここまでの時間がかかってしまったわけだ。
しかしプロデューサーはそんな彼女を否定しなかった。美希を美希のまま受け止めて、美希のままで輝ける存在にすることを約束する。だからこそ美希もプロデューサーをもう一度信じ、アイドルを続けることを約束した。
だがそんなプロデューサーの度量もまた、小鳥さんからのアドバイスがなければ培われることはなかったわけで、そういう意味で今話は美希とプロデューサー双方の成長の物語だったとも言えるだろう。
今までの話の中で特定の人物が中心に据えられる場合、それは必ずアイドル同士であったのだが、今話では美希とプロデューサーが中心となっており、ここからも他のアイドルとは若干異なる2人の関係性が浮かび上がってくるのではないか。
衣装を着こんだ美希が最後に満面の笑みを向けた相手がプロデューサーであったろうことを考えると、その笑み自体が今後の2人の関係性を暗示しているようにも見えて、興味深い物がある。
EDカットはそんな美希の自由さを前面に押し出したものとなった。
特定アイドルの現実映像や回想映像でない、イメージ映像が使われるのは9話の亜美真美以来だが、美希が内包している既定の枠に囚われない個性を様々なイメージで描出しており、巧いものだと感嘆させられたが、EDの絵コンテ担当が、これまでアイマスシリーズの様々なイラストを手掛けてきた杏仁豆腐先生の手によるものと知って得心が行った。一枚絵のイラストでアイドルの持つ個性を多面的に描写することにかけては、この方の右に出る人もおるまい。
ED曲の「ショッキングな彼」も、「自分をまだ見ぬワクワクやドキドキのある場所へ連れて行ってくれる人」を内心で待っていた今話の美希に照らし合わせると、実にマッチした選曲と言える。
ラストカットが「光に満ちた先」へ進む美希という構図になっているのも、今より幸福になった未来を暗示しているようで爽やかだ。
さて次回。
ついにやってくるライブの時。今まで積み重ねてきたすべてをぶつけた時、彼女たちの運命はどう動いていくのだろうか。