2011年09月24日

アニメ版アイドルマスター12話「一方通行の終着点」感想

 頑張れば竜宮小町の一員になれると信じてずっと頑張ってきた美希。しかし当の律子から聞かされた言葉は、「竜宮小町のメンバーを増やすつもりもないし、減らす予定もない」というある意味当然のことではあったが美希にとっては辛いものだった。
 ショックを受けた美希は1人走り去ってしまい…。
 という前話での美希と律子のやり取りを再度描写して始まった今回の12話。今まで美希自身が努力してきた理由そのものを完全に否定されてしまった中、美希がどのようなことを考えて行動するかが今話の焦点である。

 律子からの言葉を聞いて以降、美希はレッスンスタジオに姿を現さなくなってしまった。プロデューサーからのメールや電話にも一向に応じる気配はなく、事情を知らない他の8人は美希が体調を崩したのではないかと心配する。
 この段階ではまだ全員がそれほど事態を深刻に捉えていないようで、それは「お腹が減ったら帰ってくる」という響の軽いセリフに象徴されている。しかし同時に各人がそれぞれのスタンスで美希を心配しているのも確かであり、それもまた響のセリフに象徴されていた。
 すなわち7話で長介が家を飛び出して行った直後、皆に心配かけまいとやよいが呟いた言葉と同じセリフを響に言わせることで、字面通りの軽い見方と内心のかすかな不安とが響の胸中に渦巻いていることを一度に描いているわけだ。

1316708996326.jpg

 ただ一言のセリフでアイドル全員の胸中をそれとなく悟らせる構成も例によって見事だが、何より7話と今話とでは脚本担当も演出担当も別人なのに、過去話での描写と巧みに絡ませる演出ができているという事実にも驚かされる。スタッフ間の連携が滞りなく行われていることの証左だろう。
 そんな中プロデューサーは、律子から美希がレッスンに来なくなったと思われる理由を聞かされる。それは熱心に見ていた視聴者であれば周知の通り、6話におけるプロデューサーにとっては何気ない美希とのやり取りがすべての発端であった。

1316709041342.jpg

 前話の感想でも書いたとおり、あの場面において美希が勘違いしてしまったことについて、プロデューサーだけを非難することは難しい。仕事相手との電話をしている最中にずけずけ話しかける方も一方的すぎるし、そもそも竜宮小町の構成メンバーを決められるのはプロデューサーではないのだから、プロデューサーとのやり取りだけで自分の目標をすべて決めてしまったのも安易と言えば安易だろう。
 しかし経緯はどうあれプロデューサーが美希に対して嘘を言ったのもまた事実である。さらにプロデューサーがその時の美希とのやり取りを、律子に言われるまで全く覚えていなかったことが、事態をより複雑にしてしまったのだろう。プロデューサーはこの時まで美希が竜宮小町に入るために頑張っていたことを知らず、他のアイドルと同様に「トップアイドルを目指す」ために頑張っていたと考えていたはずでそれを疑っていないのだから、美希の目標に関して美希と改めて話をするわけがなかったのだ。
 結果としてそれが美希の勘違いを大きくさせ、真実を知った時のショックもまた大きなものにしてしまったと言える。そういう意味ではやはりプロデューサーの責任は大きいものだろう。

 事実を知ったプロデューサーに、事実を知らない他のアイドル8人が美希のことを尋ねて来ても、プロデューサーは安易に本当のことを話すことはできない。プロデューサーの責任は大であっても、何も言わずに顔を見せなくなった美希の方にも非があるのは確かなのだから。
 病気にでもなったのではとみんなが心配する中、「今はライブに向けて集中するべきではないか」と冷静な意見を述べたのは千早だった。

1316709102666.jpg

 貴音もそれに同意したことでとりあえず8人はいつもどおりレッスンを続け、美希のことはプロデューサーが引き受けるということでその場は収束する。
 一見すると千早の言動は冷徹なようにも聞こえるが、直後の千早の表情が不安げなものになっていたことからも、単にライブのことだけを盲目的に考えているわけではないことが窺える。そんな千早の表情の変化に唯一気付いていたのが春香だったというのも、春香自身の個性や2人の関係性が改めて浮き彫りになっていて面白い。

 当の美希は熱帯魚ショップで水槽の中を泳ぐ熱帯魚を落ち込んだ表情で見つめていた。

1316709147581.jpg

 プロデューサーからの電話に気づいた美希はようやく電話に出るが、竜宮小町に入れないことを知った美希はアイドルとしてやっていく気がなくなったと言いだす。レッスンにも行きたくないと言う美希に思わず声を荒げるプロデューサーだったが、美希はそれには応えず電話を切ってしまう。
 まともな話すらできず落胆するプロデューサーだが、そんな彼に忠言してきたのは小鳥さんだった。
 美希はアイドルであると同時に15歳の女の子。現実を理解できていても、それでも感情的になってしまうこともあるのではないかという言葉に、プロデューサーは自分の至らなさを痛感する。

1316709272202.jpg

 プロデューサーは常に765プロのアイドルに「プロデューサー」として接してきたし、彼女たちを「アイドル」として見てきた。それは決して間違ったことではなく、むしろ変に浮つく人間よりもよほどプロデューサーとしては適した考え方だろう。
 しかし今回はそれが裏目に出てしまった。彼女たちはアイドルという公の存在だけでなく1人の人間、とりわけまだ年端もいかぬ女の子でもある。自分の感情を制御できなくても仕方のない年頃の少女。プロデューサーは「プロデューサー」という職業に極めて真面目に、ストイックに取り組んでいたがために、その当たり前の事実に気付けなかったのだ。
 だがこれはプロデューサー個人の落ち度というには当たらないだろう。まして「無能」などと揶揄されるべきことでもない。ゲーム版をプレイしている人であればわかるはずだ。若い少女たちの「アイドルプロデュース」が本当に大変であったこと、目の前の少女の気持ちを量りきれずに何度もバッド選択肢を選んでしまった現実を。アニマスのプロデューサーが今まさに直面しているのは、ゲーム版を遊んできた数多くのプロデューサーが味わった苦悩そのものとも言えるのである。
 しかし何度も再プレイできる現実のプロデューサー(プレーヤー)と違い、アニマスのプロデューサーの選択にやり直しはきかない。だからこそ常にアイドルをフォローしている彼をフォローする立場の人間が必要になるわけで、その役割を一手に担っているのが小鳥さんだったというわけだ。
 6話においてもプロデューサーが自分の空回りに気づいた時、優しくフォローしてくれていたが、今話では悩むプロデューサーをフォローしつつも「こう考えるべきではないか」というアドバイスまでしてくれ、さらに今もどこかで悩んでいるであろう美希まで気遣っている。
 この細やかな心配りはアイドルの女の子たちにはできない、それなりに経験を積んだ大人の女性ならではのもので、プロデューサーにとっても非常に救いになったことだろう。765アイドルが仲間同士助け合って頑張っているのと同様、そのアイドルを支えるスタッフであるプロデューサーと事務員もまた、助け合って頑張ることができるのだ。

 翌日、事務所にはライブ用の衣装が届けられた。アニマスのキャラクター設定画でも各人が着用していたゲーム内衣装「ピンクダイアモンド765」である。
 途中からやってきた竜宮小町の面々も感嘆のため息を漏らすが、彼女らも美希が未だ姿を見せないことを心配していた。8人もさすがに不安の色が濃くなってきたようで、皆を気遣っての春香の冗談めいた発言を聞いても、どことなく元気がない様子。
 当の美希は特にさしたる目的があるわけでもなく、街の中をブラブラと歩いていた。クレープを食べ、プリクラで写真を撮り、友達と電話をし、本屋で立ち読みをするという何の変哲もない、しかし十代の女の子ならばごく普通の光景(ナンパをあっさり断る美希ならではの身持ちの硬さもさりげなく描写)。まさしく小鳥さんが言っていた通り、年頃の女の子ならではの日常とも言えるが、同時にアイドルという仕事に無理やり区切りをつけるため、敢えて街をぶらついているようにも見える。

1316709352207.jpg
1316709373912.jpg

 それは撮影した写真に美希自身が書いていた「プロデューサーのバカ」という言葉が視界に入ると同時に笑顔が消えたり、雑誌に載っていた自分自身の記事を見て笑顔を作るも、直後に竜宮小町の3人が表紙になっている雑誌を見てすぐ沈んだ表情を作ってしまったところからも窺えるだろう。
 しかし新しい衣装ができたとのプロデューサーからのメールを見て、一瞬顔をほころばせながらも慌てて首を振りつつ携帯をしまっており、無理をして気を張っている様子も見て取れる。
 このようなシーンで「ふるふるフューチャー☆」がBGMとしてかけられたわけだが、一見すると曲調からして場違いな印象を受けることだろう。
 全体としては恋人であるハニーへの想いを歌った歌であるから、内容的にもこのシーンにはそぐわないと思われがちだが、純粋にこのシーンのみに使用された箇所の歌詞を抜き出して考えてみると、信じていた「約束」を守ってくれなかった相手への反発の気持ちと、目標を喪失してしまった美希自身に、自分が歩むべき「未来」を提示してくれる人を期待している気持ちとが入り混じった、現在の美希の胸中を代弁しているのではないか。
 映像だけでは描写しきれなかった美希の微妙な心情を、BGMが補完してくれているように思える。
 また美希の一連の竜宮小町への想いを「竜宮小町への恋」と解釈すれば、本曲がBGMとして使用されるのもさほど違和感を感じないかもしれない。

 さてプロデューサーは律子とともに、感謝祭ライブの会場を下見していた(場所のモデルはアイマス6th Anniversary Liveの東京会場となった「TOKYO DOME CITY HALL」)が、美希のことはもちろん気にかかっていたものの、美希の両親に聞いても行き先を知ることができずに悩んでいた。
 だがそれでもプロデューサーはあきらめない。「美希にもこのライブ会場に立ってほしい」という彼の強い願いを聞いた律子は、後のことを引き受けてプロデューサーに美希を探しに行かせる。
 ここにも765プロのスタッフ同士、プロデューサー同士の助け合う姿があった。
 プロデューサーは美希を探して街の中を歩き回る。美希とよく話し合わなかったことを今更ながらに悔やむプロデューサーだったが、偶然か故意かは不明なれど着実に美希の立ち寄った場所を追ってきており、そういう点で見るとプロデューサーは美希という少女のことを、ある程度は的確に把握できていたのかもしれない。
 だがある程度把握できていたが故に、彼女のことをより深く知ろうとしていなかったのではないか。彼の独白にはそんな自責の念も感じられる。

 果たして探し求めた先に美希はいた。街頭インタビューに応えていた美希は、自分をアイドルだと名乗った上で持ち歌と思しき「Do-Dai」を野次馬たちに披露するが、美希はまた沈んだ表情を作りながら途中で歌うのを止め、見つけたプロデューサーからも逃げ出してしまう。
 逃げながら美希は、もう歌いたくないし踊りたくないからアイドルを止めるとプロデューサーに言い放つが、つい先程まで美希が楽しそうに歌っていた姿を目の当たりにしていたプロデューサーはそのことを指摘、美希は思わず「あんなの全然楽しくなんかないよ!」と叫んでしまう。
 それは恐らく美希の本音だったのだろう。自分の中で渦巻いているであろう様々な感情を整理できずに持て余してしまう、年相応の女の子。そんな複雑なものをいくつも抱え込んだままで歌ったとしても、楽しい気分になれないであろうことは間違いないのだ。

 やっとのことで美希を捕まえたプロデューサー。美希は怒られるのではないかと顔を強張らせるが、プロデューサーが真っ先に取った行動は「無責任な言動を取ったことの謝罪」だった。
 6話でもそうだったが、プロデューサーは自分に非があると自分で認識した場合は、それを素直に認めて謝罪できるという潔さを持っている。今回はこの潔さが功を奏したようで、身構えていた美希も若干気が抜けてしまったらしく、先程までの頑なさは失われていた。
 それでもまだ意地になって「アイドルを止める」という宣言を撤回しない美希と、そんな美希を説得するために美希の後をついていくプロデューサーの姿は、「少しわがままな少女と、彼女を取りなそうと奮闘する頼りない年上の男性」という、傍目には何とも微笑ましい様子に見える。

1316709799001.jpg
1316709819635.jpg

 それは無論美希本人が持っている子供っぽさと大人っぽさのアンバランスさから生じる可愛らしさもあるのだろうが、Aパートでの美希の会話と違い、自分の都合を基本的には押し付けず、美希のやりたいことをやらせ、それに素直についていこうとするプロデューサーの姿勢も影響していることは間違いない。
 Aパートでは美希への対応をしくじってしまったプロデューサーではあったが、小鳥さんの忠言を聞き入れて美希との向き合い方をすぐに修正できるほどには、柔軟な思考の持ち主でもあるというわけだ。
 そんなプロデューサーの対応を知ってか知らずか、美希の意地の張り方もプロデューサーが反論してこないことを知っていて少し甘えているかのような言動まで取るようになってきて、実に良好な雰囲気を醸し出している。元より別に美希はプロデューサーを憎んでいるわけではないのだから、当然と言えば当然かもしれないが。
 結果的にプロデューサーと一緒に街をふらふらと散歩することになった美希は、次第に自分がプロデューサーと共にいることで感じる「楽しみ」を隠しきれなくなってくる。
 それは特に目的なく歩いていてもいろいろ面白い物が見つけられるという自分自身の楽しみ方をプロデューサーが理解してくれたり、自分に合うアクセサリーや衣服をズバリ言い当ててくれたりと、プロデューサーが自分と同じ目線で物事を見てくれるようになってくれたからに他ならない。
 言葉にこそはっきりとは出さないものの、服を選ぶ際ハンガーラックにかかっているハンガーに手をかけ、楽しそうに鳴らしているところからも、だいぶ和らいできた美希の感情が見て取れるだろう。
 だが街角に貼られていた竜宮小町のポスターを見てすぐに意気消沈してしまうあたり、まだまだ完全に吹っ切れたというわけではないようだ。

 一方、今もレッスンを続けている8人のアイドルたちは、抑えていた気持ちが隠しきれなくなったようで、響ややよいはもし美希が戻ってこなかったらと不安がる。
 11話でも響は自分たちがライブをきちんとこなせるのか、ダンスをきちんと習得できるのかといった不満を、他のメンバーより早く口に出すことがあったが、この辺に未だメイン回のない響の内面を知る手掛かりがあるかもしれない。比してやよいの方は10話での成長を踏まえて、自分の抱いている不安な心情を素直に言えるようになっている。
 だが2人の言葉は全員の不安な気持ちをそのまま代弁したようなもので、他のメンバーも2人の不安を簡単に取り払ってやることができない。11話であれほどにポジティブな考え方で皆を引っ張った春香ですら、その不安を払拭することができないのだ。
 11話で示された春香の前向きさ、まっすぐな面の欠点がここにある。春香のどこまでも前向きな信念は、「自分が努力すれば必ず自分の望んだ未来を得られると信じている」ことが根本にある。だがこれは同時に自分が努力してもどうにもならない事態に対しては、根本としての力を失ってしまうことにもなるのだ。
 今の自分たちがどう努力しても、美希の問題は解決しないかもしれない。そもそもどう努力すればいいのかもわからない。皆の気持ちを切り替えさせようとする春香の言動が前話に比して少々弱々しくなっていたのは、何より春香自身が自分の考え方に自信を持てていないことへの表れだったのだろう。
 そんな春香をフォローするかのように皆に声をかけたのは千早だ。発言そのものはAパートでのそれとさほどの違いはないが、その言葉に「美希が戻ってくると信じている」現在の千早の気持ちが付加されたことで、皆も再び不安を取り払って自分たちが今やれることをやると決める。

1316709712021.jpg

 今話の「NO MAKE」を聴いていただければわかるが、表情や言動で露骨に示すことはないものの、千早自身も美希の状況をかなり心配している。しかし「NO MAKE」中であえてその気持ちを春香にではなく雪歩に相談したところに、春香と千早の個性の違いが垣間見えるように思う。
 美希が戻ってくると信じている点では春香も千早も同じだが、千早は信じていても今の自分たちに美希をどうこうすることができないことも分かっているから、現状自分たちができることに専念しようと割り切ることができる。しかし春香であれば、例え有効な策が思いつかなくても美希を連れ戻すために何かしら行動しかねない。それはもちろん春香なりの気遣いだし優しさからくるものであるが、それは同時に事態を余計に混乱させる危険性を孕んでいるのも確かなのだ。
 それを知っているからこそ、千早は春香をフォローする形で今回は自分たちが動かないことを提案し、必要以上の気遣いを春香にさせないよう雪歩に相談したのではないだろうか。相談相手に雪歩を選んだのは、17歳という765プロアイドルの中では比較的年齢が高めで、且つ内緒の相談を落ち着いてやりやすい相手だからというところか。

 ひとしきり散歩を終えた美希とプロデューサーは、とある小さな川の橋の上にやってくる。そこは美希が小学生の頃から尊敬している「先生」の住む場所でもあった。

1316709872554.jpg

 これまたゲーム版をプレイしている方ならご存知の通り、美希の「先生」とはこの川に住んでいるカモのことである。寝たままでもプカプカ浮きながらのんびり生きているカモのように、美希自身も楽に生きていけたらいいなという思いから、彼女はカモを「先生」と呼んでいるのだ。
 先生を眺めながら美希は独白する。美希は以前から両親に「美希のしたいことをしなさい」と言われて育ち、美希自身も以前までは好きなことだけやっていれば思っていた。しかし最近は辛いことや苦しいことがあっても、それでもワクワクしたりドキドキするようなことをしたいと思うようになってきたと。
 美希が最近ワクワクドキドキしたことは、言うまでもなく竜宮小町だった。自分が竜宮小町に入れれば、可愛い衣装を着てステージで歌い踊り、今よりもっと輝くことができるという美希の想いを聞き、プロデューサーはようやく悟る。美希は竜宮小町に入ることそのもの以上に、竜宮小町に入ることで自分が今よりももっと輝けるようになることを望んでいたのだ。
 さしたる目標を持っていなかった美希は、765プロでアイドル活動を続けるうちに曖昧ながらも「アイドルを目指す」目標を見出すようになってきた。このあたりはそれこそ春香の目標に近しいものがあるが、春香と決定的に違っていたのは春香が「トップアイドル」という自分にとっての理想の偶像、逆を言えば物理的な形を成していない抽象的なものを目標としていたのに対し、美希は「竜宮小町」という目の前にある実物の存在そのものを目標の終点に据えてしまったのだ。
 春香に限らずそれぞれのアイドルは、それぞれが理想とする「トップアイドル」になることを目指し、その方法を模索しながら歩んでいる。しかし美希は模索や歩みと言った途中経過をすっ飛ばして、「竜宮小町」という目に見える結果のみを望んでしまったことになる。
 このあたりは「楽して生きていければいい」という、美希が幼少の頃から持っていた観念に拠るところが大きいだろう。途中で苦労してもその先に訪れるであろう結果に喜びを見出しながらも、小さい頃からの考え方が影響して、少し歪んだ考え方になってしまったわけだ。
 だからプロデューサーの説得を受けてもなお、美希はアイドルとしてみんなと頑張っていくことを渋る。自分が頑張っても竜宮小町のようになれるかは分からないから。もしかするとそれは、確定されていない未来に自ら切りこんでいくことへの怖さに起因しているのかもしれない。
 それでもプロデューサーは丁寧に美希を説得し、その心を解きほぐしていく。彼もまた信じているのだ。美希たち765プロアイドルが努力していけば、全員が人気アイドルになって輝ける存在になることを。それは彼女らの毎日のアイドル活動を一番近くで見ていたからこその嘘偽りない気持ちであり、彼がプロデューサーとして活動する上での原動力となっている信念でもあるはずである。
 その嘘のないまっすぐな気持ち、今の美希を受け入れた上でなお美希のアイドルとしての可能性を信じる強い想いは、プロデューサーに嘘をつかれたことでショックを受けていた美希の心にも響いたのだろう。ライブに向けて全員でレッスンしている時のワクワク感やドキドキ感を改めて思い出した美希は、プロデューサーに約束を持ちかける。

1316709997722.jpg
1316710113705.jpg

 1つと言っておきながら3つも約束事を持ちだすちゃっかりさはいかにも美希らしいが、「美希を竜宮小町みたいにすること」「嘘はつかないこと」「もっとドキドキワクワクさせて本当のアイドルにしてほしい」という3つの約束を、プロデューサーはすべて聞き入れる。それはプロデューサーが初めて聞いた、もしかすると美希の中でも初めて生まれたのかもしれない、美希の目指す美希だけのアイドル像が込められていた。
 美希はアイドルを止めず、次のライブまで頑張ると約束する。ライブのその先がどうなるかはわからないと呟く美希からは、未だ自分自身で未来への道を歩んでいくことに戸惑っているようにも見えるが、そんな彼女を支えるためにプロデューサーはいるのだ。美希はアイドルとして頑張り、そんな彼女にプロデューサーが道を指し示す。それが2人の交わした何より大切な約束だった。

1316710147295.jpg

 指切りを交わすシーンは、3話でプロデューサーと雪歩が同じく指切りを行うシーンを彷彿とさせるが、この3話以降、雪歩はプロデューサーに対して強い信頼を抱くようになったことは周知のとおりである。
 実際に今話の「NO MAKE」を聞いても、美希のことを心配する千早に対し、プロデューサーに任せておけば大丈夫と言い切るのは雪歩なのだ。
 犬が苦手な雪歩だからこそ、同じく犬が苦手であり大の男としては恥ずかしい欠点をあえてさらけ出しても、雪歩のために最後まで頑張ってくれたプロデューサーの優しさと思いやりが、雪歩には痛いほど伝わったであろうから、雪歩がプロデューサーに信頼を置くのは道理であるが、同じく指切りを行った美希は、今後プロデューサーに信頼を置くことができるのだろうか。 
 先が楽しみになるシーンではあった。

 紆余曲折あったものの、美希は765プロに戻ってきた。やる気がなくなってしまっていたことを正直に告白し謝る美希を、みんなは暖かく迎えようとするが、千早だけは厳しめの口調で美希に話しかける。

1316710175588.jpg
1316710184522.jpg

 しかし「謝ることよりもまずプロとしてライブを成功させたい」という千早の言葉は、取りも直さず美希をプロのアイドル=仲間として認めているからこその言葉でもあり、千早らしい不器用な美希へのエールだったとも取れる。
 さらに言えば11話終盤、駅で春香と別れる際の千早は「ライブ成功するといいわね」と、まるで他人事のように呟いていたが、今話では積極的に「ライブを成功させたい」という自身の明確な決意を示しているあたり、前話での春香とのやり取りが良い方向に作用したことを窺わせて面白い。
 レッスンを何日もさぼった美希に対して多少怒っていたことを見抜いていたのが、春香1人だったというのもまた憎い演出ではないか。
 憎いと言えば、美希が戻ってきたことを知った伊織が、今までかなり心配していたことを匂わせながら声をかけるところも憎い見せ方だった。
 遅れていたレッスンも再開、1人だけ行っていなかったライブ用衣装の衣装合わせにピンクダイアモンド765を着込んだ美希は、新しい衣装を着て自分が輝いていることを実感し、満面の笑みをこぼす。

1316710253007.jpg
1316710262158.jpg


 前話の感想で美希のことを「目標を喪失した少女」と書いたが、実際に今話で描写された美希は「自分自身が持ちうる目標に気づけていなかった少女」だった。
 自分の心の中にそれが芽生えてきていると漠然とは気づきながらも、それを形にする術を知らなかった少女に対し、そばにいながら少女の変化に気付けなかった男が、少女と向き合い受け入れて手を差し伸べる物語。それが今話のすべてである。
 今話を見ればわかるとおり、美希という少女は傍から見ればかなり面倒な性格をしている。感性や考え方が独特で自由なものであるし、良くも悪くもマイペース、加えて気まぐれな側面も持つから、彼女に合わせて物を考えるだけでもかなりの苦労が伴う。そのあたりについてはゲーム版で彼女をプロデュースした経験のある方ならお分かり頂けると思うが、そんな彼女であるから、他のアイドルたちが当然のように持ち合わせていた「自分なりの目標」に到達するまでにも、ここまでの時間がかかってしまったわけだ。
 しかしプロデューサーはそんな彼女を否定しなかった。美希を美希のまま受け止めて、美希のままで輝ける存在にすることを約束する。だからこそ美希もプロデューサーをもう一度信じ、アイドルを続けることを約束した。
 だがそんなプロデューサーの度量もまた、小鳥さんからのアドバイスがなければ培われることはなかったわけで、そういう意味で今話は美希とプロデューサー双方の成長の物語だったとも言えるだろう。
 今までの話の中で特定の人物が中心に据えられる場合、それは必ずアイドル同士であったのだが、今話では美希とプロデューサーが中心となっており、ここからも他のアイドルとは若干異なる2人の関係性が浮かび上がってくるのではないか。
 衣装を着こんだ美希が最後に満面の笑みを向けた相手がプロデューサーであったろうことを考えると、その笑み自体が今後の2人の関係性を暗示しているようにも見えて、興味深い物がある。

 EDカットはそんな美希の自由さを前面に押し出したものとなった。

1316710276544.jpg
1316710274580.jpg
1316710321096.jpg

 特定アイドルの現実映像や回想映像でない、イメージ映像が使われるのは9話の亜美真美以来だが、美希が内包している既定の枠に囚われない個性を様々なイメージで描出しており、巧いものだと感嘆させられたが、EDの絵コンテ担当が、これまでアイマスシリーズの様々なイラストを手掛けてきた杏仁豆腐先生の手によるものと知って得心が行った。一枚絵のイラストでアイドルの持つ個性を多面的に描写することにかけては、この方の右に出る人もおるまい。
 ED曲の「ショッキングな彼」も、「自分をまだ見ぬワクワクやドキドキのある場所へ連れて行ってくれる人」を内心で待っていた今話の美希に照らし合わせると、実にマッチした選曲と言える。
 ラストカットが「光に満ちた先」へ進む美希という構図になっているのも、今より幸福になった未来を暗示しているようで爽やかだ。


 さて次回。

1316710439750.jpg
1316710433727.jpg

 ついにやってくるライブの時。今まで積み重ねてきたすべてをぶつけた時、彼女たちの運命はどう動いていくのだろうか。
posted by 銀河満月 at 02:57| Comment(0) | TrackBack(17) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月18日

アニメ版アイドルマスター11話「期待、不安、そして予兆」感想

 「アイドルを目指す女の子たちの日常」。この題材をアニメ版アイドルマスターは1話からずっと真正面に捉えて描き続けてきた。その中で幾人かの少女の緩やかな成長も描かれてきたが、基本的な軸はぶれていない。
 だが現状、目指す目標である「トップアイドル」に全員が問題なく邁進できているかと言えば、決してそうではない。
 5話ラストで結成された竜宮小町の3人は地道に活動を続けて人気を獲得してきているが、残りの9人は今一歩というところである。無論彼女らも彼女らを支援するプロデューサーもそれぞれに努力してはいるのだが、それでもなお竜宮小町には人気も実力も追い付いていないというのが現状のようだ。
 そんな状況を打破すべく、決定打とすべき一石が投じられたのが今回の第11話である。今話はその投じられた一石によって俄かに動き出した9人のドラマが、1人のアイドルを中心に据えて描かれた。

 その一石とは「765プロ感謝祭ライブ」開催決定の報だ。
 竜宮小町がメイン扱いとは言え、事務所全体で感謝祭ライブを開くほど765プロの認知度が高いのかは正直疑いを持たざるを得ないのだが(笑)、事務所のホワイトボードを見る限りでは、以前よりかは竜宮小町以外の9人のスケジュールも埋まっており、ある程度は露出が増えてきているのも確からしい。
 そんな事情はどうあれライブである。歌い踊るライブやコンサートこそがやはりアイドルにとっての一番の晴れ舞台、仮とは言えライブ用の新曲もプロデューサーから聞かされ、俄然テンションが上がっていく一同。

1316104243450.jpg

 しかしテンションが上がっただけですべてが上手くいくわけでは無論ない。ライブを成功させるためには地道な努力、すなわちレッスンをこなして歌も踊りも完璧にこなせるようにならなければならないのだ。
 これは今更言うまでもなく、原典であるゲーム版アイドルマスターの根本を成す理念である。どんなに精神状態が理想的なものになったとしても、レッスンによってアイドルの持つ能力を向上させていかなければ、本番において望み通りの結果を出すことはできない。オーディションであれば落選するし、ライブであれば失敗、フェスであれば相手アイドルに敗北してしまう。
 またその逆、つまり力だけ身につけても精神状態がバラバラであったり低テンションであれば、普段通りの実力を発揮することができずにやはり失敗してしまうわけで、その辺のバランスをうまく調整しつつアイドルを育てていくことが、ゲーム版の醍醐味の一つであった。

 さてその理念はアニメ版においても全く変わらない。
 早速ダンスレッスンを開始した9人ではあったが、当初のテンションの高さとは裏腹に、雪歩ややよいはみんなより動きが遅れてしまい、逆に響、美希、真は動きが早すぎたりと、動きはバラバラな状態だ。
 それぞれ能力に差があるのだから当然と言えば当然なのだが、各人のレベルをある程度の水準まで均一にしなければ、複数人でのダンスは実現し得ないのも事実である。
 だが体力的に厳しそうな雪歩、振り付けをこなしきれずに苦戦するやよい(足元に目線を向けていることが多いので、自分の頭でその都度確認しながら動いていると思われる)を前に、コーチから部分的にでもダンスの難易度を下げるべきかと提案される。
 ある事情から決して手を抜きたくないと考えている美希がそれに反対するも、難易度修正も止むなしかという空気が全体を支配してしまう。
 そんな中で声を上げたのは春香だった。練習はまだ始まったばかりだし、まだまだこれからという彼女の意見に千早を始めとした全員も同調、とりあえずその問題は置いておくこととし、チーム分けをして互いをフォローしつつ練習を再開することになった。

1316104375716.jpg

 ここで注目したいのは春香の言動である。アニメ版の春香はよく「楽天的」と称されることが多いようだが、決して根拠のないポジティブ思考に基づいて発言しているというわけではない。
 今回に関して言えば、「練習を始めたばかりなのだから、力をつけるのはまだこれから」という主旨の発言を行っているが、これは言いかえれば「結論を出すにはまだ早すぎる」ということでもあり、発言内容自体はどちらかと言えば理性的な思考の産物なのである。
 ただその場にいる春香以外の人間は全員、その考えに至ることができなかった。目の前の大事に集中するあまり、その先に眠っている可能性にまで目を向ける余裕がなかったのだろうし、それ自体は特段非難されるべきことでもない。
 だがそんな中でも春香だけは未来の可能性に目を向けることを忘れなかった。忘れないというよりも、春香にとってはそれが「普通」なのかもしれない。それについては後半でまた詳しく触れられることになる。
 と、そうしてみんなを盛り上げた一方で、春香自身もダンスに甘い部分があったため、千早と美希に教えてもらう羽目になるあたりは、いかにも春香らしい。

 ダンスレッスンは当面の問題こそ解消したものの、次のボーカルレッスンでは春香や真美がうまく歌えずに注意を受けてしまい、なかなか思うようにははかどらない。
 レッスンからの帰り道、さすがに今後への不安を隠しきれない一同であったが、春香の持っていた飴をもらうことで人心地つくところは、6話でのドーナツ関連のやり取りを想起させる一方、わざわざ自分で作ったドーナツを持参した6話とは違い、そこかしこに売っていそうな何の変哲もない飴を元から所持していたあたりに、「十代の普通の女の子」を描く意図があるようにも見受けられる。
 いかにも脱力しきったという顔の真と美希も素晴らしい。

1316104486992.jpg

 落ち着いたところで話題は試験勉強の話へ。冒頭のアバンでも春香とやよいは事務所で試験勉強をしようとしていたが、彼女らの大半は現在も学校に通っている十代の学生であるから、例えアイドルであっても学生最大の本分と無関係ではいられないのだ。
 今も仕事をしている真っ最中であろう竜宮小町の3人に思いを馳せながらも、改めてやるべきことを頑張ると述べる春香。
 挿入歌「笑って!」をバックに、各種レッスンに勤しむアイドルたち、そしてテスト勉強に励む春香の姿が交互にインサートされる。

1316104560531.jpg
1316104568588.jpg
1316104576615.jpg

 元々の遠距離通勤に加えて毎日の厳しいレッスン、そしてさらに夜遅くまでのテスト勉強と、今の春香を取り巻く環境はなかなかに苛酷なものだ。
 電車の中で立っているにもかかわらずウトウトとしてしまうほどに疲労が溜まってしまっているにもかかわらず、春香は嫌な顔一つせずに自分のやるべきことをこなしていく。
 それらの全てが本人にとって楽しいものばかりであったと断言することはできないが、それでも春香は頑張ることをやめることはない。そこには彼女なりの理由があるのだから。

 しかし疲労そのものはおいそれと解消されるはずもなく、ある日のダンスレッスン中に春香はウトウトとしてしまった挙句にこむら返りを起こしてしまい、さらにはやよいがまたもダンスに失敗してしまった。
 再度プロデューサー達の間でダンスの難易度調整が話題に上がる中、自らの体力のなさを未だカバーできていなかった雪歩は、ライブ出演を辞退すると言いだしてしまう。
 雪歩にしてみれば10話のやよいと同様、自分のために周囲の仲間にまで迷惑が及んでしまうことが何よりも辛かったからこその発言だったわけだが、そんな雪歩をプロデューサー達が話しかけるよりも前に叱咤してきたのは貴音だった。

1316104700408.jpg
1316104719846.jpg

 このあたりは10話での伊織に相当する役回りとも言えるが、叱咤したその内容は、前話とはだいぶ異なっている。
 10話での伊織はたとえ自分が失敗してもそれを受け止められる仲間がすぐそばにいることをやよいに自覚させたが、今話での貴音は仲間との間にあってなお高みを目指すための努力、それに邁進するだけの覚悟を持てと諭してきた。
 かつての伊織が「単なる個ではなく集団の1つであること」をやよいに自覚させたのに対し、貴音は「集団の中にあって個を確立させること」が大切であると雪歩に示唆している。
 集団の中に埋没することなく、かと言って集団の存在を完全に無視して個だけを突出させるわけでもない。そのバランスを取りつつ個としても集団としても力を発揮できる関係性こそが「仲間」なのだ。
 そう考えると、10話において前者の考え方を学んだやよいが、どもったり声を裏返したりしながらも、そして何より自分も失敗している立場でありながらも、雪歩の想いを受け止め励ますシークエンスは、物語上の必然だったとも言える。
 もう1つ特筆すべき点は、貴音の叱咤に続いての真の励ましである。雪歩と仲の良い真からの直接の励ましは、3話に続いてのシークエンスでもあるが、この際の励ました言葉とは「焦らず行こうよ」だった。
 この言葉に「これからも頑張ればきっとうまくいく」というニュアンスが含まれていることは自明の理であろう。つまりは最初に春香が言った言葉の内容に回帰しているのである。結局のところこの段階においても雪歩たちの支えとなったのは、誰あろう春香の言葉だったのだ。
 貴音や真、そしてやよいの励ましを胸に、雪歩はもう一度頑張ることを決意する。みんなの支えを受けて奮起する流れは今作ではすっかりおなじみのものとなっているが、雪歩が再び前向きになったと同時に、春香の足が回復したというのは何とも暗喩的である。
 また今回のやり取りと言い最初のダンスレッスンでのやり取りと言い、プロデューサーやコーチと言った「大人」の面々が、徹底して試練を与える側の立場として描写されているのも特徴的だろう。本来ならプロデューサーはアイドルの側に立つべきなのであるが、それをあえて変えたのはやはりアイドルの少女たちだけで彼女たちならではの結論を出させたかったからだろう。大人が口を出せばすぐに解決する問題だったかもしれないが、それでは本作の基本理念の1つが喪失する。
 本作はどこまでも「アイドルたちの物語」なのだ。
 なお余談だが、貴音の叱咤を受けた直後の雪歩の動き、表情変化、涙の流れ方などは絶品と言ってよいものになっており、まさにアニメならではというところだろう。

 ダンスレッスンを終えた9人は、同じスタジオでレッスンをしている竜宮小町の様子を見ることにするが、彼女らに純粋に憧れる美希以外は、ダンスの腕前以上に彼女ら3人の放っていたアイドルとしての気迫に圧倒されてしまう。

1316104840900.jpg
1316104856485.jpg

 他のメンバーよりも一歩先んじて本格デビューを果たし、そこそこの人気を獲得している竜宮小町ではあるが、無論そこに至るまでの道のりが楽であったわけもない。竜宮小町は今9人が直面している問題やそこから発生したであろう苦悩を乗り越えて、今日の地位を勝ち得たはずなのだ。
 それ故の気迫を目の当たりにしては、萎縮してしまうのも仕方のない話である。しかしこれまた1人、春香だけは萎縮することなく、竜宮小町の姿に未来の自分たちを重ね、早く自分もあんな風になりたいと素直な気持ちを吐露した。
 その気持ちに触れた他のアイドルも、お気楽な考え方だとからかいながら改めて自分たちの目標を確かめ努力する決意を固める。
 「春香の良い意味で楽天的な部分がみんなを押し上げてくれるかもしれない」とは、その場にいた吉澤氏の弁だが、その言葉を横で聞きながら春香を1人見つめていたのは、春香がそういう存在であることに誰よりも早く気付いていた少女だった。

1316104927698.jpg


 ボーカルレッスンがうまくこなせず、1人居残って練習を続けていた春香であったが、そんな春香の前に姿を見せる千早。千早は自ら指導役として春香の歌へのアドバイスを行う。
 千早が春香に対して全幅の信頼を寄せているということは以前に書いたとおりであるが、それ故なのか千早は春香に対してのみ、積極的とは言えないものの自分から声をかけることが多い。それは基本的に1人でいる描写が多かった1話の終盤、曇り空を見上げる春香に対して自発的に声をかけたことからも容易に窺い知れる。
 このへんはいわゆる「はるちは」が好きな人にとってはたまらない描写であろうが、それを抜きにしても2人の友人関係が極めて良好であることが明示されている良いシーンである。
 それを見かけながらも口を挟むことなく2人の自由にさせたプロデューサーの計らいも効果的だった。

1316104978995.jpg
1316104981110.jpg

 そんな千早の指導の甲斐あって歌唱も上達した春香であったが、一難去ってまた一難。今度は電車の乗り継ぎ時間に遅れてしまい、帰宅することができなくなってしまう。
 しかたなく千早の家に泊めてもらうことになった春香は、千早とともにスーパーによって晩ご飯用の食べ物を買うことにする。
 「大抵の食事はコンビニで売っているものとサプリメントで済ませる」と話す千早だが、そう話している今まさに、コンビニではなくスーパーで買い物をしようとしているのは、お客様である春香を気遣ってのことであり、千早らしい不器用な思いやりの発露とも言える。
 そんな話を聞いた春香は千早の家で食事を作ることを提案、材料を揃えて千早宅へ向かう。
 初めて千早の住む部屋に上がった春香が見たものは、およそ年頃の少女が住む部屋とは思えない簡素な光景だった。
 引っ越してきたばかりのように積まれた段ボール箱、そこから取り出されたであろう何十枚ものCDとCDプレーヤーに楽譜、あとはテーブルがある程度の部屋。
 春香がそれらを見て何を思ったのかはわからない。彼女はその時の自分の思いを口には出さず、少し驚きながらも千早とともに料理を始める。


1316105113337.jpg

 料理をしながら静かに会話を進める2人。
 最近は母親を手伝って一緒に料理を作っているという話を聞き、表情を曇らせる千早。彼女の両親はすでに離婚しており、家庭環境は崩壊してしまっていた。
 春香もそのことは知っていたようで、言葉を選びながらどちらかの親と住む気はないのかと尋ねるが、対する千早もまた言葉を選ぶかのように、言葉少なに今は親と距離を置きたいとの気持ちを述べ、そこから千早の心中を察したか、春香は緩やかに話題を2人がかつて出演した料理番組「ゲロゲロキッチン」のことに変えていく。
 完成した料理にしばし舌鼓を打ちながら、ふと千早は春香にアイドルを目指した理由を問うて来た。
 歌以外のことにはあまり興味を持とうとしない千早ではあったが、劇中ではここで初めて他者のことを知り、自分なりに能動的に他者に近づこうとする明確な意志が描かれている。
 春香がアイドルを目指す理由は、「アイドルに憧れているから」という至極単純なものだった。視聴者にしてみれば1話の時点ですでに周知されていることであり、殊更真新しい事実というわけでもないのだが、逆を言えばテレビ番組のカメラマン(と思われていたプロデューサー)という「赤の他人」にさえ簡単に話せるような事実さえも、千早は知らなかったことになる。
 その微妙な認識のズレは、千早が質問をしてきた時の春香の最初の返答からも窺い知れる。もしかしたら春香は以前にも同じような内容を話したことがあったのかもしれないが、その当時の千早にとっては「春香がアイドルを目指す理由」そのものにさして興味を持っていなかったのだろう。春香に対してさえ当初はその程度の関心しか持っていなかった千早が、紆余曲折経て自分から改めて春香に質問するまでになったということを考えると、彼女の確かな成長ぶりを垣間見ることができるのではないか。
 春香は無垢な子供のように瞳を輝かせながら、自分が抱いている「アイドル」への憧れと、自分がアイドルとして仲間たちとともにライブという舞台に立てることへの期待を、本当に楽しそうに話す。

1316105205848.jpg

 この時千早の表情は、春香の「アイドル」に対する憧れを聞いている時はにこやかなものだったが、ライブへの期待に話が移ると若干驚いたような表情へと変わる。この変遷は何を意味するのだろう。
 現状、ライブを無事に開催するには問題が多すぎる状態だ。ダンスにしろ歌にしろ、完全とは程遠い状態であるし、目の前の春香自身もその問題を抱えている張本人の1人である。にもかかわらず春香はそのことに対して不安を抱くよりも先に、みんなと一緒にライブができる未来を夢み、楽しんでいる。今だけを見るのではなく、どこまでもアイドルという夢、皆と一緒に夢をかなえる未来を見据えているその姿勢を、春香はまったく変えていないのだ。
 そして千早は春香のそんな姿勢が、根拠のない楽観的な見方から来ているものでないことも知っている。自分の未熟さを克服すべくたった1人居残って練習を続けた春香。雪歩ややよいにもっと頑張ることで力を付けられると道を示した春香。春香は今を努力すれば必ず自分の願った未来に到達することができると信じているのだ。だからこそ雪歩ややよいもそれぞれの苦手な面を克服できると信じているし、竜宮小町に対しても萎縮することなく共に並び立つ夢を見ることもできる。辛いテスト勉強にだって全力で取り組める。夢のために努力し続ける自分自身こそが、望む未来を迎えられる何よりの根拠となるのだから。
 対する千早はそんな考えは持てなかった。千早にとっては「歌」そのものがすべてであって、「歌手」や「アイドル」になること自体が目標の立脚点ではない。自分が歌と共に生きるにあたって一番行きやすいであろう環境と道筋を選択したに過ぎず、ある意味では極めて受動的な選択であり、そこに自分自身の未来への夢や憧れは存在しないと言っていい。そんな千早にしてみれば、夢をまっすぐに追い求める春香の姿は、いささか単純なものに見えたかもしれない。しかしだからこそどんな負の要素にも屈することなく、他のメンバーさえも引っ張っていく強い力を発揮することができるのではないか。そしてそれは現在の自分にも、恐らく他の誰にも出来ない春香だからこそのものである。
 夢を抱くのは人間ならばごくごく普通のことだ。春香は普通に仲間を信じ、普通に夢を持ち夢に憧れ、普通に周囲を気遣う。春香はどこまでも「普通」の少女であり、そこに嘘や打算は一切ない。しかしただ優しく朗らかなだけではない、彼女が内に秘める強さや力はそんな普通さから生まれてきているのである。千早のあの表情は春香のそんな内面を垣間見、それに多少なりとも憧憬の念を抱いたが故のものではなかったろうか。

 もし春香ではなく別の人物であったなら、親と同居する意志のない千早に対してに何かしら気の利いたセリフが言えたかもしれないし、部屋に上がった時にもただ黙っているだけでなく、今現在の簡素な部屋の状態について問い質したり、まるっきり手を付けてない鍋やザルを引き合いに、「たまに自炊している」という千早の弁に突っ込みを入れることもできたのかもしれない。
 しかし春香は部屋については何も言わなかったし、親のことで複雑な表情を見せる千早に対しては話題を変えることで気持ちを切り替えさせている。それらは春香の千早への気遣いは勿論のこと、気の利いたセリフを瞬時に思いつけるほど大人ではない、年相応の少女だからこその反応でもあったろう。それは当然だ。春香は「普通」の女の子なのだから。春香は普通の少女、普通の友達として当たり前の反応と気遣いを見せただけなのである。
 それは千早が春香に全幅の信頼を寄せる理由でもあった。春香は殊更気を張って周囲に気配りをしているわけではない。彼女にとってはそれが普通、当たり前のことなのだ。だからこそ千早はそんな彼女の心に救われて、今まで芸能界でやってこれたのである。
 テスト勉強の先生役を頼まれた千早が彼女なりの冗談っぽい軽口を返せたのは、そういう背景があったからということもあるのだろう。
 そしてそれは、もしかしたら千早の「将来なっていたかもしれない自分」「こうなりたかった自分」の姿だったのではないか。
 幼かった遠いあの日、あの頃の千早は春香と同じような性格だったかもしれない。残酷な運命の変転がなければ、今もなおそんな朗らかな自分でいられたのかもしれない。そんな思いが千早を春香に引きつけているようにも見える。
 春香の話に小さく、しかし楽しそうに笑う千早の声と重なるかのように映し出される、部屋の片隅に置かれたフォトスタンドの写真を見ると、ついぞそんな風にも考えてしまうのだ。

1316105141485.jpg


 春香が信じたとおり、他のアイドルたちも(一部を除いて)様々な努力を続けた結果、ついにダンスは通しですべてこなすことができるようになり、歌の方も及第点をもらうことができた。
 もう一つの悩みの種でもあった実力テストも、春香・やよい共に良好な結果に終わる。
 努力したからこそ、あきらめなかったからこそ掴めた、自分の望んだ未来。「トップアイドルになる」という大願と比較すれば遙かに規模は小さいものの、確かに自分たちの力で未来を手に入れたわけだ。
 同時に春香の考え方を作品世界そのものが後押ししているようにも見えて、何とも小気味よい。そう捉えると「挫折しかかった雪歩がやる気を取り戻すと同時に、春香の足が回復する」というAパート終盤の展開も、後々の伏線として機能していたと考えられる。8話ですでに示された通り、アニマス世界は基本的には優しい世界なのだ。

 だがこれで順風満帆かと思いきや、他のアイドルたちもプロデューサーも知らない場所で、新たな問題が持ち上がることとなる。
 火種になってしまったのは美希だ。
 美希は6話から今までずっと「竜宮小町に加わること」を目標としてきた。1話の時点では「楽チンな感じで」という若干不真面目な冠詞こそついたものの、アイドルをやっていければいいとごく普通の目標を掲げていたのだが、6話以降はその目標が移り変わってしまっていたのである。
 竜宮小町に固執する理由は現時点では特に美希の口からは語られていない。だが方向性がずれてしまったとはいえ、現在の美希にとっては唯一のモチベーションとなっていたのもまた事実である。
 しかしそんな彼女の思いは勘違いでしかなかった。律子から直接否定された時、美希はようやく悟る。竜宮小町に入れるかどうかの話をしたのはプロデューサーとであって、律子本人とではなかったことに。

1316105388359.jpg

 ずっと視聴し続けてきた方には今更言うまでもないが、6話でのプロデューサーと美希の会話シーン、途中でプロデューサーが電話を始めたにもかかわらず、美希が構わず会話を続けてきたあのシーンでのことである。
 あの場面ではどちらが悪いと簡単に断定することはできない。プロデューサーは皆に仕事を取ってこようと躍起になって周りが見えていなかったが、美希も美希でプロデューサーの現実的な都合(電話中)をさして考えずに、いつもの調子で話を続けていた。そう言う意味では2人とも空回りしてしまっていたと言える。
 幸いにもプロデューサーの方は6話中でその空回りからは脱することができたが、美希はその空回りを今に至るまでずっと続けてしまっていたのだ。
 さすがにショックだったのか、事実発覚後レッスンスタジオに美希は姿を見せず、プロデューサーに送られてきたメールにはただ一言、「うそつき」とだけ書かれていた。

1316105445274.jpg

 ショックを受けているであろうにもかかわらず、文面に一応「プロデューサーへ」と書いた上で、「うそつき」の後に顔文字を付けている辺りがいかにも美希らしいというところだが、事態は文面ほど可愛い物ではないのだろう。
 今話は一見するとさして特徴の見られない(失礼)天海春香という普通の少女の、普通であるが故の夢や目標に向かって進む強さが一貫して描かれた。それは765プロに所属するアイドルの中で唯一、純粋に「アイドルになること」を最初から目標として掲げてきた彼女ならではの描写であったし、夢を持ち、その夢を実現するために努力することが大切であるという、当然且ついざ実行するとなると難しい理念を真正面から描くには、春香というキャラクターが最適であったろう。
 (余談だが春香が普通であるが故に苦悩する場面が、ゲーム本編中で描かれることもあったわけで、普通であること自体が無敵というわけではない。ここら辺にアニメ版が突っ込んでくるのか期待したいところである。)
 そんなアニマスが次に用意したのは、目指すべき目標を喪失してしまった少女だった。目指す目標があるから努力できるし未来に希望も持てる。ではその目標を失ってしまったら?
 次回、美希を通して描かれるのはこのあたりになると思われる。

 EDカットは春香が普通の女子高生として暮らしている日常を活写している。今話は最後まで「普通」であることにこだわった話でもあった。
 学校にまで手作りお菓子を持ちこんでいる描写を見ると、レッスン場にまで飴を持ちこんでいたAパートの描写も納得できなくもないのではないか。

1316105463543.jpg
1316105516912.jpg


 さて次回。

1316105637719.jpg
1316105633750.jpg

 目標を失ってしまった美希が辿り着く先はどこになるのだろうか。
posted by 銀河満月 at 17:27| Comment(0) | TrackBack(19) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月12日

アニメ版アイドルマスター10話「みんなで、少しでも前へ」感想

 アニメ版アイドルマスターが放送開始して、ちょうど二カ月が経過した。今年の初めにアニメ化が発表されて以来、7月の放送開始を今か今かと心待ちにしていた上半期と比して、もう二カ月も経ってしまったかと月日の流れの早さを感じてしまうのは、やはり毎週リアルタイムで放送されるアニマスの出来が優れており、素直に次週の放送を楽しみに待つことができるからだろう。
 多くのアイマスファンを楽しませているアニマスも、今月で第1クールの放送を終了する。どんなアニメでも大体はクールごとに作品の大まかな構成を組み立てるので、第1クールから第2クールへと切り替わるこの時期は、アニマスが迎える一つの節目と言うべき時期でもあろう。
 さてそんな9月放送分の第一弾は果たしてどんな内容になっていたのだろうか。

 年に一度開かれる芸能事務所対抗大運動会。今年は竜宮小町の活躍もあってめでたく765プロの面々も出場できることになったわけだが、のっけから二人三脚で失敗してしまった真と伊織が口ゲンカを始めてしまい、今回もなかなか順風満帆とは行きそうにない雰囲気。

1315499212523.jpg
1315499215526.jpg

 恐らく竜宮小町のリーダー格であり単純に一番存在が知られているであろう伊織と、765プロ随一の運動神経の持ち主である真とを組ませることで、競技での勝利と見た目の華やかさを両立させようという考えがあったのだろうが、それが裏目に出てしまったというところだろうか。
 1話でも似たような描写があったが、アニメ化以前のドラマCDなどでも真と伊織は口ゲンカを始める描写が、他キャラと比較すると多い。元々どんな時でも自分の言い分を絶対変えない伊織と、直情径行な性格である真は口論をしやすい組み合わせなのだが、今回はさらに真が765プロ随一の運動神経の持ち主であり、それ故に運動面に関しては強い自信を持っているであろうことも、余計に2人の口ゲンカの白熱化に拍車をかけてしまっているようだ。
 仲裁しようとした雪歩を、古参ファンには有名な迷ゼリフ「雪歩は黙ってて!」で封じてしまったあたりはニヤリとさせられるが、直後に飴食い競争から戻ってきた響と貴音の白粉まみれの顔を見て、他メンバーはもちろんケンカ中の伊織と真まで一緒に笑ってしまうあたりに、決して平素から仲が悪いわけではない2人の関係性を盛り込んでいるのは相変わらずの手並み。
 雪歩も6話に続いてプロデューサーと問題なく接している様子がさりげなく織り込まれており、3話で描かれた小さな一歩の成長が着実に根付いていることを伺わせている。
 そのすぐ後にはプロデューサーをいじって遊んでいる亜美真美の姿が実に楽しそうに描かれており、この辺は前話である9話での真美の独白を意識している部分もあるかもしれない。

1315499443742.jpg

 ちなみにこのシーンはプロデューサーが性的?な興味に負けてしまった初めてのシーンでもある。5話での水着姿にもさして興味を示していなかったプロデューサーであったが、全くの無関心というわけでもないようで一安心(笑)。

 競技の方はパン食い競争へと進み、こちらはあずささんが出場。飴食い競争で一等を取った響と違い、どうにも足が遅く順位的には最下位になってしまったものの、いつもどおりののんびり穏やかな感想やインタビュー、そして激しく揺れ動く胸によって観客の興味を一身に集めてしまう。

1315499452810.jpg
1315499456861.jpg

 このあたりは8話で描かれたのと近しい内容であるが、その8話では走りにくいウェディングドレスを着てかなりの速度で走っていたのに対し、今回はビリになってしまっている。やはり胸の揺れが激しすぎてバランスを取るのに苦労したからだろうか。
 先程の飴を頬張りながら「あちらに出場したかったです」と呟く貴音も素敵。
 しかしそんなのん気なあずささんを不服そうな顔で見つめる少女が1人…。

1315499498246.jpg


 その一方で真と伊織の口ゲンカはまだ続いていたが、伊織たち竜宮小町は昼のステージイベントの準備をするために離脱した。
 同じ事務所に所属していながらも一歩先を進んでいる竜宮小町の3人との立場の違いを、図らずも見せつけられる形になってしまった9人ではあったが、「負けないように自分たちも競技を頑張ろう」という春香の言葉に、他の8人も俄然やる気を見せる。
 9話での真美の描写に代表されるが、765プロのアイドルは基本的に仲間に対して嫉妬することはない。竜宮小町の3人が一歩先んじていようと、それを我が事のように喜ぶことができ、「いつか自分たちも同じようになろう」と前向きな考えを持つことができるのが、彼女らの何よりの強みなのだ。
 そんな彼女らの強みを知っているからこそ、彼女らの後ろに控えていたプロデューサーも敢えて口を挟まなかったのではないか。4話で担当アイドルのことをよく理解していなかったり、6話で空回りしていた頃から考えると、彼もまたゆっくりではあるが確実に成長している。
 だが「前向きに考える」と言うことは単なる能天気と言うわけではない。彼女らは前向きな考えを持つことはできても、それを維持していけるだけの支えとなるべきものがなければ、と言うより何が支えになっているかをきちんと理解していなければ、いざという時にその考え方を自己の拠り所とできずに瓦壊させてしまうかもしれないのだ。
 今話の後半は、まさにその拠り所を見失ってしまったアイドルが、中心として描かれることになる。

 やる気を出したアイドルたちは風船割り競争に綱引き、騎馬戦などを順調にこなしていく。4話ではバラエティー番組収録をこなすのに苦労していた千早も、内心はともかく目の前の競技に真剣に取り組んでおり、何らかの心境の変化があったであろうことを匂わせている。
 そしてそんな中、美希はまたも秘めたるポテンシャルを開花させ、三輪車競争で大番狂わせの1位入賞を果たした。

1315499585987.jpg

 彼女の独り言からもわかるとおり、彼女は6話でのプロデューサーとのやり取りから、未だに自分がアイドルとしてがんばれば竜宮小町に入れると信じ込んでいる。離脱した竜宮小町を複雑な表情でみんなが見つめる中、1人だけ羨望の眼差しを送っていたことからもそれはわかることだが、同時に危険な目標でもある。
 美希の目標は「トップアイドルになること」ではなく「竜宮小町に入ること」にすり替わってしまっているのだから。
 さてそんな美希の姿をまたも不服そうに見つめている別の少女がいた。彼女の名は「つばめ」。先程あずささんを見つめていた「のぞみ」ともう1人「ひかり」と共に、こだまプロ所属の人気アイドルユニット「新幹少女」を組んでいる1人である。

1315499625834.jpg

 ファンに対してはアイドルらしく愛想を振りまくものの、陰では3人とも弱小事務所である765プロのアイドルが自分たちよりも目立つことを快く思っておらず、嫌悪感を露わにする。
 10話目にして初めて明確に登場した「他事務所のアイドル」であるが、上記一文のみからもわかるとおり今話の敵役としても設定されている存在だ。
 露骨に765プロアイドルを嫌悪するその姿は、言うまでもなく基本的に嫉妬心を抱くことのない765プロ陣営との対比としてのものだろうが、同時に先を目指して進むことを目標としている765プロ陣営とは違い、既に一定の人気を得ているにもかかわらず、その先を見ずに後から追いかけてくるアイドルを見下すことしかしないという点で、精神面における「アイドル」としての成熟度合いを比較しているようにも見える。

 美希たちの活躍もあって、765プロは女性アイドル部門の優勝も狙える位置にまで順位を上げることができた。
 次に行われる仮装障害物競争に出場するのはやよい。みんなのためにも勝たなければと気合を入れるやよいであったが、同じレースに出場する新幹少女のひかりは、そんなやよいを冷ややかに一瞥する。
 見た目からはあまり想像できないが、765プロアイドルの中では運動が得意な方であるやよいは、みんなからの声援もあって途中まで順調に進み、他の出場者が次々リタイアする中でポイントが取れる位置にまで順位を上げていく。
 しかしゴール直前というところでふらついたひかりがやよいにぶつかってきたため、やよいは転んでしまい失格となってしまう。
 自分に落ち度がないとは言えぶつかったことを気にしていたのか、2位入賞を果たしたひかりの元へ向かったやよいはお祝いと謝罪の言葉を述べるが、返ってきたひかりの言葉は全く意外なものだった。

1315499758622.jpg

「優勝、できるといいわね。ま、あんたみたいな足手まといがいたんじゃ絶対無理だろうけど。」

1315499765985.jpg

 唐突に突きつけられた悪意に、やよいは何も言えぬまま立ち尽くしてしまう。
 やよいは基本的には精神の強い女の子である。7話で伊織が述懐していたとおり、どんな時でもニコニコ笑って頑張る子なのだが、同時にその7話の中では、伊織や響に後押しされるまで家を飛び出した長介を探しに行く決断ができなかったり、長介にもしものことがあったらと思わず涙ぐんだりと、やよいの持つ欠点も指摘されていた。
 6人兄弟の最年長としてずっと家庭を支えてきた立場のやよいは、14歳という年端もいかぬ少女でありながら、自分以外の人間に頼ったり甘えたりするという感覚に疎い。だから長介が飛び出して行った時も、まずは現在の自分の立場に従事することを優先し、その場を伊織や響に任せて、すぐ後を追いかけるような真似ができなかったのである。
 そしてさらにやよいは、自分のせいで他人、とりわけ家族や友達に迷惑が及ぶような事態には耐えられなかった。やよいにとっては自分自身が迷惑を被ること以上に、自分のせいで周囲に迷惑を及ぼすことの方が辛いことだったのだ。

 その場にやよい以外の誰かがいて、すぐさまフォローしてくれたのであれば、やよいはそれほど悩むことはなかっただろう。だが不幸にもその場に「やよいの側に立ってくれる人」は1人もいなかった。やよい自身もそんな言葉を返されるとは、それこそ夢にも思っていなかったろう。
 それ故にひかりの向けた悪意だけが、無防備だったやよいの心に重くのしかかってしまうことになる。そしてそれは不幸な偶然によってさらに増幅されてしまった。

1315499769956.jpg
1315499788287.jpg

 「惜しかったよ」「もう少しでしたね」「ぶつからなきゃポイント取れてたぞ」。やよいが戻った時にみんながかけた言葉には、もちろんやよいへの悪意など込められておらず、純粋にやよいの健闘を称えているだけだ。
 しかしその時のやよいにとっては、「自分がみんなの役に立てなかった」という事実を補強している言葉でしかなかった。そしてそれはつまり「自分は足手まといである」と突きつけられた悪意をも、やよいの中でより確かなものにしてしまったのである。
 ひかりに取ってみれば、やよいを確実に貶めるための一言として発した言葉かどうかすらも怪しい、軽い一言だったかもしれない。しかしそれがやよい自身の性格と不幸な偶然とが重なった結果、やよいに取ってとてつもなく重い悪意の塊になってしまったのだろう。
 そしてそれは到底やよい1人で乗り越えられるものではなかった。しかし他人に頼ることに疎いやよいは、誰にも話せず1人落ち込んでしまう。

 思い悩むやよいを横目に、イベント自体はどんどん進行していく。
 ステージイベントへの竜宮小町の出演、チアリーディングに出演しつつ、「転ぶ」という自分の個性を活かして観客の耳目を引く春香と響など、765プロアイドルも種々の場面で活躍するのだが、新幹少女にとってはそれらのことごとくが気に入らないようで、自分たちのプロデューサーに話をつけてもらおうとまでする始末。
 そんなことになっているとは露知らず、765プロ陣営は昼食用の弁当が他の事務所のと比べて貧弱ではないかと突っ込まれて、プロデューサーがしどろもどろになったりと、相変わらずのんびりした雰囲気だ。
 実際には約一名、そんな雰囲気にも浸れず正に苦悩している真っただ中の人物がいるのだが、画面ではその人物の姿を極力映さないことで、人物描写上の矛盾点が発生しないように腐心している。
 さてそんな765プロの陣中見舞いに訪れたのは、同じように今回のイベントに参加していた876プロダクション所属のアイドルである、「日高愛」「水谷絵理」「秋月涼」の3人だった。

1315499972505.jpg

 彼女ら3人は元々外伝的色彩の強いゲーム「アイドルマスター ディアリースターズ」(略称「アイマスDS」)で主役を努めた人物であり、そちらでは既にアイドルとして一定の地位を獲得している765プロアイドルは彼女らの先輩的な存在として、それぞれの物語に絡んできていた。
 「DS」以降は全くと言っていいほど出番がなく、7月に「DS」のコミカライズ単行本の最終巻限定版に付属したドラマCD内で久々に登場したものの、以降の露出は完全に途絶えてしまったため、少なくない数のファンをやきもきさせていたが、そんな中での告知一切なしのアニマス登場である。
 上述のストーリー紹介ではわざと飛ばした(笑)アノ3人が登場した時以上に、驚きと歓喜がファンの中で湧きあがったのではないだろうか。
 今回のアニメ版は既にDSとは全く異なる物語設定となっているため、アニマス世界で876プロの3人がどのように765プロの面々と知り合い、交友関係を築いたのかは不明だし、そもそも「DS」の情報を全く知らない人にとっては、突然出てこられても「誰なんだ?」で終わってしまうであろう。
 これにはもちろんゲーム版に慣れ親しんだファンへのサービスという側面もあるだろうが、しかし同時に彼女らがどんな人物か視聴者が詳細を知らなくとも、彼女らが出てきたというだけで今話のストーリーにおける世界観拡大の一助にもなっている。
 すなわち新幹少女のように、とにかく765プロを毛嫌いする他事務所のアイドルがいる一方、同じ他事務所所属のアイドルでありながら、765プロアイドルと相応の交流を果たしている、仲の良いアイドルもいることを提示しているのだ。
 765プロを快く思わないアイドルもいれば、親しく付き合っているアイドルもいる。よくよく考えれば当然のことなのだが、その描写があるとないとではまるで違った印象になってしまったことだろう。

 876プロ3人の差し入れもあって和やかな雰囲気になったかと思いきや、次の借り物二人三脚の組み合わせがまた伊織と真の2人であったため、2人は午前中の口ゲンカを再開してしまう。
 876プロの面々にまで心配されてしまったそのケンカは競争が開始してもなお収まらず、スタートの合図にも気付かないまま2人は口論を続けてしまう有様だ。
 しかし実際に走りだしたら転ぶこともなく、一応は息を合わせて走っていた点、そして借り物の内容「事務所のイジられ役」を見て、2人とも迷うことなくプロデューサーを連れてくるあたり、根っからの犬猿の仲ではないことに留意する必要があろう。
 だが同時に一歩も引かない頑固な面を持ち合わせているのもこの2人。業を煮やした真がペースを上げたため、合わせられなくなった伊織は真やプロデューサーを巻き込んで転んでしまい、競技は失格、さらに真は膝に怪我を負ってしまった。

 手当こそしたものの、優勝のかかった最後の全員リレーに出られるかは難しい状態になってしまった真。たとえ厳しい状態になっても最後まで頑張ろうと春香が励ます中、貴音が塞ぎこんだやよいの様子に気づく。
 伊織や真に促されたやよいは真実を話すと同時に、今まで抑えていたものが溢れてきたのか泣き出してしまう。
 やよいのことを足手まといなどとは誰も思っていない。それはやよいにもわかっているはずのことだが、それでもなお自分自身への負い目を否定しきれなかったやよいは、その苦悩を結局自分から誰かに吐露することはできなかった。
 たった1人でずっと溜めこんできた辛い思いを吐き出すやよいの姿を目の当たりにした真は、怪我をおしてリレーに出場する決意を固める。

1315500231366.jpg
1315500239393.jpg


 場面変わって競技場のロッカールーム。そこで新幹少女のプロデューサーが765プロに対し、八百長を持ちかけてきた。正確には正面から言葉に出すことなく、765プロ側に遠まわしな圧力を暗に示して気を遣わせようとする姑息なやり口だったが、プロデューサーはそれに一切臆することなく社長に電話をかけ、どうしたいのかと問う社長にはっきりと宣言する。
 「俺はあの子たちに、どんなことであれ手を抜けとは言いたくありません」と。

1315500279031.jpg

 八百長を断られたことに憤慨する新幹少女のプロデューサーであったが、今度はそこに伊織が現れ、新幹少女の所属するこだまプロダクションの親会社の筆頭株主がどこであるかを彼に問いかけ、「圧力」の存在を暗に示した上で「正々堂々とやりなさい」とだけ言って去っていく。

1315500338046.jpg

 直接は言及せず遠まわしに圧力の存在に触れ、気を遣わせることで八百長を実行させようとしたこだまプロのプロデューサーは、自分とまったく同じやり方を伊織に実行されて黙らざるを得なくなってしまったわけだ。
 この「同様の手段でやり返す」やり方は、物語における駆け引きのシーンではよく使われる手法であるが、最初にその手段を用いた敵側が卑劣であればあるほど、同じ方法でやり返されたという皮肉も効き、見る側に痛快な印象を与える。
 伊織の取った手段はまさにこれであり、同時に水瀬グループという巨大な圧力を暗に示しながらも、それを使って勝負自体を決するような真似はせず、あくまでこだまプロ側の裏工作を封じる手段にしか用いていないのは、伊織ならではの矜持というところだろう。
 伊織はあくまでアイドルとして成功することで父や兄を見返したいと思っているだけで、水瀬グループの力を行使すること自体までは否定しない。7話の冒頭で水瀬家のお宅拝見番組にあからさまに便乗してきたことからもわかるとおり、利用できるのであれば積極的に利用するというしたたかさも持ち合わせているのが伊織なのだ。
 だが自分自身の力で事を成し遂げることを何よりも是としているからこそ、権力を直接行使して事態を収束させることは決して行わない。伊織自身の口から「水瀬グループ」の名前が一度も出てこなかった所以であろう。さらに今回に限って言えば、自分だけでなくやよいや仲間たちの力をも信じているが故のものだったのかもしれない。正々堂々と勝負すれば、自分達は絶対に負けることはないと信じているからこその。
 そしてそんな伊織の無言の圧力に自分から屈してしまったこだまプロと比較して、765プロのプロデューサーもまた、プロデューサーとしての矜持を見せつけていた。
 アイドルを輝かせるために働くことこそがプロデューサーの使命。だからこそその輝きを損なわせるような真似を、プロデューサーである自分が実行することはできない。
 思えばプロデューサーは愚直なまでにアイドルのことをずっと第一に考えてきた。6話での空回りもアイドルたちをもっと活躍させてやりたいとの思いが発端であるし、5話での水着姿のアイドルたちに下心めいた感情を一切抱くことなく、アイドルとして人気が出ることを望んでいた。お世辞にも敏腕とは言えないプロデューサーではあるが、そんな彼であったからこその決断だったとも言えるだろう。
 こだまプロの方は圧力を示され、矮小な「小者」に成り下がった。しかし765プロのプロデューサーは同じことをされてなお「アイドルのプロデューサー」であり続けたのだ。
 ついでに言えばわざわざ社長に電話して了解を得、765プロ全体の総意として回答していたのは、企業間のやり取りとしてしまえば、相手側もそれについていちいちお偉いさんの了解を取りつつ交渉せざるを得なくなるわけで、そう言う状況に持ち込むことでこだまプロ側を牽制していたようにも思える。

 そして始まる全員リレー。こだまプロ側との順位はまさに一進一退。抜きつ抜かれつのリレーが展開する中、まだ自分の中のわだかまりを払拭できていないやよいの番が回ってくる。
 前半の障害物競争の時と比べても明らかに精彩を欠いた走り方になってしまっているやよいだったが、追い打ちをかけるかのようなつばめの「足手まとい!」の言葉に、とうとう満足に走れない状態にまで陥ってしまう。
 他のランナーにも抜かれて最下位に落ちてしまい、どうすることもできずに涙をためるやよいだったが、そんな彼女を次のランナーである伊織は「下を向かないで!前を見てちゃんと走りなさい!」と大声で叱咤する。

1315500436661.jpg
1315500441933.jpg

 目の前にはちゃんといるのだ。自分が前を見てまっすぐに進んでいける力を持っていることを知ってくれている友達、例え自分の力が及ばなくともきちんと受け止めてくれる仲間が。大事なのは自分の目を開け、顔を上げて、自分の意志で目の前にいる仲間と向き合うことなのである。
 気力を振り絞ってどうにか再び走り出したやよいからバトンを受け取った伊織は、何とか1人を抜くことに成功し、後のすべてをアンカーである真に託す。
 そこに先程まで口ゲンカをしていた2人の姿はないし、「竜宮小町」と「そうでない者」との垣根もない。あるのは「765プロの仲間」という関係性だけである。同じ事務所に所属してずっと同じ夢を追ってきた者同士、強固な信頼関係がゆっくり確実に築かれてきたからこそ、その仲間が自分の後を、自分の想いを託せる存在であること、想いを自分に託してくれる存在であることがはっきりとわかるのだ。
 自分の出した結果をまっすぐに受け止めてくれる人が、様々な想いを託せる人が、顔を上げればすぐ周りにいる。それにようやく気付けたからこそ、やよいは声を振り絞って「勝ってください!」と真に叫ぶ。リレーが厳しい状態になったのも、怪我をしている真に無理をさせてしまっているのも、自分のせいであることをやよいは知っている。その上で自分の弱さや失態も含めた「想い」や「結果」を真に託し、頼った。涙をためながらの応援はだからこそのものだったのだろう。

1315500451347.jpg
1315500532933.jpg
1315500544351.jpg

 やよいを始め仲間たちの応援を背に受けて、真は最後の力を振り絞って爆走する。
 元より怪我をしていた真は万全な状態ではない。これまでのランナーもあずささんや雪歩など、運動が苦手な方のアイドルは何人かに抜かれてしまっている。やよいの影に隠れてしまっているが、実際はやよい以外にも「足手まとい」になりかねないマイナス要因を持っているアイドルは何人かいたわけであり、状況次第では765プロ最速を誇る真でさえも、その1人になっていたかもしれないのだ。
 しかし彼女らはそんな個人の能力差を「足手まとい」として一蹴するようなことはしない。それはあって当然のものであり、大切なのはそれを受け入れた上で前に進むこと、それをあきらめないことであると知っている。そしてそれは1人では難しいことかもしれないが、仲間と一緒ならきっとできると信じているのだ。
 「1人ではできないこと 仲間とならできること」。本作の根底に流れるテーゼをここでまた改めて打ち出したと言えるだろう。このリレーの場面にかかっている挿入歌が、「仲間を作り仲間とともに歩んでいけばもっと幸せになれる」ことを謳った「L・O・B・M」であったことも、そのテーゼを強く打ち出している証左だろう。
 マイナスの部分さえも認めて否定せず、それでいてなおそれを乗り越えようとする姿勢。9話での真美の独白にも通じる前向きな考え方こそが、765プロアイドルの持つ強さの源ではないだろうか。そんな彼女たちと、相手を否定・拒絶することしかしてこなかった新幹少女との勝負の行く末は、実は明白なものだったのかもしれない。

1315500594307.jpg


 激しいデッドヒートの末、僅差で真は勝利。765プロはめでたく優勝することができた。
 実況アナウンサーからは「テレビ的なことも考えず、空気も読まずによく頑張りました」と揶揄されてしまったが、「DS」に登場する某人物の名言「空気など読むな」然り、先へ進んでいくためにはもしかするとかなり大事なことなのかもしれない。
 優勝カップを受け取った伊織は、例によって直接は言わないものの、勝利の立役者である真にMVPと称してカップを渡す。素直な気持ちを見せることのない伊織に苦笑する真だったが、真は改めて隣にいた少女にカップを渡した。
 それは単に優勝を祝うという意味だけでなく、自分の優れた面も劣った面も含めて仲間に頼ること、託すことの大切さを学び、少しだけ成長した少女へのお祝いの気持ちもあったのかもしれない。
 嬉し涙を流しながら今日一番の笑顔でカップを抱きかかえる少女の姿こそ、765プロアイドルにとっての最良の「結果」だったのではないだろうか。

1315500645499.jpg
1315500689379.jpg
1315500680388.jpg
1315500703271.jpg
1315500726787.jpg

 今話は一見すると876プロのアイドルなども含めた、5話以来のオールスターイベント回に思われるが、実際は765プロアイドルにおける、絵理が言うところの「結束」を、やよいを通して描いた話であった。
 「アイドルたちは常に前向きに歩もうとしている。1人ではどこかでくじけてしまうかもしれないが、仲間と一緒なら互いに支え合っていけると信じている」。
 文章で書くとこの程度にしかならないし、実際3〜6話では「仲間とともに頑張ること」をフィーチャーしてきたわけで、特に今話で初めて打ち出したテーゼというわけではない。
 だが今回のやよいは3話の雪歩や4話の千早と違い、自分の性格や嗜好に起因する悩みを抱いたわけではなく、外的要因、はっきり言えば第三者からの悪意を一身に浴びることで苦悩し、追い詰められてしまった。
 それはこの先、トップアイドルへの道を進む上で避けて通れないことかもしれない。今回やよいに起きたことは、明日別のアイドルに降りかかるかもしれないからだ。
 今までとは異なる経緯の問題に今回彼女たちは直面させられたわけだが、それでもなおその問題を今までと同様に自分たちの力で解決することで、本作のテーゼも改めて明確に打ち出すことが出来、さらには765プロアイドルの中で唯一「他人を頼ること」に対して不器用だったやよいも、素直に仲間を頼れる程には成長することができたのだ。

 そして同時に今話は、今までの話の中で描写された様々な要素をそのままに、あるいは発展させて盛り込んだ話でもあった。
 上述したストーリー紹介の部分を見てもらうと、「第○話では〜」と紹介している下りが多いことがわかると思う。
 過去の話での描写をほぼそのまま再現したり、または過去話の描写を踏まえた上で若干成長した様子を描いたりするシーンが今話では多く織り込まれており、そう言う意味で今話はアニマスの設定面を一度集成した回だったと言えるかもしれない。
 本作のテーゼを今話で再確認したことも含め、今話はアニマス全体の中でとりあえずの区切りをつける話としての役割を担っているのではないか。そしてそれはとりもなおさず、次回以降の話が今まで以上に大きく動き出す可能性をも示唆している。

 だがそれでいて、今話は作品世界を大きく広げた回でもあった。今までは基本的に765プロ内で終始する話ばかりだっただけに、今話では外部からの様々なゲストが登場してストーリーを彩っている。

 今更言うまでもない、今話の敵役だった新幹少女。
 彼女たちのアイドルとしての欠点は既に書いたとおりだが、プロデューサーとの会話から察するに、以前から自分たちの後を追随してくるアイドルを妨害してきた節も窺える一方、今話の中で直接的に行った嫌がらせとしては、やよいに対する嫌味程度しかなく、実力で現在の座を勝ち得たのか、それとも狡い手段で今の座についたのか、その辺が不明なので、キャラに対する印象を決定しづらい連中でもある。
 ただメンバーの1人であるのぞみが真に本気で惚れこんでしまい、そのあたりのコメディタッチな描写が、物語上の敵役としての立ち回りと上手い匙加減で混ざり合っており、いわゆる悪役的な扱いになっていない。
 仲間内に限っては仲が良さそうという点も、通り一遍の敵役とは違う独自の個性を打ち出していて好感が持てる。

1315500166973.jpg
1315500588903.jpg


 そしてついに姿を現した男性アイドルユニット「Jupiter(ジュピター)」。リーダー格の天ケ瀬冬馬は既に2話で春香とニアミスしていたものの、残りのメンバー「伊集院北斗」「御手洗翔太」も加えて、満を持して?の登場である。
 …のはいいのだが、今回も各キャラのセリフはほとんど一言のみ、登場時間も合計で10秒程度という、2話に続いてかなりひどい扱いになってしまった。専用曲「Alice or Guilty」まで使用されたというのに、さすがに一抹の寂しさを禁じえない。短い時間の中で3人の個性と関係性については的確に描写していたけども。
 ちなみにジュピターがステージに登場した際、他のみんなが驚いた表情を作る中、千早だけ不機嫌な表情だったが、2話で春香と冬馬がぶつかった時のことをまだ根に持っているからかもと考えると、それはそれで面白い。
 ただこのジュピター、アイマス2ではプロデュースユニットのライバルとして登場したものの、ジュピターとのライバル対決はあくまでプレイヤーのプロデュースしている対象が1ユニットのみだからこそ成り立った設定であるため、プロデュースを特定ユニットに限定していないアニマスの世界で765プロの面々とどのようにかかわってくるのかは、現時点では全く予想がつかないのも事実である。
 ついでに彼らの所属する961プロダクションの社長である黒井崇男氏も登場。765プロの高木社長と同様に顔が映されることはなかったが、演じる子安武人氏の小物臭漂う(笑)演技は相変わらず絶品であった。

1315499810188.jpg
1315500488529.jpg


 そして既に紹介した876プロダクションの面々。

1315500468737.jpg
1315500613686.jpg
1315500709266.jpg

 先に書いたとおり、ファンサービスと世界観拡大以上の意味はないように思われるが、このまま一回限りのゲストとして終わってしまうのはさびしいと思うのも、ファン心理としては当然のことだろう。
 何とか再登場してほしいものである。


 さて次回。

1315500840898.jpg
1315500835615.jpg

 前述の通り、第1クール終了に向けて大きく話が動き出してくるようだ。期待や不安はともかく、「予兆」とは一体何に対しての予兆なのだろうか?
posted by 銀河満月 at 13:08| Comment(4) | TrackBack(16) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月04日

アニメ版アイドルマスター9話「ふたりだから出来ること」感想

 アニメ版アイドルマスターは今までのところ、基本的には2人以上の人間を中心に据えて、毎回の物語を描いてきた。
 個性の異なる複数のキャラクターを中心に据える構成は、話の展開そのものにバリエーションをつけることができるし、キャラ間の関係性を強調して見せれば個性そのものを膨らませたり、個性に深みを与えることもできるようになるという効能がある。
 ドキュメンタリー形式のために物語そのものが設定されていなかった第1話と、アイドルたち全体を今一度俯瞰して見つめ直す意味合いの強かった第5話を例外として、アニマスは基本的にはこのようなやり方で作られてきた。
 しかし今回の第9話は、そんな今までのやり方とは若干異なる作りとなっている。今話の中心となった2人の人物の個性・キャラクター性にはそれほどの差異がなく、異なる個性をぶつけることによって話を膨らませるような手段を取ることができないからだ。
 その2人とは言うまでもなく、765プロアイドル唯一の双子、双海亜美と真美である。

 ここでいきなりEDの一画像を引っ張ってきてしまうが、僕はこの画像が2人の関係性をある意味で最も強調している画像だと考えている。

ep268149.jpg

 亜美真美の背景に描かれているのは、恐らく母親の胎内にいた頃、臍の緒で結ばれた生まれる前の亜美真美だろう。
 この画の通り、双子は生まれる前から、母親の胎内にいる頃からずっと一緒にいる関係だ。これは一般的な兄弟関係とは決定的に異なる。「生まれた時からずっと一緒」ではなく、「生まれる前からずっと一緒」なのだから。
 生まれる前からずっと一緒だった双子の亜美真美は、生まれてからもずっと一緒に生きてきた。それはアイドルという今後の人生を大きく左右することになるであろう重要な活動でさえも2人で一緒に行っていたことから、容易に想像できることである。
 ずっと一緒だった双子の2人は、しかし亜美の竜宮小町参入により、過ごす時間に微妙なズレが生じるようになってしまった。
 そんな2人は今という時間をどんなふうに考えて受け止めているのか。それを描いていたのが今回の話である。

 冒頭、暗い屋敷の中で竜宮小町の3人は殺人事件に巻き込まれてしまう。真犯人を追いつめた3人と思いきや、犯人はナイフを手にあずささんに襲い掛かり、取り押さえようとしたあずささんは…。すべてが終わり、思い出の日々に別れを告げて新しい人生を始めることを誓い合う3人。

1314895130317.jpg

 というところで撮影は終了。竜宮小町が主演するドラマ「美人姉妹探偵団」の撮影が行われていたのだが、そこに「765プロを震撼させた忌まわしい事件は、この時すでに始まっていた」と、意味深な小鳥さんのナレーションが入る。
 このアバンの部分だけを見てもわかるように、今話は全編サスペンス、ミステリー調で描かれることになるが、ミステリーの常として話のいたるところに回答へ繋がる伏線、またはミスリードやブラフが盛り込まれ、ミステリー調の話としてはかなり堅実な作りとなっていることが、後々になってわかってくる。

 撮影終了後、律子の自動車で一旦事務所へ戻る3人。だが30分程度しか休憩時間は取れないということを聞いて、真美とゲームで遊ぶ約束をしていたという亜美は不満を漏らしてしまう。
 その不満は同時刻、オーディションからの帰路についている真美も抱いていた。仕事とゲーム、オーディションとゲーム、どちらが大切なのかとそれぞれ律子とプロデューサーから詰問された亜美と真美は、迷うことなく「そんなの選べるわけないっしょ」と答える。

dat1314895339169.jpg
1314895355518.jpg

 亜美真美には目の前の選択肢どれか一つだけを選ぶなどということはできない、というより彼女たちの考え方の中には存在しない、と言った方が正しいか。自分のやりたいことは全部やる。子供じみたシンプルな考え方ではあるが、それ故に迷いのない強い意志でもある。
 離れた場所にいても互いに交わした約束のことを考えつつ、まったく同じ考え方で律子やプロデューサーの問いそのものを否定する亜美真美の姿もまた、以降の展開への伏線になっていることに留意されたい。

 そんな中伊織は、撮影終了を記念して自分へのご褒美として、巷で噂のスイーツ「ゴージャスセレブプリン」を事務所に用意していることを話す。亜美はもちろん律子まで若干興奮する中、なぜか浮かない表情を浮かべるあずささん。
 そして事務所に戻った伊織は亜美真美の見つめる中、満を持して冷蔵庫を開けるのだが、なんとそこにあるはずのプリンがなくなっていた。
 しかし今現在事務所にいる面々がプリンを食べたわけではないようで、犯人は不明。そこでこれぞまさに事件!とにわかに元気づいてきたのは、言うまでもなく亜美真美だ。

1314895502393.jpg

 亜美真美はゲームの約束以上に面白そうなこの事件に飛びつき、「セクシー美少女探偵 亜美&真美」として、早速調査を開始する。

 まずは冷蔵庫に近づいた者はいないかを、やけにおっさん臭い口調で小鳥さんに問いただす。

1314895511680.jpg
1314895475500.jpg

 小鳥さんからの情報により、やよいが給湯室の掃除をしていたことを知った2人は、社長室を取調室に見立ててやよいの聴取?を開始。

1314895540443.jpg

 やよいの疑いが晴れると、今度は「甘い」という言葉を口にしていた真に詰め寄る。

dat1314895669426.jpg

 調査開始してからの亜美真美は、まさに目の前の現状を全力で楽しんでいる。もちろん犯人を見つけるという目的自体も決して忘れてはいないのだが、それも含めて2人にとっては「大いに楽しむべきこと」なのだろう。
 2人にしてみればかなり本気でやっていることなのだろうが、そこにかかる間の抜けたBGMが、そんな2人をまるで茶化しているかのようで面白い。
 2話でも少し描写されたが、双子として家族としてずっと一緒に生きてきたからこそのコンビネーションも絶妙で、「色々混じった」セクシー美少女探偵の名乗りから、警察手帳に見立てた自分たちの手帳を出した時の渋い?表情(ちゃんと亜美が寒色系、真美が暖色系の手帳になっている点も細かい)、やよいや真に詰め寄る時の息のあったかけ合いなど、亜美真美でしか表現できないであろう描写がいろいろと盛り込まれていた。
 作詞というがらにもないこと(失礼)をしていたために恥ずかしがって言いよどむ真や、プリンについて亜美真美と対等に会話をしているやよいの様子なども、見ていて微笑ましいものになっている。
 特にやよいの場合、亜美真美は事務所内では唯一自分より年下ということもあって、他メンバーと話す時よりも若干口調がフランクになっており、対する亜美真美もそれを知ってか知らずか、かなり遠慮のない言葉をやよいに返していて、このあたりで3人の関係性が窺えるのが興味深い。

 真からの情報で雪歩が伊織にプリンのことを話そうとしていたことを知った矢先、ビルの中に雪歩の悲鳴が響く。
 雪歩は給湯室で何か強烈なショックを受けたようで、「ひび…」という言葉を残して気絶してしまう。

1314895725806.jpg

 その言葉から犯人は響ではないかと当たりをつけた2人だったが、タイミング悪く竜宮小町は次の予定であるラジオ出演のために、事務所を出なければならなくなってしまった。仕方なく亜美は後を真美に任せて出かけ、真美はプロデューサーを連れて響と貴音のいるダンスレッスン場へ向かう。
 自動車の中でも張り込みと称してわざわざあんパンとビン牛乳を買ってくる真美。響を捕まえる気まんまんの真美だったが、急に何を思い立ったかカーラジオのスイッチを入れる。
 そこから流れてきたのは、亜美たち竜宮小町が出演しているラジオ番組だった。

 こんな時でも忘れることなく亜美の出演しているラジオ番組を聞こうとする真美。それは竜宮小町結成以降、離れて行動することが多くなってしまった真美の、離れていてもなるべく亜美と一緒の時間を過ごそうという思いもあったのかもしれない。
 そんな真美はプロデューサーからの「亜美と一緒に遊ぶ時間が減ってつまらないか」という質問に、正直に「つまんない」と答えた。
 生まれる前からずっと一緒にいた2人、生まれてからもずっと一緒にいた2人、だが今は一緒にはいられない。デビューしたての竜宮小町にとっては今が大事な時期であるということを、子供なりに理解していながらも、それでも一緒にいられなくてつまらないという気持ちを隠さない真美。
 良くも悪くも正直な性格、と言えないこともないが、真美という女の子の真骨頂はこの後に続くセリフで象徴されるだろう。
 つまらないという素直な気持ちを吐露しながらも、真美はすぐ後に「だから真美も超売れっ子になって、亜美と一緒に仕事できるようになる」と宣言する。

1314895944994.jpg

 ずっと一緒にいた亜美と一緒にいられなくなった現実。しかし彼女はそれについて悩んでいるわけではない。なぜなら彼女はその悩みを悩みとして受け止めていないからだ。悩みの原因となる今現在の状況を改善し、自分が望む状況に持っていくための自分なりの手段を、とっくに見つけていたのである。
 これが真美の本質だろう。冒頭の車中における亜美真美の発言にも通じるシンプルな考え方であり、そこには精神的に未熟な子供ならではの安易な発想という側面も確かにある。しかしだからこそ余計な迷いを生じさせることなく、そこに全力で取り組むことができる。そうすることで今現在を楽しみ、その先にあるものも楽しめるようになるのだ。
 真美は常に全力で、本気で楽しもうとしている(「真面目に」とは必ずしも言えないことに注意)。そんな彼女にしてみれば、オーディションとゲーム、どちらかを選ぶことなどありえないことなのだ。両方楽しめることなら両方楽しんでしまえばいいのだから。
 亜美と一緒にいられないつまらなささえも楽しみに変えようとする、旺盛なまでのポジティブシンキング。これこそが真美の持っている強さ、そしてアイドルの資質なのではないだろうか。

 そしてそれは亜美の方も同様だ。一緒にいられなくなったことについて、今話中で直接思いを述べているのは真美だが、亜美の方も真美と一緒の時間を大切にしていることがわかる描写がラジオ番組内で描かれる。具体的には亜美がドラマの内容を説明している時だ。
 亜美は自分でドラマの内容を説明していくうち、ドラマの内容と現在765プロで起こっている事件の内容とが、ぴたりと一致していることに気づく。
 一方の真美が、ダンスレッスン場を30分以上も前に出たという響を探して事務所に戻ってくる中で、ラジオ収録スタジオに姿を見せた響を目の当たりにした亜美は、ドラマの内容どおり、第一の犠牲者(雪歩)が発した名前の人物(響)は真犯人ではなく別にいると察し、思わず収録中に真美に向って「逃げて!」と叫ぶ。
 このシーンでは単に思わず声を出してしまっただけかもしれない。しかし真美が自分の出ているラジオを聞いていてくれるであろうことを知っていたから、そう信じていたからこその行動だったのではないかとも思える。
 真美がラジオを聞くことで亜美と一緒の時間を過ごそうとしたのと同じように、亜美は真美がラジオを聞いてくれていると考えることで、2人一緒にあろうとしていたのではないだろうか。
 片や聞かせる立場、片や聞く立場。普通に考えればどちらかがどちらかに不満や嫉妬心を抱いてもおかしくはない関係だ。しかしこの2人はそんなことは考えない。いや、もしかしたらチラッとぐらいは考えるのかもしれないが、それ以上に「2人で一緒に過ごす、楽しむ」ことを大事に考えているのだ。
 亜美は今のところ順調に売れていっている竜宮小町の1人、真美は未だそれほど売れていないアイドルと、2人の客観的な立場はずいぶん変わってしまっている。だが2人はそんな差異を意に介さない。今現在も楽しんでいるし、また2人一緒に仕事ができるようになれば、もっと楽しめることを知っているのだから。
 亜美にとっての真美も、真美にとっての亜美も、両方とも今も昔も変わっていない、お互いに等価な存在のままなのである。

 さて、亜美の「逃げて!」という言葉を聞いた直後に何者かに押さえつけられてしまった真美だったが、その人物は貴音であり、雪歩から聞かされてゴキブリ退治をしているだけだった。
 雪歩はゴキブリを見たために悲鳴をあげて気絶し、壁のひびからゴキブリが出てきたことを差して「ひび」と言い残していたのである。プリンのことも、入っていた箱を落としそうになったので、それを伊織に話そうとしていただけだったらしい。
 これで残りの容疑者は春香、千早、美希の3人のみとなったため、亜美はそれこそドラマのキャラクターそのままに、容疑者を罠にかけることを提案する。
 と言ってもその罠の内容は、ゴージャスセレブプリンを模した被り物やらを使って脅かすという、何とも子供っぽい内容であったのは御愛嬌というところか。むしろ短時間に衣装を含めた小道具をきちんと作れたあたりに驚くべきだろう(笑)。
 子供っぽい罠ではあったが春香には特に効いたようで、戸惑うだけの千早やマイペースぶりを崩さない美希と違い、今話で随一のリアクションぶりを披露してくれている。こんな時にも「転ぶ」という自身のアイデンティティを盛り込むその姿勢は、さすがと言わざるを得ない。

pa1314897143630.jpg
pa1314897184424.jpg

 そしてそんな中、被り物を見ただけで「ゴージャスセレブプリン」だとわかった美希こそが真犯人だと詰め寄る亜美真美。そこで何か捻ったことを言うかと思いきや、美希はあっさりと自分が食べたことを認めてしまった。

 午後の765プロを襲った不可解な事件は、こうして幕を閉じたのである…が、美希が勝手にプリンを食べてしまった理由を聞いて状況は一変する。
 美希はあらかじめ冷蔵庫に入れておいた「イケイケファンシーゼリー」を食べようとしたものの、誰かが先に食べてしまっていたためにプリンの方に手を出してしまったというのだ。
 そしてなんとそれを朝に食べてしまっていたのは亜美真美だった。今回の事件のそもそもの原因は亜美真美だったのである。

1314896344593.jpg
www.dotup.org1974062.png

 この辺は亜美真美の持つ大きな個性であるトラブルメーカーぶりが如何なく発揮されているが、これもまた「全力で遊んで楽しむ」亜美真美のやり方と通底している。彼女らの遊びは2人だけのやり取りに収まらず、知ってか知らずか周囲の人々を否応なしに巻き込んでいく。それほどに2人の「楽しみたい」「遊びたい」という気持ちは強いものなのだ。
 互いに同じ気持ちの2人が共に遊んで楽しむことで、2人の持つパワーがより大きなものとなって広がり、それ故に周囲をも巻き込んで自分たちの楽しめる「遊び場」に変えてしまう。そしてそれは亜美と真美、2人が一緒にいるから出来ることだと、何よりも自分たちが知っているのである。
 そもそも亜美真美は1話の時点で、「楽しいことはいっぱいあった方がお得」「みんながいれば楽しいことしかない」との言を残している(宿題は楽しくないようだが)。みんながいればもっと楽しくなることを、理屈ではなく感覚で理解できているのは、2人でいることの楽しさを幼い頃から知っていたからなのだろう。生まれる前からずっと一緒だった双子の亜美真美がそれを知っているのは、むしろ当然のことと言えるのかもしれない。
 もちろん時には今回のように失態を演じてしまうこともあるだろうが、それさえも2人は楽しんでしまう。そういう強さこそが2人の良いところだということは前述したとおりだが、それもまた2人一緒であればこそのものなのではないか。
 そんな2人を象徴する意味で、ED曲を「黎明スターライン」としたように思える。たとえ時間や空間を超越してもなお、周りを巻き込んで目の前のことを楽しむ2人の姿勢は変わらない。ED映像は2人のそういう部分がしっかりと強調されていた。

dat1314896374476.jpg
1314896455354.jpg


 そしてそんな2人の気持ちを知っていたのはプロデューサーだ。もしかしたら律子でさえ知らないかもしれない双子の気持ちを理解していたからこそ、ミーティングをやるからと叱りつける律子を宥め、せめて今日はと亜美真美の好きなようにさせた。
 これは同時に、4話のラストでプロデューサーが独白した「みんなのことをもっと知らなきゃいけない」に対応した結果でもある。プロデューサーとしてアイドルを理解し、アイドルのことを考慮した上での判断だったわけだ。
 ここで始めて律子とは異なる、プロデューサーの「プロデューサー」としての腕を発揮できたのではないだろうか。

 と、ここで物語は終わるかと思いきや、意外?な真相が明らかになる。美希はプリンを一つしか食べておらず、残り全部を食べてしまった人物が別にいたのだ。
 すでに10日目に入ったダイエット生活、一番辛い時期を迎えていたその人物は、冷蔵庫に入っていたプリンに魅了され、無意識のうちに手を出してしまう。はっと気付いた時には遅く、すべてのプリンを平らげてしまっていた。
 プリンのケースをゴミ箱に捨てたその人物は1人呟く。「さようなら、ダイエットの日々」と。

1314896516364.jpg
www.dotup.org1973755.jpg

 そう、本当の犯人はあずささんだったのである。


 この真実を知っていると、冒頭からの伏線からミスリードに至るまで、ほぼすべてがかっちりと一本の線で結ばれることがわかる。
 冒頭の小鳥さんのナレーションからして、確かにその時点であずささんはプリンを食べてしまっていたから、事件自体は始まっていたと言えるし、事件発覚前、車中で1人微妙な顔を浮かべていたのは、その事実を正直に言えない後ろめたさがあったからだろう。それは事件発覚後はほとんど事務所に顔を見せていないことからもわかるし、亜美真美の仕掛けた最後の罠や、ゼリーを食べた亜美真美を追いかけるアイドルたちの中にあずささんが入っていなかった理由も明白だ。
 さらに言えば冒頭のドラマでは事件を終わらせる役を演じていたあずささんが、現実の事件では事件の発端となる役割を担っていたのも、一種の対比と呼べるかもしれない。
 ちなみに亜美真美の一番最初の推理「ここにいない誰かが犯人」というのも、ばっちり正解していたわけである。
 本来その場にいるべき人間が1人だけいなかったのだから。

dat1314895439298.jpg


 ちなみにこの後あずささんがどういった行動を取ったのか、具体的には謝罪したのかどうかまでは描かれていないが、真犯人は別にいるということを伊織が知ったわけでもあるし、恐らくはそう間を置かずに謝ったことだろう。
 今回の話の流れでそこまで見せてしまったら冗長になる恐れは十分にあったし、その辺は見た人が各々で補完すればいいことではないかと思う。

 今話を端的に表現するなら、亜美真美というトラブルメーカー的要素を持つキャラクターが、ひたすら遊びまくった話と言える。
 亜美真美の立ち回り方自体がコメディタッチであるため、今話はコメディ回、ギャグ回とされる傾向があるようだが、個人的にはそのどちらとも少し違うように思う。
 時に真面目に、時におちゃらけたりしながらも目の前のことには全力でぶつかり、子供なりに考えて行動し、話を展開していくことで事態を収束させる。
 これは古き良き時代のジュブナイル、または児童文学の体裁ではないだろうか。具体名を挙げるなら「ズッコケ三人組」シリーズのような。亜美真美が画面内で縦横無尽に活躍する様は、まさに「教訓色を廃し娯楽に徹した児童文学小説」そのままのように思える。
 と言っても今話では前話とは違い、真美の視点を通してきちんと亜美真美の成長が描かれている。
 ただ今話の中では成長してはいない。亜美真美は今話の時間軸を迎えた時点ですでに一回り成長していたのだ。
 前述の「だから真美も超売れっ子になって、亜美と一緒に仕事できるようになる」という真美の言葉、これこそが何よりの成長の証と言える。2人は常に一緒にいられなくなった現実に対し、どう対応すべきかを今話の物語より前に、恐らくは自分たちだけの力で見出していた。それこそが彼女たちの成長なのである。
 今話の視聴者は「成長する亜美真美」ではなく「すでに一歩成長した亜美真美」を見ることになったわけだ。それに一抹の寂しさを覚えなくもないが、自分の目の届かないところでも子供は着実に成長していくもの。かつてそれを如実に示したのが、ゲーム版アイマス1から2への流れの中で、身体的に大きく成長した亜美真美だった。
 ゲーム版での身体的な成長を画面のこちら側にいる「プロデューサー」が直接知ることはできなかったし、今回のアニメ版における精神的な成長にもプロデューサーは当初気づいていなかった。だがそれでいいのではないかとも思える。子供は自分自身の内にある力で成長していくものなのだから。
 成長した点と未熟な点の双方を描きながらも、決して現在の亜美真美を否定しない健全なアニマス世界。これもまた古き良き時代のジュブナイルに通じるものがあるように思える。

 そして今話、正確に言えば今話に至るまでの7、8、9話の中で、それぞれの中心人物とは別に、明示的に描かれたものがある。
 それは竜宮小町の「バランス」だ。
 6話で「竜宮小町のメンバーにこの3人を選んだ理由は?」と聞かれた律子は、「バランスの良さ」と答えていたが、それがどういうことを示しているのかは説明されていなかった。
 それに対する具体的な描写が7〜9話の中に込められていたのではないか。
 7話では長介というその日まで会ったことのなかった一般人を厳しく、そして優しく諭す伊織、8話では自分にそんな意識がなくとも行く先々で小さな幸せを振りまいたあずささん、そして9話では周りの人々を強引に巻き込んで遊びまわる亜美と、それぞれの話の中で竜宮小町のメンバーが、各々のやり方で周囲の人々に影響を与えていく姿が描かれている。
 人々の注意をひきつける力、それは大勢の人たちからの視線を絶えず浴び続けるアイドルにはなくてはならないものだろう。その力を現時点で強く発揮できる人物を、律子は選抜したのだろう。
 そんな律子にしてみれば、無自覚に多くの人をひきつけるあずささん、強引に周囲の人を引っ張りこむ亜美、そしてそんな2人の強い個性を程よく持ち合わせた伊織をメンバーとして選んだのは、自明の理だったのかもしれない。
 それぞれ人をひきつける力を持ちながら、それを発揮する手段も自覚の度合いも異なる3人だが、そんな3人が1つのユニットを組んだ時、それぞれの個性が絡み合って硬軟織り交ぜた魅力を発揮し、大勢の人たちの耳目を集めることに繋がる。それこそが竜宮小町メンバーの持つ「バランスの良さ」なのではないだろうか。
 思えばゲーム版では竜宮小町はゲーム開始時点ですでに結成されており、結成に至るまでの具体的な経緯を知ることはできなかった。
 それを承知した上でのアニメ制作陣なりのアンサーが、7、8、9話の三つの話の中に込められていたように思えるのだ。

 今話は久しぶりの全アイドル登場回でもあったが、やはりモブの集団よりはアイドルたちが全員集合している方が、画的に華があっていいね(笑)。
 ただ冒頭から全員が登場していたわけではないため、登場時間的に割りを食ってしまったアイドルが若干名出来てしまったが、さすがにこれはどうしようもないだろう。
 演出面では人物を映す際にはアップを多用し、引きの画面ではあまり人物を画面内に入れないように工夫されている。人物ばかりをアップで映し、その周囲の空間をあえて描写しないことで、見る者に圧迫感を与えているのだが、それによって大事な引きの場面におけるインパクトもより深めることができるのだ。
 Bパートでの張り込みから真美が事務所に戻るまであたりは、カメラの向きを若干斜めにし、登場人物や視聴者の不安感を煽る見せ方がなされている。

www.dotup.org1975913.jpg

 演出的には真面目にミステリー調をやっているのだが、それだけに亜美真美を中心とした人物のいつもどおりのやり取りが行われているというミスマッチ感覚が、今話に独特の味付けを施していると言えるだろう。

 個人的に好きな画はこれ。

www.dotup.org1974046.png

 真の座り方が男前すぎて困ってしまう(笑)。


 さて次回。

1314896639650.jpg
1314949397665.jpg


 アイドル大運動会のようなものに参加するようだが、とすれば全員参加のイベントとしては3話以来のものになる。
 あと4話で1クールが終了するということもあり、そろそろ何かしらの節目を迎えることにもなるだろう。
 次が全員回になるのか、それとも特定の誰かがメインの回になるのかはわからないが、まず期待すべきなのはこれだろう。

125764.gif

 まったくもって素晴らしい。10話が非常に楽しみになってきてしまうね。
posted by 銀河満月 at 21:54| Comment(0) | TrackBack(14) | アニメ版アイドルマスター感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。