多くのアイマスファンを楽しませているアニマスも、今月で第1クールの放送を終了する。どんなアニメでも大体はクールごとに作品の大まかな構成を組み立てるので、第1クールから第2クールへと切り替わるこの時期は、アニマスが迎える一つの節目と言うべき時期でもあろう。
さてそんな9月放送分の第一弾は果たしてどんな内容になっていたのだろうか。
年に一度開かれる芸能事務所対抗大運動会。今年は竜宮小町の活躍もあってめでたく765プロの面々も出場できることになったわけだが、のっけから二人三脚で失敗してしまった真と伊織が口ゲンカを始めてしまい、今回もなかなか順風満帆とは行きそうにない雰囲気。
恐らく竜宮小町のリーダー格であり単純に一番存在が知られているであろう伊織と、765プロ随一の運動神経の持ち主である真とを組ませることで、競技での勝利と見た目の華やかさを両立させようという考えがあったのだろうが、それが裏目に出てしまったというところだろうか。
1話でも似たような描写があったが、アニメ化以前のドラマCDなどでも真と伊織は口ゲンカを始める描写が、他キャラと比較すると多い。元々どんな時でも自分の言い分を絶対変えない伊織と、直情径行な性格である真は口論をしやすい組み合わせなのだが、今回はさらに真が765プロ随一の運動神経の持ち主であり、それ故に運動面に関しては強い自信を持っているであろうことも、余計に2人の口ゲンカの白熱化に拍車をかけてしまっているようだ。
仲裁しようとした雪歩を、古参ファンには有名な迷ゼリフ「雪歩は黙ってて!」で封じてしまったあたりはニヤリとさせられるが、直後に飴食い競争から戻ってきた響と貴音の白粉まみれの顔を見て、他メンバーはもちろんケンカ中の伊織と真まで一緒に笑ってしまうあたりに、決して平素から仲が悪いわけではない2人の関係性を盛り込んでいるのは相変わらずの手並み。
雪歩も6話に続いてプロデューサーと問題なく接している様子がさりげなく織り込まれており、3話で描かれた小さな一歩の成長が着実に根付いていることを伺わせている。
そのすぐ後にはプロデューサーをいじって遊んでいる亜美真美の姿が実に楽しそうに描かれており、この辺は前話である9話での真美の独白を意識している部分もあるかもしれない。
ちなみにこのシーンはプロデューサーが性的?な興味に負けてしまった初めてのシーンでもある。5話での水着姿にもさして興味を示していなかったプロデューサーであったが、全くの無関心というわけでもないようで一安心(笑)。
競技の方はパン食い競争へと進み、こちらはあずささんが出場。飴食い競争で一等を取った響と違い、どうにも足が遅く順位的には最下位になってしまったものの、いつもどおりののんびり穏やかな感想やインタビュー、そして激しく揺れ動く胸によって観客の興味を一身に集めてしまう。
このあたりは8話で描かれたのと近しい内容であるが、その8話では走りにくいウェディングドレスを着てかなりの速度で走っていたのに対し、今回はビリになってしまっている。やはり胸の揺れが激しすぎてバランスを取るのに苦労したからだろうか。
先程の飴を頬張りながら「あちらに出場したかったです」と呟く貴音も素敵。
しかしそんなのん気なあずささんを不服そうな顔で見つめる少女が1人…。
その一方で真と伊織の口ゲンカはまだ続いていたが、伊織たち竜宮小町は昼のステージイベントの準備をするために離脱した。
同じ事務所に所属していながらも一歩先を進んでいる竜宮小町の3人との立場の違いを、図らずも見せつけられる形になってしまった9人ではあったが、「負けないように自分たちも競技を頑張ろう」という春香の言葉に、他の8人も俄然やる気を見せる。
9話での真美の描写に代表されるが、765プロのアイドルは基本的に仲間に対して嫉妬することはない。竜宮小町の3人が一歩先んじていようと、それを我が事のように喜ぶことができ、「いつか自分たちも同じようになろう」と前向きな考えを持つことができるのが、彼女らの何よりの強みなのだ。
そんな彼女らの強みを知っているからこそ、彼女らの後ろに控えていたプロデューサーも敢えて口を挟まなかったのではないか。4話で担当アイドルのことをよく理解していなかったり、6話で空回りしていた頃から考えると、彼もまたゆっくりではあるが確実に成長している。
だが「前向きに考える」と言うことは単なる能天気と言うわけではない。彼女らは前向きな考えを持つことはできても、それを維持していけるだけの支えとなるべきものがなければ、と言うより何が支えになっているかをきちんと理解していなければ、いざという時にその考え方を自己の拠り所とできずに瓦壊させてしまうかもしれないのだ。
今話の後半は、まさにその拠り所を見失ってしまったアイドルが、中心として描かれることになる。
やる気を出したアイドルたちは風船割り競争に綱引き、騎馬戦などを順調にこなしていく。4話ではバラエティー番組収録をこなすのに苦労していた千早も、内心はともかく目の前の競技に真剣に取り組んでおり、何らかの心境の変化があったであろうことを匂わせている。
そしてそんな中、美希はまたも秘めたるポテンシャルを開花させ、三輪車競争で大番狂わせの1位入賞を果たした。
彼女の独り言からもわかるとおり、彼女は6話でのプロデューサーとのやり取りから、未だに自分がアイドルとしてがんばれば竜宮小町に入れると信じ込んでいる。離脱した竜宮小町を複雑な表情でみんなが見つめる中、1人だけ羨望の眼差しを送っていたことからもそれはわかることだが、同時に危険な目標でもある。
美希の目標は「トップアイドルになること」ではなく「竜宮小町に入ること」にすり替わってしまっているのだから。
さてそんな美希の姿をまたも不服そうに見つめている別の少女がいた。彼女の名は「つばめ」。先程あずささんを見つめていた「のぞみ」ともう1人「ひかり」と共に、こだまプロ所属の人気アイドルユニット「新幹少女」を組んでいる1人である。
ファンに対してはアイドルらしく愛想を振りまくものの、陰では3人とも弱小事務所である765プロのアイドルが自分たちよりも目立つことを快く思っておらず、嫌悪感を露わにする。
10話目にして初めて明確に登場した「他事務所のアイドル」であるが、上記一文のみからもわかるとおり今話の敵役としても設定されている存在だ。
露骨に765プロアイドルを嫌悪するその姿は、言うまでもなく基本的に嫉妬心を抱くことのない765プロ陣営との対比としてのものだろうが、同時に先を目指して進むことを目標としている765プロ陣営とは違い、既に一定の人気を得ているにもかかわらず、その先を見ずに後から追いかけてくるアイドルを見下すことしかしないという点で、精神面における「アイドル」としての成熟度合いを比較しているようにも見える。
美希たちの活躍もあって、765プロは女性アイドル部門の優勝も狙える位置にまで順位を上げることができた。
次に行われる仮装障害物競争に出場するのはやよい。みんなのためにも勝たなければと気合を入れるやよいであったが、同じレースに出場する新幹少女のひかりは、そんなやよいを冷ややかに一瞥する。
見た目からはあまり想像できないが、765プロアイドルの中では運動が得意な方であるやよいは、みんなからの声援もあって途中まで順調に進み、他の出場者が次々リタイアする中でポイントが取れる位置にまで順位を上げていく。
しかしゴール直前というところでふらついたひかりがやよいにぶつかってきたため、やよいは転んでしまい失格となってしまう。
自分に落ち度がないとは言えぶつかったことを気にしていたのか、2位入賞を果たしたひかりの元へ向かったやよいはお祝いと謝罪の言葉を述べるが、返ってきたひかりの言葉は全く意外なものだった。
「優勝、できるといいわね。ま、あんたみたいな足手まといがいたんじゃ絶対無理だろうけど。」
唐突に突きつけられた悪意に、やよいは何も言えぬまま立ち尽くしてしまう。
やよいは基本的には精神の強い女の子である。7話で伊織が述懐していたとおり、どんな時でもニコニコ笑って頑張る子なのだが、同時にその7話の中では、伊織や響に後押しされるまで家を飛び出した長介を探しに行く決断ができなかったり、長介にもしものことがあったらと思わず涙ぐんだりと、やよいの持つ欠点も指摘されていた。
6人兄弟の最年長としてずっと家庭を支えてきた立場のやよいは、14歳という年端もいかぬ少女でありながら、自分以外の人間に頼ったり甘えたりするという感覚に疎い。だから長介が飛び出して行った時も、まずは現在の自分の立場に従事することを優先し、その場を伊織や響に任せて、すぐ後を追いかけるような真似ができなかったのである。
そしてさらにやよいは、自分のせいで他人、とりわけ家族や友達に迷惑が及ぶような事態には耐えられなかった。やよいにとっては自分自身が迷惑を被ること以上に、自分のせいで周囲に迷惑を及ぼすことの方が辛いことだったのだ。
その場にやよい以外の誰かがいて、すぐさまフォローしてくれたのであれば、やよいはそれほど悩むことはなかっただろう。だが不幸にもその場に「やよいの側に立ってくれる人」は1人もいなかった。やよい自身もそんな言葉を返されるとは、それこそ夢にも思っていなかったろう。
それ故にひかりの向けた悪意だけが、無防備だったやよいの心に重くのしかかってしまうことになる。そしてそれは不幸な偶然によってさらに増幅されてしまった。
「惜しかったよ」「もう少しでしたね」「ぶつからなきゃポイント取れてたぞ」。やよいが戻った時にみんながかけた言葉には、もちろんやよいへの悪意など込められておらず、純粋にやよいの健闘を称えているだけだ。
しかしその時のやよいにとっては、「自分がみんなの役に立てなかった」という事実を補強している言葉でしかなかった。そしてそれはつまり「自分は足手まといである」と突きつけられた悪意をも、やよいの中でより確かなものにしてしまったのである。
ひかりに取ってみれば、やよいを確実に貶めるための一言として発した言葉かどうかすらも怪しい、軽い一言だったかもしれない。しかしそれがやよい自身の性格と不幸な偶然とが重なった結果、やよいに取ってとてつもなく重い悪意の塊になってしまったのだろう。
そしてそれは到底やよい1人で乗り越えられるものではなかった。しかし他人に頼ることに疎いやよいは、誰にも話せず1人落ち込んでしまう。
思い悩むやよいを横目に、イベント自体はどんどん進行していく。
ステージイベントへの竜宮小町の出演、チアリーディングに出演しつつ、「転ぶ」という自分の個性を活かして観客の耳目を引く春香と響など、765プロアイドルも種々の場面で活躍するのだが、新幹少女にとってはそれらのことごとくが気に入らないようで、自分たちのプロデューサーに話をつけてもらおうとまでする始末。
そんなことになっているとは露知らず、765プロ陣営は昼食用の弁当が他の事務所のと比べて貧弱ではないかと突っ込まれて、プロデューサーがしどろもどろになったりと、相変わらずのんびりした雰囲気だ。
実際には約一名、そんな雰囲気にも浸れず正に苦悩している真っただ中の人物がいるのだが、画面ではその人物の姿を極力映さないことで、人物描写上の矛盾点が発生しないように腐心している。
さてそんな765プロの陣中見舞いに訪れたのは、同じように今回のイベントに参加していた876プロダクション所属のアイドルである、「日高愛」「水谷絵理」「秋月涼」の3人だった。
彼女ら3人は元々外伝的色彩の強いゲーム「アイドルマスター ディアリースターズ」(略称「アイマスDS」)で主役を努めた人物であり、そちらでは既にアイドルとして一定の地位を獲得している765プロアイドルは彼女らの先輩的な存在として、それぞれの物語に絡んできていた。
「DS」以降は全くと言っていいほど出番がなく、7月に「DS」のコミカライズ単行本の最終巻限定版に付属したドラマCD内で久々に登場したものの、以降の露出は完全に途絶えてしまったため、少なくない数のファンをやきもきさせていたが、そんな中での告知一切なしのアニマス登場である。
上述のストーリー紹介ではわざと飛ばした(笑)アノ3人が登場した時以上に、驚きと歓喜がファンの中で湧きあがったのではないだろうか。
今回のアニメ版は既にDSとは全く異なる物語設定となっているため、アニマス世界で876プロの3人がどのように765プロの面々と知り合い、交友関係を築いたのかは不明だし、そもそも「DS」の情報を全く知らない人にとっては、突然出てこられても「誰なんだ?」で終わってしまうであろう。
これにはもちろんゲーム版に慣れ親しんだファンへのサービスという側面もあるだろうが、しかし同時に彼女らがどんな人物か視聴者が詳細を知らなくとも、彼女らが出てきたというだけで今話のストーリーにおける世界観拡大の一助にもなっている。
すなわち新幹少女のように、とにかく765プロを毛嫌いする他事務所のアイドルがいる一方、同じ他事務所所属のアイドルでありながら、765プロアイドルと相応の交流を果たしている、仲の良いアイドルもいることを提示しているのだ。
765プロを快く思わないアイドルもいれば、親しく付き合っているアイドルもいる。よくよく考えれば当然のことなのだが、その描写があるとないとではまるで違った印象になってしまったことだろう。
876プロ3人の差し入れもあって和やかな雰囲気になったかと思いきや、次の借り物二人三脚の組み合わせがまた伊織と真の2人であったため、2人は午前中の口ゲンカを再開してしまう。
876プロの面々にまで心配されてしまったそのケンカは競争が開始してもなお収まらず、スタートの合図にも気付かないまま2人は口論を続けてしまう有様だ。
しかし実際に走りだしたら転ぶこともなく、一応は息を合わせて走っていた点、そして借り物の内容「事務所のイジられ役」を見て、2人とも迷うことなくプロデューサーを連れてくるあたり、根っからの犬猿の仲ではないことに留意する必要があろう。
だが同時に一歩も引かない頑固な面を持ち合わせているのもこの2人。業を煮やした真がペースを上げたため、合わせられなくなった伊織は真やプロデューサーを巻き込んで転んでしまい、競技は失格、さらに真は膝に怪我を負ってしまった。
手当こそしたものの、優勝のかかった最後の全員リレーに出られるかは難しい状態になってしまった真。たとえ厳しい状態になっても最後まで頑張ろうと春香が励ます中、貴音が塞ぎこんだやよいの様子に気づく。
伊織や真に促されたやよいは真実を話すと同時に、今まで抑えていたものが溢れてきたのか泣き出してしまう。
やよいのことを足手まといなどとは誰も思っていない。それはやよいにもわかっているはずのことだが、それでもなお自分自身への負い目を否定しきれなかったやよいは、その苦悩を結局自分から誰かに吐露することはできなかった。
たった1人でずっと溜めこんできた辛い思いを吐き出すやよいの姿を目の当たりにした真は、怪我をおしてリレーに出場する決意を固める。
場面変わって競技場のロッカールーム。そこで新幹少女のプロデューサーが765プロに対し、八百長を持ちかけてきた。正確には正面から言葉に出すことなく、765プロ側に遠まわしな圧力を暗に示して気を遣わせようとする姑息なやり口だったが、プロデューサーはそれに一切臆することなく社長に電話をかけ、どうしたいのかと問う社長にはっきりと宣言する。
「俺はあの子たちに、どんなことであれ手を抜けとは言いたくありません」と。
八百長を断られたことに憤慨する新幹少女のプロデューサーであったが、今度はそこに伊織が現れ、新幹少女の所属するこだまプロダクションの親会社の筆頭株主がどこであるかを彼に問いかけ、「圧力」の存在を暗に示した上で「正々堂々とやりなさい」とだけ言って去っていく。
直接は言及せず遠まわしに圧力の存在に触れ、気を遣わせることで八百長を実行させようとしたこだまプロのプロデューサーは、自分とまったく同じやり方を伊織に実行されて黙らざるを得なくなってしまったわけだ。
この「同様の手段でやり返す」やり方は、物語における駆け引きのシーンではよく使われる手法であるが、最初にその手段を用いた敵側が卑劣であればあるほど、同じ方法でやり返されたという皮肉も効き、見る側に痛快な印象を与える。
伊織の取った手段はまさにこれであり、同時に水瀬グループという巨大な圧力を暗に示しながらも、それを使って勝負自体を決するような真似はせず、あくまでこだまプロ側の裏工作を封じる手段にしか用いていないのは、伊織ならではの矜持というところだろう。
伊織はあくまでアイドルとして成功することで父や兄を見返したいと思っているだけで、水瀬グループの力を行使すること自体までは否定しない。7話の冒頭で水瀬家のお宅拝見番組にあからさまに便乗してきたことからもわかるとおり、利用できるのであれば積極的に利用するというしたたかさも持ち合わせているのが伊織なのだ。
だが自分自身の力で事を成し遂げることを何よりも是としているからこそ、権力を直接行使して事態を収束させることは決して行わない。伊織自身の口から「水瀬グループ」の名前が一度も出てこなかった所以であろう。さらに今回に限って言えば、自分だけでなくやよいや仲間たちの力をも信じているが故のものだったのかもしれない。正々堂々と勝負すれば、自分達は絶対に負けることはないと信じているからこその。
そしてそんな伊織の無言の圧力に自分から屈してしまったこだまプロと比較して、765プロのプロデューサーもまた、プロデューサーとしての矜持を見せつけていた。
アイドルを輝かせるために働くことこそがプロデューサーの使命。だからこそその輝きを損なわせるような真似を、プロデューサーである自分が実行することはできない。
思えばプロデューサーは愚直なまでにアイドルのことをずっと第一に考えてきた。6話での空回りもアイドルたちをもっと活躍させてやりたいとの思いが発端であるし、5話での水着姿のアイドルたちに下心めいた感情を一切抱くことなく、アイドルとして人気が出ることを望んでいた。お世辞にも敏腕とは言えないプロデューサーではあるが、そんな彼であったからこその決断だったとも言えるだろう。
こだまプロの方は圧力を示され、矮小な「小者」に成り下がった。しかし765プロのプロデューサーは同じことをされてなお「アイドルのプロデューサー」であり続けたのだ。
ついでに言えばわざわざ社長に電話して了解を得、765プロ全体の総意として回答していたのは、企業間のやり取りとしてしまえば、相手側もそれについていちいちお偉いさんの了解を取りつつ交渉せざるを得なくなるわけで、そう言う状況に持ち込むことでこだまプロ側を牽制していたようにも思える。
そして始まる全員リレー。こだまプロ側との順位はまさに一進一退。抜きつ抜かれつのリレーが展開する中、まだ自分の中のわだかまりを払拭できていないやよいの番が回ってくる。
前半の障害物競争の時と比べても明らかに精彩を欠いた走り方になってしまっているやよいだったが、追い打ちをかけるかのようなつばめの「足手まとい!」の言葉に、とうとう満足に走れない状態にまで陥ってしまう。
他のランナーにも抜かれて最下位に落ちてしまい、どうすることもできずに涙をためるやよいだったが、そんな彼女を次のランナーである伊織は「下を向かないで!前を見てちゃんと走りなさい!」と大声で叱咤する。
目の前にはちゃんといるのだ。自分が前を見てまっすぐに進んでいける力を持っていることを知ってくれている友達、例え自分の力が及ばなくともきちんと受け止めてくれる仲間が。大事なのは自分の目を開け、顔を上げて、自分の意志で目の前にいる仲間と向き合うことなのである。
気力を振り絞ってどうにか再び走り出したやよいからバトンを受け取った伊織は、何とか1人を抜くことに成功し、後のすべてをアンカーである真に託す。
そこに先程まで口ゲンカをしていた2人の姿はないし、「竜宮小町」と「そうでない者」との垣根もない。あるのは「765プロの仲間」という関係性だけである。同じ事務所に所属してずっと同じ夢を追ってきた者同士、強固な信頼関係がゆっくり確実に築かれてきたからこそ、その仲間が自分の後を、自分の想いを託せる存在であること、想いを自分に託してくれる存在であることがはっきりとわかるのだ。
自分の出した結果をまっすぐに受け止めてくれる人が、様々な想いを託せる人が、顔を上げればすぐ周りにいる。それにようやく気付けたからこそ、やよいは声を振り絞って「勝ってください!」と真に叫ぶ。リレーが厳しい状態になったのも、怪我をしている真に無理をさせてしまっているのも、自分のせいであることをやよいは知っている。その上で自分の弱さや失態も含めた「想い」や「結果」を真に託し、頼った。涙をためながらの応援はだからこそのものだったのだろう。
やよいを始め仲間たちの応援を背に受けて、真は最後の力を振り絞って爆走する。
元より怪我をしていた真は万全な状態ではない。これまでのランナーもあずささんや雪歩など、運動が苦手な方のアイドルは何人かに抜かれてしまっている。やよいの影に隠れてしまっているが、実際はやよい以外にも「足手まとい」になりかねないマイナス要因を持っているアイドルは何人かいたわけであり、状況次第では765プロ最速を誇る真でさえも、その1人になっていたかもしれないのだ。
しかし彼女らはそんな個人の能力差を「足手まとい」として一蹴するようなことはしない。それはあって当然のものであり、大切なのはそれを受け入れた上で前に進むこと、それをあきらめないことであると知っている。そしてそれは1人では難しいことかもしれないが、仲間と一緒ならきっとできると信じているのだ。
「1人ではできないこと 仲間とならできること」。本作の根底に流れるテーゼをここでまた改めて打ち出したと言えるだろう。このリレーの場面にかかっている挿入歌が、「仲間を作り仲間とともに歩んでいけばもっと幸せになれる」ことを謳った「L・O・B・M」であったことも、そのテーゼを強く打ち出している証左だろう。
マイナスの部分さえも認めて否定せず、それでいてなおそれを乗り越えようとする姿勢。9話での真美の独白にも通じる前向きな考え方こそが、765プロアイドルの持つ強さの源ではないだろうか。そんな彼女たちと、相手を否定・拒絶することしかしてこなかった新幹少女との勝負の行く末は、実は明白なものだったのかもしれない。
激しいデッドヒートの末、僅差で真は勝利。765プロはめでたく優勝することができた。
実況アナウンサーからは「テレビ的なことも考えず、空気も読まずによく頑張りました」と揶揄されてしまったが、「DS」に登場する某人物の名言「空気など読むな」然り、先へ進んでいくためにはもしかするとかなり大事なことなのかもしれない。
優勝カップを受け取った伊織は、例によって直接は言わないものの、勝利の立役者である真にMVPと称してカップを渡す。素直な気持ちを見せることのない伊織に苦笑する真だったが、真は改めて隣にいた少女にカップを渡した。
それは単に優勝を祝うという意味だけでなく、自分の優れた面も劣った面も含めて仲間に頼ること、託すことの大切さを学び、少しだけ成長した少女へのお祝いの気持ちもあったのかもしれない。
嬉し涙を流しながら今日一番の笑顔でカップを抱きかかえる少女の姿こそ、765プロアイドルにとっての最良の「結果」だったのではないだろうか。
今話は一見すると876プロのアイドルなども含めた、5話以来のオールスターイベント回に思われるが、実際は765プロアイドルにおける、絵理が言うところの「結束」を、やよいを通して描いた話であった。
「アイドルたちは常に前向きに歩もうとしている。1人ではどこかでくじけてしまうかもしれないが、仲間と一緒なら互いに支え合っていけると信じている」。
文章で書くとこの程度にしかならないし、実際3〜6話では「仲間とともに頑張ること」をフィーチャーしてきたわけで、特に今話で初めて打ち出したテーゼというわけではない。
だが今回のやよいは3話の雪歩や4話の千早と違い、自分の性格や嗜好に起因する悩みを抱いたわけではなく、外的要因、はっきり言えば第三者からの悪意を一身に浴びることで苦悩し、追い詰められてしまった。
それはこの先、トップアイドルへの道を進む上で避けて通れないことかもしれない。今回やよいに起きたことは、明日別のアイドルに降りかかるかもしれないからだ。
今までとは異なる経緯の問題に今回彼女たちは直面させられたわけだが、それでもなおその問題を今までと同様に自分たちの力で解決することで、本作のテーゼも改めて明確に打ち出すことが出来、さらには765プロアイドルの中で唯一「他人を頼ること」に対して不器用だったやよいも、素直に仲間を頼れる程には成長することができたのだ。
そして同時に今話は、今までの話の中で描写された様々な要素をそのままに、あるいは発展させて盛り込んだ話でもあった。
上述したストーリー紹介の部分を見てもらうと、「第○話では〜」と紹介している下りが多いことがわかると思う。
過去の話での描写をほぼそのまま再現したり、または過去話の描写を踏まえた上で若干成長した様子を描いたりするシーンが今話では多く織り込まれており、そう言う意味で今話はアニマスの設定面を一度集成した回だったと言えるかもしれない。
本作のテーゼを今話で再確認したことも含め、今話はアニマス全体の中でとりあえずの区切りをつける話としての役割を担っているのではないか。そしてそれはとりもなおさず、次回以降の話が今まで以上に大きく動き出す可能性をも示唆している。
だがそれでいて、今話は作品世界を大きく広げた回でもあった。今までは基本的に765プロ内で終始する話ばかりだっただけに、今話では外部からの様々なゲストが登場してストーリーを彩っている。
今更言うまでもない、今話の敵役だった新幹少女。
彼女たちのアイドルとしての欠点は既に書いたとおりだが、プロデューサーとの会話から察するに、以前から自分たちの後を追随してくるアイドルを妨害してきた節も窺える一方、今話の中で直接的に行った嫌がらせとしては、やよいに対する嫌味程度しかなく、実力で現在の座を勝ち得たのか、それとも狡い手段で今の座についたのか、その辺が不明なので、キャラに対する印象を決定しづらい連中でもある。
ただメンバーの1人であるのぞみが真に本気で惚れこんでしまい、そのあたりのコメディタッチな描写が、物語上の敵役としての立ち回りと上手い匙加減で混ざり合っており、いわゆる悪役的な扱いになっていない。
仲間内に限っては仲が良さそうという点も、通り一遍の敵役とは違う独自の個性を打ち出していて好感が持てる。
そしてついに姿を現した男性アイドルユニット「Jupiter(ジュピター)」。リーダー格の天ケ瀬冬馬は既に2話で春香とニアミスしていたものの、残りのメンバー「伊集院北斗」「御手洗翔太」も加えて、満を持して?の登場である。
…のはいいのだが、今回も各キャラのセリフはほとんど一言のみ、登場時間も合計で10秒程度という、2話に続いてかなりひどい扱いになってしまった。専用曲「Alice or Guilty」まで使用されたというのに、さすがに一抹の寂しさを禁じえない。短い時間の中で3人の個性と関係性については的確に描写していたけども。
ちなみにジュピターがステージに登場した際、他のみんなが驚いた表情を作る中、千早だけ不機嫌な表情だったが、2話で春香と冬馬がぶつかった時のことをまだ根に持っているからかもと考えると、それはそれで面白い。
ただこのジュピター、アイマス2ではプロデュースユニットのライバルとして登場したものの、ジュピターとのライバル対決はあくまでプレイヤーのプロデュースしている対象が1ユニットのみだからこそ成り立った設定であるため、プロデュースを特定ユニットに限定していないアニマスの世界で765プロの面々とどのようにかかわってくるのかは、現時点では全く予想がつかないのも事実である。
ついでに彼らの所属する961プロダクションの社長である黒井崇男氏も登場。765プロの高木社長と同様に顔が映されることはなかったが、演じる子安武人氏の小物臭漂う(笑)演技は相変わらず絶品であった。
そして既に紹介した876プロダクションの面々。
先に書いたとおり、ファンサービスと世界観拡大以上の意味はないように思われるが、このまま一回限りのゲストとして終わってしまうのはさびしいと思うのも、ファン心理としては当然のことだろう。
何とか再登場してほしいものである。
さて次回。
前述の通り、第1クール終了に向けて大きく話が動き出してくるようだ。期待や不安はともかく、「予兆」とは一体何に対しての予兆なのだろうか?